試合レポート

花巻東vs彦根東

2018.03.31

彦根東・増居翔太9回までノーヒットノーランも惜敗

 彦根東の先発、増居翔太(3年)が一世一代のピッチングを披露した。初戦で東邦を5対3で下した花巻東打線を9回までノーヒットノーランに沈黙させたのである。5回まで1人の走者も出さないパーフェクトな内容で、9回までは与四球4、奪三振14という内容。

 パーフェクトだった5回までは技巧的だった。ストレートは最速でも130キロ台中盤がせいぜいで、パーフェクトにも関わらず3日前の慶応戦の疲労残りがあるのかなと思った。ストレートの代わりによさが目立ったのが縦変化のカーブとスライダー。ともに〝真縦″と形容したいくらいの角度が魅力の球で、これらの球種でカウントを稼ぎ、勝負球はストレートという配球で三振を奪っていった。

ストレートが急に速くなったのは6回からだ。1番菅野豪琉を見逃しの三振に仕留めた球が138キロのストレートで、9回には3番阿部剛士を140キロのストレートで空振りの三振に退けた。初戦の慶応戦もまったく同様の〝ギアチェンジ″で5安打、3失点に抑え、この日はさらに高度な「緩急のペース配分」を演じ、粘っこい花巻東打線を沈黙させた。それでも勝てなかったのは花巻東の2番手、伊藤翼がよかったからだ。

 先発の新田大智が先頭打者をストレートの四球で歩かせ、2番打者にボール球を2つ続けたところで花巻東・佐々木洋監督は2番手に伊藤を送った。完投が少なくなった現在の高校野球で難しいのが継投の時期。多くの監督が打たれてから代えるのは「甲子園のマウンドを長く経験させてやりたい」という教育的配慮かと思われるが、「悪ければ代えられる」ほうがより現実的な教育的配慮ではないか、というようなことをこの継投を見ながらつらつら考えた。

 伊藤への継投が結果的に花巻東に勝利をもたらしたと言っていい。無死一塁の1回表、2ボールのカウントで代わった伊藤は2番打者を1-6-3の併殺で退けるのである。その直後、3番朝日晴人(3年)がヒットを打っているので、もし走者が二塁に進んでいれば先制点が彦根東に飛び込み、増居はノーヒットノーランを達成したかもしれない。1死一、三塁の4回にも5番野嵜重太を6-4-3の併殺に打ち取り、9回には2死三塁の場面で4番髙内希(3年)を敬遠気味に歩かせ、再び野嵜を三塁方向のファールフライに打ち取っている。右打者の野嵜が放った打球を見れば、力みが原因の凡打だとわかる。

 野嵜だけではない。7人の彦根東の右打者が三塁、遊撃方向に放ったゴロ、フライで倒れたのは30アウト中9つ。120キロ台のストレートにカーブ、スライダーを引っ張ってはいけないと思っても、緩いボールがフワッとくれば打ち気にはやる。そういう打者の心理状態を佐藤と髙内のバッテリーは巧みに読んだ。

 花巻東がサヨナラ勝ちした10回裏を再現して最後にしよう。4番紺野留斗(3年)がチーム初ヒットをライト前に放つと代打の八幡尚稀(3年)が四球で続き、6番上戸鎖飛龍(3年)がレフト前に運んで無死満塁。この場面で途中出場の藤森晃希(3年)がセンターに高々とフライを打ち上げ、紺野が歓喜の生還を果たすのである。継投の妙、緩急のペース配分の妙、そういうことを教えられたまことに貴重な試合だった。

(文=小関 順二

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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