花巻東vs福岡
無死1、2塁から7回ピシャリ
「みちのくのダルビッシュ」こと大谷翔平(2年)を擁し、2年ぶりの出場を目指す花巻東。この日も初戦の宮古水産に続き、福岡に7-0の7回コールドで快勝した。だが、マウンドに、まだ大谷の姿はない。3番・ライトで先発出場した大谷は3打数2安打2打点とバットで活躍し、取材を受けた。打撃についてはもちろん、「早く投げたい?」との質問も飛んだ。「そうですね。でも、今日は毅がいいピッチングをしてくれたので」。周りにいた記者全員が見上げる191センチの長身右腕はそう言って笑った。
この試合の先発は3年生左腕・穀田裕次だった。宮古水産戦では最終回をピシャリと抑えていた。しかし、この日は福岡の1番・日野優太(2年)にカウント3-2から四球を与えると、2番・田中悠暉(3年)にはストレートの四球で歩かせてしまう。無死1、2塁。「伸び伸び投げるといいボールがいくんですけどね」と苦笑いの佐々木洋監督はスパッと交代した。マウンドに向かったのは、2年生右腕・佐々木毅。3番・中村大輝(2年)に送りバントでフライを上げさせ、1死を奪うと、二ゴロ、投ゴロで打ち取って切り抜けた。
その後も、4回に福岡の4番・土屋博貴(2年)に二塁打を浴び、6回には内野安打を許したが、安打はその2本のみ。周りによく声をかけ、自分のタイミングに持ち込んで強気に攻める。1回の無死1、2塁での緊急登板にも「準備は出来ていた」という。130キロ後半の直球に、スライダー、カーブ、チェンジアップを織り交ぜ、その後の7回を無難に抑え、佐々木監督は「よく投げてくれた」とほめた。自身も「自分の仕事をしっかりできてよかったです。3年生のために投げるだけなんで」と納得顔だ。コールドを決めたのも佐々木毅。6-0の7回裏、1死3塁で一塁線へスクイズを決め、3走・松橋朝也(3年)をホームへ返した。
昨秋の東北大会初戦の学法福島戦で先発し、試合は敗れた。「球が走らなくて、何も考えられなくなっていました」と振り返る。センバツ出場が絶望的になり、夏にかけるしかない。
「日本一という目標を掲げて、3年生とも最後なので一生懸命に取り組んできました」
ウエイトトレーニングで細かった下半身を中心に強化。寮の部屋を行き来したり、日常からよく一緒にいる大谷とは食事の際、「体が細いぞ。食べろよ」とお互いに言い合って体を大きくしようと努力した。63キロだった体重は70キロに増加。佐々木監督は「負けず嫌い。冬は必ず上がってくると思っていた」と信頼していた。
大谷が後ろに控えているため、「安心して投げられます」という佐々木毅。だが、「マウンドを譲る気はなかったです」と笑う。球場はこの日、内野スタンドは超満員。芝生の外野席も開放されるほどの大入りだった。観客のほとんどは花巻東のファンで、多くのスカウトが「今でもドラフト1位」と評価する大谷を一目見ようと来た人もたくさんいたはずだ。大谷に注目が集まる岩手大会。だが、今年の花巻東も大谷ひとりのチームではない。
(文=高橋昌江)