試合レポート

日本文理vs香川西

2011.03.23

日本文理vs香川西 | 高校野球ドットコム

田村勇磨(日本文理)

力を出し切ることの難しさ、挑戦することの大切さ

開会式にてセンターポールに全て半旗ではためく国旗、連盟旗、大会旗。その旗たちと空を見つめるだけでも被災地の言いようのない苦しみと悲しみが湧き出してくる。
やはり今回のセンバツはいつもと違う特別な大会。我々は今大会が背負った責務の重さを認識して、この大会を語らなければならない。

そしてこれらの旗の下で、創志学園・野山慎介主将が「生かされている命に感謝し、全身全霊でプレーすることを誓います」選手宣誓した後、10時10分にプレーボールを迎えた開幕戦。
ここでは特に中盤以降、力を出し切った日本文理の経験値の高さが随所に光る展開となった。

そのリーダー格は、やはり一昨年の夏の甲子園準優勝経験者、3番の湯本翔太左翼手(3年)である。

先発の2年生右腕・田村勇磨は3暴投に代表されるように「勝った瞬間にガッツポーズできるようなピッチングでなかった」が、5回のグラウンド整備中に湯本から「自分のピッチングをすればいい」とアドバイスをもらった6回以後は独特の落ち方をする縦スライダーを駆使し、安定感を取り戻すことに成功。

さらに湯本は高校生のレベルを超越したスイングスピードで、先制タイムリーを含む3安打の活躍。
彼の力を出し切る姿勢に導かれるように6回・8回には集中打を浴びせた日本文理が快勝したのは、終わってみれば必然の流れだったのかもしれない。

それとは対照的に「バットが鉛のように振れていなかった。力を出し切れず終った」(岩上昌由監督)のが香川西

特に「センバツではストレートで勝負できるように磨きをかけたい」と冬の練習期間に語り、練習試合でも直球主体のピッチングを貫いてきたエース右腕・宇都宮健太(3年)は、「ストレートがよくなかったので変化球で勝負した」と、あっさり自分が挑戦してきたことを捨て去るスライダーを狙われ痛打を浴びることに。これには投手を担当する黒川哲也コーチも「スライダーは見切られているのに、かわさないでいいところで、かわしてしまっている。変わりきれなかった」と評価せざるを得なかった。


日本文理vs香川西 | 高校野球ドットコム

試合シーン

また、香川西は大会前、阪神甲子園球場とほぼ同規格のしまなみ球場(広島県尾道市)で3日間のミニ合宿を張り、浜風を想定したフライ捕球やカットプレーに多くの時間を割いてきた。
しかし、いざ本番では初回「想像以上に伸びた」(小南憲吾中堅手・3年)と、センターの頭を越された二塁打からリズムを崩し、練習の成果を発揮する場面はほとんどなし。
かくして香川西は1対15で明徳義塾の前で大敗を喫した昨秋四国大会決勝に続き、またも「力を出し切ることの難しさ」と「挑戦することの大切さ」を学ぶこととなったのである。

ただし、そんな彼らにも今後夏に向けてヒントとなるトピックが1つある。
それは9回、代打でタイムリーを放ち、チーム唯一の得点をマークした山崎優一(3年)の段階を踏んだ成功事例だ。彼の言葉に耳を傾けてみよう。

「冬の練習では外角に狙いを定めて、ベルトより下のスライダーは絶対振るなと監督から言われていました。ですから、必ずいつか点は取れると思っていたし、三塁コーチの位置から相手投手の配球も頭に入れていたので、ストレートにヤマを張って落ち着いて出来ました。タイムリーは練習の成果が出ましたし、スタンドが打たせてくれたと思います」。
当然、この山崎が残した結果に対しては「彼はよく練習するし、がんばりに対してご褒美があったと思う」と岩上監督も目を細めていた。

アドバイスを得て、自信が持てるよう練習を重ね、対戦相手に応じて常に微調整を加えながらも、軸はぶらさず。
結果が出ても謙虚に感謝の心を忘れない。
これこそが「真の探究心」であり、日本文理にあって香川西になかったものである。
明日からは香川県三豊市に戻り、再び夏に甲子園に戻ってくるために練習に打ち込む彼らだが、その心をいかに持ち続けるかが、「春夏連続出場」。そして「甲子園に出る」から「甲子園で勝つ」ために最も必要な要素となるはずだ。

(文=寺下友徳)

(撮影=中谷明)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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