沼田vs中央中等
スクイズを決めてベンチへ戻る小野里君
7点リードを一挙に追い上げられて冷や汗の沼田、後半勝負で何とか逃げ切る
公立校対決は、県内初の中高一貫教育システムを導入している中央中等と、伝統の群馬沼田という対決構図。渋いカードながら、県内のコアな高校野球ファンにとっては見逃せない試合といってもいいであろう。
中央中等は、現在のような中高一貫となる以前の群馬中央時代に一度、甲子園出場を果たしている。その後、学校のシステムそのものも必ずしも野球部活動にとっては追い風ではない状況でもあった。昨夏のチームは3年生が二人だけだった。それでも松本稔監督が、試行錯誤しながら取り組んできていた。そして、今年の選手たちは試合経験が豊富なだけに今年のチームにはそれなりの手ごたえを感じているようだ。
これに対して前橋、筑波大で後輩に当たる群馬沼田の濱田豪監督は、昨夏は初戦で前橋育英にリードしながら後半に逆転されたことを学習材料として、後半勝負に耐えられるチーム作りを目指してきた。
ところが、この試合では6回表までに7点を奪った群馬沼田。初回は二死走者なしから大橋君、高橋智君の連続二塁打で先制。2回も9番金子君と綿貫君の連続三塁打などで3点を挙げ、5回にも連続長打で加点。6回に7点目を挙げてコールドゲームペースで進んでいた。
しかしその裏、一気に状況が変わった。群馬沼田は一死一、三塁で重盗を仕掛けられたかと思い、捕手が送球をためらったものが、思わぬ方向へバウンドしてしまうということで1点を失う。そこから、7番内田君の三塁線を破る二塁打など5安打と、3番吉田君のライトオーバーへの三塁打で1点差となって試合の行方そのものが分からなくなった。
沼田・山口君
それでも、群馬沼田の山口君は球数も多くなったがよく辛抱して投げた。
そして、9回に高橋智君の安打と高橋一君のレフト線二塁打で1点が追加され、結果的にこれが決勝点となった。高橋智君はこの試合、5打数5安打二塁打2本で打点2。4番打者としてチームを牽引していた。
試合後は、群馬沼田の濱田豪監督もさすがに疲れた様子だった。
「全然勝った気がしませんよ。よく勝てたなぁというのが正直なところですね。普通だったら、必ずひっくり返されている試合です。まあ、山口がよく投げたということなんですが…。7対0のままということはないだろうと思っていましたけれど、せめて7対3くらいじゃないと」と、音もチラリ。
ただ、継投も頭をかすめたものの、夏を見据えた中ではエースで厳しい局面を凌いでいくという経験も必要だろうという判断もあったという。そして、「やはり、松本先輩の作るチームは、集中が違います。いつも、勉強させられています」と、甲子園で史上初の完全試合も達成している先輩を称えていた。
その松本監督は、あと一歩ひっくり返し切れなかった展開だったが、むしろサバサバしていた。
「面白い試合だと思ってもらえました? それならば、よかったです。ここ(ベスト8)まで来て、コールドじゃどうしようもないですからね。
一挙6点? 僕はいつも試合中はあまり指示などはしないのですけれども、風に乗って打線も乗っちゃったんでしょうかね」と、相変わらずの松本節は健在だった。
もちろん、強風だったこともこの回に限っては中央中等に作用していたところもあったような打球もあった。しかし、こうした爆発力、一瞬の集中力は中央中等の見せ場と言ってもいいものである。選手個々の力としては正直、決して高いものではないが、毎年中堅以上の結果を残してくる中央中等。夏へ向けて、今年も松本マジックは健在であるとみた。不思議なチームとして、旋風を巻き起こしそうな匂いは十分である。
(文=手束仁)