市立和歌山vs田辺
試合シーン01
初めての夏のマウンドで感じたもの
夏のマウンドは、こんなに厳しいものなのか――。
市立和歌山で2年生ながらエース番号をつける右の本格派・上(うえ)賢志郎は、そんな思いでいっぱいだったのかもしれない。
「夏は暑さもあるし、バテてしまうのを覚悟で、それなりに練習は積んできたつもりだったんですけれど、終盤は少しバテました。でも、自分なりには抑えられたと思います」。
滑り出しは順調だった。カーブを見せ球にし、キレのあるストレートはコンスタントに130キロ後半を記録。テンポの良さも手伝って、3回までに5個の三振を奪うなど、相手打者を寄せ付けなかった。だが、中盤以降はそのストレートを狙われて長打を浴び、スコアリングポジションに走者を溜めるシーンが目立った。しかも際どい球はすべてファウルで粘られ、球数を稼がれた。
7回は先頭打者の3番・桐本拓真を四球で出塁させ、4番・瀬田剛士には6本のファウルを含め、計12球も投じさせられた。結果、右翼越えの二塁打を浴びている。
「夏はこれだけ粘られたら、根負けしそうになります。追い込んでも、簡単にアウトを取れない。夏の大会は秋や春にはない独特の緊張感がありました。初めての夏の大会のマウンドなので、良い経験になったと思います」。
昨秋から1番をつける2年生エースは冷静にこう振り返った。
試合シーン02
それでも、中盤以降、6回と8回を除いては走者を背負っても最少失点に食い止められた点に関しては、及第点を与えてもいい。中盤以降は変化球の比率を多めに組み立て、眞鍋忠嗣監督の「大胆にいけ」という指示通り変化球でコーナーを鋭く突くなど、攻めのピッチングに徹していた。
「(9回の1失点は)勝ちを意識しすぎて慎重にいきすぎていました。ちゃんとバッター勝負をしていれば、打たれることはなかったのですが…。ボール先行のカウントでも打たれることも多かったけれど、それは良い経験になったでしょう。初めての夏のマウンドで、これだけ試合を作れたら充分です」と指揮官は、開幕戦の勝利にホッとした様子だった。
開幕戦独特の硬さも見られたが、回を追うごとに解消され自分のピッチングを披露することが出来た。何もかもが“初めてづくし”だったが、結果的には6安打2失点完投。四球はわずかに1個と、安定感は見せつけたが、まだまだこんなものではないと自負している。
「自分の自信のある球はストレート。今のこの時期に急にキレやスピードをレベルアップさせるのは無理だけれど、最後まで自分のストレートで勝負できるようになりたい。ただ、3年生の前に変な試合は出来なので、自分の自信のある球を磨いて、勝ち進んでいけたら」。
さらなる高みを見据えた、2年生エースの夏が始まった。
(文=沢井史)