東妻 勇輔(日体大)最速153キロ右腕が語る「体重移動」の重要性
昨秋は首都大学リーグで4勝を挙げ最高殊勲選手(MVP)に選出された東妻 勇輔投手(日本体育大)。続く明治神宮大会でも決勝のマウンドを任されると星槎道都大を完封し、見事にチームを日本一へ導く快投をみせた。そんな東妻投手はMAX153km/hのストレートを投げることでも注目されているが、スピードアップの秘訣についてお話をうかがった。
最速153キロはウエイトトレーニングで築き上げた
東妻 勇輔投手(日体大)
中学時代は136km/h、智弁和歌山高では144km/hのストレートを投げていた東妻投手。元々、スピードがあるタイプの投手で、大学3年の春には150km/hの大台を突破したが、実はスピードアップを目的とした練習をしていたわけではなかった。
「自分は踏み出す左足を突っ張って投げるフォームなんですが、そのせいで左足の太ももの裏側を肉離れしてしまうことがよくあったんです。そこで、ケガを防止するために昨春頃からウエイトトレーニングを始めたんです」。
バーベルをかついでスクワットをしたり、ランジスクワットをしたりして下半身を強化。体がアンバランスにならないように背筋や胸筋も鍛えた。「スクワットは最初150kgの重さでやっていましたが、今は190kgまで重量を増やしています。それを10回×3セットやるのでかなりキツいのですが、自分を追い込んでやらないと先が見えてきませんから」。
こうしたトレーニングのおかげで、以前よりも下半身が二回りほど大きくなった。「周囲から『お尻が大きい!』と言われたりするのですが、自分にとっては褒め言葉ですね。そして、下半身を鍛えて安定してきたことで、球速も自然と速くなっていったんです」。
スピードアップという結果が出たことで、ウエイトトレーニングへのモチベーションもさらに上がっていくこととなった。「シーズンオフは週2回。シーズン中は、投げた翌日はランニングで疲れを取って、その次の日に筋肉を落とさない程度の軽めのウエイトトレーニングを週1回やっています」。このように継続してトレーニングを行うことで、昨秋の明治神宮大会ではプロのスカウトのスピードガンで153km/hをマークするまでに至ったのだ。
フォームの肝は体重移動にある
インタビューを受ける東妻 勇輔投手(日体大)
また、東妻投手には投球フォームのなかで大切にしていることがある。それは体重移動だ。そこで、ピッチングの善し悪しに大きな影響を与える体重移動のポイントについて教えていただいた。
―― Q.なぜ、体重移動を重視するようになったのでしょうか?
東妻 最初に言ったように、自分は足を突っ張って投げるフォームなので、踏み出す左足に体重が乗らなかったんです。そこで、下半身で生まれたパワーを上手くボールに伝えるために股関節の動かし方を大切にして、しっかりと体重移動することを意識するようにしたんです。
――Q.きちんと体重移動をするために心掛けていることを教えてください
東妻 まずは軸足の右の股関節に体重を乗せることです。それから投球動作とともに前へ重心を移動させていきますが、その力を左の股関節で受け止めるようなイメージで投げています。
――Q.しっかりと体重移動をするために、どんなトレーニングをしてきたのでしょうか?
東妻 股関節に体重を乗せる感覚を養うために、ボックスを使ったトレーニングをしました。右足をボックスに乗せて位置を高くし、その体勢でメディシンボールを投げたり、近距離のキャッチボールでしっかり軸足で立ってからゆっくり投球動作をしたり。そうやってフォームを固めていきました。大学1、2年の時はこうした股関節に体重を乗せるトレーニングを重点的にやっていたのですが、自分のなかでは一番大切な練習だと思って取り組んでいました。
――Q.体重移動を習得するために大切なことは何でしょうか?
東妻 反復練習ですね。体重移動を意識してやらないとできないようではダメだと考えていたので無意識でできるようになるまで、とにかく反復練習。そのなかで動画を撮ってもらって、正しい動きができているのかを自分の目で確認しながらトレーニングを進めていました。
――Q.この体重移動ができるようになったことで、どのようなメリットがあったのでしょうか?
東妻 スピードが速くなりましたし、リリースポイントが前に出てバッターの近くでボールを離せるようになりました。そのおかげで、これまで以上に打者からボールが速く見えるようになり、質が上がったと思います。また、制球も安定して、以前よりもストライクゾーンにボールが集まるようになりました。
体重移動を心掛けたことで、東妻投手はスピードアップ、球質アップ、制球力アップと3つの効果を手に入れたのだ。
[page_break:伸びのあるストレートを目指して]伸びのあるストレートを目指して
目標にリーグ戦5勝を掲げた 東妻 勇輔選手
東妻投手といえば、強い腕の振りも特長のひとつだ。「どの球種もしっかり腕を振って投げるのが自分の持ち味です。ストレートではないとバッターに気付かれてしまうと、変化球で空振りが取れなくなってしまいますからね。ただ、腕を強く振っているのは、ただ単にゆるい動きをするのが苦手だからなんですよ。
中学時代にカーブを教わった時も『フワッと抜くように投げなさい』と指導されたのですが、そのフワッと抜くことができなくて引っ掛けて強く投げるようにしたら、それがスライダーになりました(笑)。でも、そうやって常に強く腕を振ってきたことがクセになって、今に繋がっている感じです」。
また、身長は170cmと投手としては決して大きくないが、全身を使って投げるフォームは迫力十分だ。「体が小さいからといって、投手として小さくまとまるつもりはありません。不便に感じたこともないですし、小さい分、体を大きく使って投げられているとも思っているので、むしろこの身長で良かったとも感じています」。
そして、強心臓も彼のピッチングを支えている。「試合前は吐くくらいに緊張しているのですが、マウンドに上がると人が変わるというか。三振を取るとギアが入って『打てるものなら、打ってみろ』とオラオラな気持ちになります(笑)。それに、自分はランナー一塁よりも、二、三塁の時の方が投げやすいんですよね。中学時代からずっとそういう場面を抑えてきたので、その経験が積み重なって自信になっているのだと思います」
最後に理想のストレートについて聞いてみた。「関西出身で小さい頃から阪神タイガースの試合を見てきたこともあって藤川(球児)投手が好きなんです。だから、藤川投手のような伸びのあるストレートが投げたいですね。今季は155km/hを目指しているのですが自分はまだ成長途中なので、ウエイトトレーニングやフォーム固めなど今やっていることを続けていけば、それで良いと考えています。ただ、自分が三振を取る時は変化球が多いんです。真っ直ぐ2球でファウルを打たせて追い込み、最後はスライダーで三振を取れれば良いと考えているので、これからもストレートには固執することなく、真っ直ぐに頼りきらないピッチングをしていきます」
今春の目標は「まだ達成したことがないシーズン5勝と防御率0点台」と話す東妻投手。まだまだ伸びしろがある逸材がこの1年でどこまで成長するのか楽しみだ。
文=大平 明