近江の右腕エースには負けられない理由がある
山田 陽翔(近江)
トーナメント表
・浦和学院、敦賀気比などが属するブロック
・大阪桐蔭、花巻東などが属するブロック
・ベスト8以上の組み合わせ
<第94回選抜高校野球大会:近江6-2長崎日大(延長13回タイブレーク)>◇20日◇1回戦◇甲子園
背負うものがあると、力が湧き出てくるのだろうか。近江(滋賀)の背番号1が実に輝いて見えた。マウンドで投じたのは165球。すべての投球に、もう一人の「背番号1」の思いが込められていた。
近江のエース、山田 陽翔投手(3年)が長崎日大相手に延長13回を投げ切って完投勝利を収めた。新型コロナウイルス感染の影響で出場を辞退した京都国際に代わって急遽出場。十分な準備期間もないまま、マウンドに登ったが、そんなことをまったく感じさせないマウンドだった。延長13回タイブレークで、決勝打を放ったのも山田だった。打っても守っても背番号1が輝いた。
昨年夏甲子園4強に進んだ疲労からか、右肘を痛めて昨年秋は実戦登板はなかった。自分が投げられず、センバツ出場はかなわなかった。主将となったエースは悔しさをグッと胸にしまい込んで、夏に向けて黙々と調整を続けてきたに違いない。気持ちを切らさず、心も体もリフレッシュに努めてきた。そこに、舞い込んできたセンバツ舞台…。チームのために、燃えないわけにはいかなかった。
もうひとりの「背番号1」の思いも胸に秘めた。辞退となった京都国際の左腕エース森下 瑠大投手(3年)の気持ちは痛いほど分かる。ともに投手として昨年夏甲子園の4強に貢献した。滋賀と京都だが、同い年で近畿同士。切磋琢磨してきた仲で、交流はあるという。マウンドには「彼」とともに立っている。そう思って投げていたのかもしれない。
三塁よりの打球を処理し、いったんは三塁に走りかけながら間に合わないと判断すると、180度体を回転させながら一塁へ送球。後ろに倒れながらの「スーパースローイング」で打者走者をアウトにしたプレーがあった。山田の神がかりなプレーにも、目に見えない力が働いたと感じざるを得ない。
もちろん、そう思っているのは山田だけではないだろう。近江ナインは土壇場で9回2点差を追いつく粘りを見せた。今大会は京都国際ナインとともに甲子園で戦い続ける。