九州国際大付vs日本文理
九州国際大付ナイン
「九州国際大付ナインの戦う姿勢」
三塁側アルプススタンドへと向かう、九州国際大付ナイン背中を見て、目を奪われた。
今大会が震災による自粛ムードがある中とはいえ、応援団への静かな挨拶へ向かう淡々とした姿勢はベスト8一番乗りを決めたチームには到底、思えなかった。
振りかえると、今大会の九州国際大付の戦う姿勢には心を打たれる。
1回戦の前橋育英戦。大会記録となる1イニング3本塁打を含も、計4本塁打が出て大勝したが、スタンドにアーチを架けてダイヤモンドを回る彼らの姿は実に淡々としていた。
ガッツポーズがなく、ネクストバッターとのハイタッチさえもない。
むしろ、制御しようという姿勢が個人で見られていた。
「ガッツポーズについては、日頃から若生監督に言われています。試合というのは、自分たちだけではできないので、相手に敬意を表するということ。自分たちがされて、嫌だなと思うことをしないと普段から心がけてきました。今大会は震災の中で開催された大会。被災者の方が見ている。苦しんでいる方がいるのに、自分たちが嬉しいからといって、呑気にガッツポーズをするのは行けないと思うので、いつも以上に意識しています」
主将で4番を打つ高城 俊人が説明する。
彼らの背中から感じる無言の強さには、そうした背景があったのだ。
とはいえ、彼らの姿勢には、相手への敬意や被災者への自粛の想いというのが感じられるが、必ずしも、それだけの効果ではない。意図していないにせよ、副産物はある。
藤本孝治副部長は言う。
「平常心が大事だということ。ガッツポーズをしたり、例えば試合で死球を当てられて、相手投手を睨んだりすると選手というのは、感情のコントロールができないわけですから、いいプレーにつながらない」。
今日の試合のハイライトでは5回表の日本文理の攻撃である。そこでは、九州国際大付バッテリーの「感性」を見た。
1回裏に九州国際大付が1点を先制したこの試合は、4回表に日本文理が同点に追いついた。
だが、その裏、九州国際大付が安打を重ねて3点を勝ち越した。
いわば、試合がどちらにも動き始めていた時だったのである。5回表、日本文理の攻撃を、九州国際大付のエース三好 匠の圧巻の投球で三者連続三振。試合の流れが一気に止まったのだ。
「あの場面は3点を獲った後だったので、ここを抑えれば流れはこっちに来ると思った」と高城 俊人。
感性を利かしての見事な戦いぶりは、余分な感情をコントロールしたチームこその、平常心がもたらしたものである。
結果は4-2でも、日本文理にはつけ入る隙がなかったと言っていい。
今日の九州国際大付の見事な戦いには、被災地・東北の背中が大きな力を与えたことも、偽らざる事実だ。
藤本副部長が力説する。
「三塁側の室内練習がうちと東北が一緒だったんですよね。監督の母校でもありますし、普段から親しくさせていただいているのですが、室内の練習を見ていても、いつもと違うのを生徒も感じたと思うんです。いつもの、東北じゃない。苦しんでいるというを感じたんじゃないのかなと思う。自分たちがどれくらい恵まれているのか。目で見たからこそ、いろんなプレーで気を使えていたのではないでしょうか。4回の勝ち越しの3点はウチのチームではこれまでなかった攻撃。いつもは、個の力で点を獲っていたのが、つないで点を獲った。この一体感は今までなかったものだと思います」
だからなのだ。
勝利を手中に収め、三塁アルプスへと向かう彼らが浮かれていなかった。
「東北が負けて、悔しいという思いはあります。試合前には選手全員を集めて、『東北のためにもしっかりやろう』という話をした」とは高城である。
九州国際大付には、目に見えない強さを手にしている。
もともと、九州の選りすぐりのタレント集団である。この日の想いを胸に戦い続ける限り、彼らは優勝候補の筆頭格に挙がったといっていい。