試合レポート

都立総合工科vs聖パウロ学園

2014.07.17

手呂内のサヨナラ本塁打を呼んだ、総合工科奇跡の同点劇

 聖パウロ学園都立総合工科という実力のある学校同士の対戦は、1点を巡る緊迫の守り合いから一転、終盤に思わぬドラマが待っていた。

 1回表都立総合工科は、2番杉崎一真の左前安打、3番一杉晃輝の四球、4番峯海渡の右前安打で一死満塁とし、5番三村光の右前適時打でまず1点を先取した。しかし、続く満塁のチャンスで追加点を奪うことはできなかった。

 3回表聖パウロ学園は、先頭の8番岩渕光が二塁打で出塁すると、9番笠井優の犠打、1番倉吉隆矢の犠飛で、手堅く同点に追いついた。

 その後は、都立総合工科の先発、左腕のサイドスローの戸田剛が、低めへの抜群の制球力に加え、チェンジアップなどでタイミングを外しながら好投すれば、聖パウロ学園5632も負けじと、カーブ、スライダー、フォークなどで都立総合工科を翻弄した。

 1対1という、しびれるような守り合いが続く中で、何とか突破口を開きたいと考えた、8回表、聖パウロ学園の先頭打者、7番の小倉寛人は、三塁へセーフティバント。これが内野安打となった。続く岩渕が送った後、9番笠井が二塁打を打って、均衡を破った。

 ここで都立総合工科は戸田から2年生の平井成幸にスイッチ。140キロの速球を投げるといわれる平井の球は、確かに速いが、聖パウロ学園打線には、タイミングが合っていた。2番小川聡志のレフトへの打球は、フェンス近くに達する大飛球に。都立総合工科の左翼手峯のグラブにあたったがキャッチできず二塁打になり、2点差となった。

 さらに9回表には、二塁打の須田耕多を鈴木が左前適時打で還し、決定的な3点差がついた。

 9回裏都立総合工科は、代打に小林平手呂内遼を送るが、ともに三振に倒れ二死。最後は投手・平井に代えて代打に松下拓未を送った。松下のセンターに抜けそうなゴロを、聖パウロ学園の二塁手・笠井が好捕したが、一塁には間に合わず内野安打に。1番佐藤竜也は左前安打、2番杉崎が四球で出塁し、二死満塁。そこで3番一杉は左前安打を打ち、2人が還って1点差になった。

 とはいえ既に二死。都立総合工科が追い込まれていることに変わりはなかった。打席には代打の西澤佑哉が入る。西澤が右に流した打球は、右前適時打となり、杉崎が還り、土壇場で同点に追いついた。


 ところが、都立総合工科のブルペンでは、9回表まで投球練習が行われていたが、9回裏の攻撃が始まると、全員引き揚げ、誰も投げていない。9回裏、3点を入れて同点に落ち着いたものの、投手ばかりか、捕手にも代打を送っており、延長になった場合、バッテリーがどうなるか、スタンドはざわつく。

 試合は4対4で延長戦に突入。マウンドには、代打として同点のきっかけを作る内野安打を打った松下が上がった。想定外の登板である。捕手には、代打として三振した手呂内がついた。

 しかしながら、若者の勢いというのは、ものすごい。松下は力のある球をどんどん投げ込み、時折フォークのような落ちる球を投げて、聖パウロ学園打線を封じる。

 そうなると、一人で投げ続けている鈴木のスタミナが問題になる。延長12回に入る頃には投球数が160を超えていた。

 12回裏都立総合工科は先頭の5番三村が中前安打で出塁したものの、後続が倒れ、二死。そこで9回は代打として三振した捕手の手呂内が立つ。その3球目、鋭く振り抜いた打球は、レフトのポール近くのスタンドに入った。サヨナラ2ラン本塁打である。まさに筋書きのないドラマは、2番手の捕手・手呂内の一発で終わった。

 それにしても、かつての都立の強豪は、数人の実力のある選手に依存している場合が多かった。しかし都立総合工科は、ベンチから出る選手出る選手が、それぞれ活躍して局面を打開していった。近年都立勢の躍進は目覚ましいが、その内面的充実を物語る一戦であった。

 一方、聖パウロ学園にとっては、つらい幕切れであった。実は昨年の夏も、9回二死までリードしながら、その時は失策が続いて負けている。その悔しさをバネに練習してきたのだろう。この日は無失策。華麗ではないけれども、堅実な守備で好試合を演出した。

 かつては弱小とみなされていた聖パウロ学園は、近年飛躍的に強くなった。それでも2年続いた試練。こうした試練も後年、強くなる過程の歴史として語られる日が来てほしいものだ。

(文=大島裕史

【野球部訪問:第83回 都立総合工科高等学校(東東京)】

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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