試合レポート

東海大望洋vs成田国際

2013.07.22

ミスの裏に隠された戦略

 そのプレーを見ただけでは致命的なミスだったかもしれない。
 しかし、そのプレーに隠されている積極的なプレーは、伏兵が王者に勝つためには必要だった。

 春の県大会王者・東海大望洋成田国際を破り、4回戦を突破した。

 スコアからしても6対1で東海大望洋の完勝だったが、試合の中で垣間見えた、伏兵・成田国際が演じようとした「挑戦」的な戦いぶりは一歩間違えれば、波乱のにおいがした展開だった。

 東海大望洋ベンチのあまりにもセオリーに徹した作戦と成田国際の積極的な姿勢が試合を面白くさせていた。

 1回裏、成田国際の先発・春山将志は、東海大望洋の先頭・志田洋樹にいきなり死球をあて、不安な立ち上がり。2番・梅澤孝弥に対しても、ボール2球が高めに浮いてしまうほどで制球がばらついていた。一気にたたみかける展開ではあった。

 ところが、東海大望洋は送りバントを作戦に選んだ。結局、このアウト一つで春山は落ち着き、この回のピンチを切りぬけた。2回裏にも、東海大望洋は先頭の久保山隼人が左中間を破る二塁打で出塁するも、犠打のあと、スクイズを失敗した。

 3回裏、東海大望洋は先制点を挙げるのだが、戦いとしては成田国際の方が王者に見えるほどだった。

 というのも、この回、東海大望洋は先頭の志田がセンターオーバーの三塁打で出塁、2番・梅澤も四球で歩いて1、3塁と攻めたてた。ここで、成田国際は三塁走者を無視して、前進守備をとらずに、併殺を狙いにいく布陣をとった。この作戦が見事に成功し、併殺を成立させたのだ。

 無死走者、一、三塁。

 ややもすると、ビッグイニングを招きかねない展開を、大らかな作戦で1点で済ませたのだ。

 東海大望洋は先発の山田雄太の出来が良かったから、成田国際打線を封じ込めていたが、試合展開は互角だったといってよかった。東海大望洋は3回で3安打5四死球を得ながら、併殺の間の1点しか上げられなかったのだから。

 さらに、東海大望洋の拙攻は続く。

 4回裏、走者を出しながら送りバントの失敗で併殺打。5回裏は、二人の走者を出したものの、5番・仲沢和音がセカンドゴロ。中沢は相手の守備が一塁に送球してきたにもかかわらず、一塁を駆け抜けずにベンチに引き返してしまった。このシーンは、試合展開ほどに得点を挙げられない東海大望洋の苛立ちを示すシーンといえた。

 そして、6回裏、問題のプレーはここで起きた。


 東海大望洋は、一死一、二塁と攻め立て、9番・山田が三塁に当たりの弱いゴロ。またも併殺成立かと思われたが、成田国際の三塁手・高木優太の送球がややそれて暴投となる。これで1点を追加し、走者をためて、一死満塁から2番・梅澤が走者一掃の適時三塁打。一気に4点を奪った。

 併殺を取れていたなら、試合展開は別物になっていたかもしれない。
 だから、致命的なミスに捉われてもおかしくはない。

 しかし、ここは成田国際の守備陣が少しギャンブル気味だったことも忘れてはいけない。

 三塁手の高木はボールをつかんですぐさま送球し、二塁手の西谷一弥も丁寧に捕球するのではなく、併殺を狙いにプレーどの速度を上げた。これは、選手を責められない。彼らは、レベルの高いことを目指していたのだ。

 そもそも、これまでの展開だってそうだった。2回裏のスクイズを外した判断にしても、2つの併殺打にしても、成田国際は、常にレベルの高いプレーで王者に挑み、5回を1失点に抑えていたのだった。ミスは出たが、これが彼らの目指してきた戦いだった。

 8回表に、成田国際は1点を返す。

 一死から途中出場の藤原啓夢が内野安打で出塁すると、盗塁を仕掛けた。点差を考えれば無謀な策だが、積極手にしかけることで状況の打開を図ったのだ。そして、7番・斎藤一真の適時打で藤原は生還した。

 実は、成田国際は攻撃面に関しては監督が指示を出さず、選手の判断に任せているそうだ。守備中はベンチ前に姿を現す田口富一監督は、攻撃中、ベンチの奥に引っ込んでしまっている。つまり、彼らは、状況の打開を自らの意思で行ったのだ。

 この回の攻撃は1点に留まり、結局、6対1で東海大望洋が制する。確かに、東海大望洋は、中軸の破壊力や先発した山田など、ポテンシャルの高い選手たちで、圧倒したかもしれない。 しかし、果敢に攻めて状況を打開しようとした成田国際の戦いぶりには、一つの光を見た気がする。

 行動を起こすことで人生は好転していく。

 成田国際の戦いぶりは、まるで生き字引のような、そんな野球だった。

(文:編集部)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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