社会人を辞め独立の道選んだ本格派左腕

球威抜群の球を投げ込んだ冨重

 投手陣は参加した9選手全員が1イニングずつ登板したが、制球に苦しみ、日本ハム打線に捉えられる投手も少なくなかった。そんな流れをガラりと変えたのが大トリの9回にマウンドにあがった冨重だった。

 間違いなく投げた投手で一番の内容だった。はじめに対峙したのは侍ジャパンの選出された実力を持つ水谷 瞬外野手(石見智翠館)。初球をファールにされたのち、二球目には高めに「バシッ」と威力のある直球がミットを叩いた。その後も「今日は出力を出しながら真っ直ぐで追い込み、変化球で打ち取ろうと考えていた」と常時140キロ後半、球場表示では最速151キロの直球を軸に1回無失点に抑えた。

 真っすぐは通用することを証明したが課題も残した。

「結果的には0点でしたが、変化球が浮いて打たれたことが課題です。NPBの選手なので一球でも浮いたら打たれると改めて認識しました。独立の立場ですけど、相手は素晴らしい選手と想定して投げたいと思いました」

 水谷に投じた3球目のスライダーを痛打されると、続く梅林 優貴捕手(高陽東―広島文化学園大)にもバットを折りながらレフトへ繋がれた。リーグでは先発を任され変化球を軸にした配球だというが、「今日は真っ直ぐで押した中で浮いてしまいました」と変化球の精度は反省しきりだった。

 大学時代から直球は最速149キロを計測していたというが、体の調整がうまくいかず試合で本領を発揮できなかった。大学卒業後はバイタルネットに進みプロを狙ったが、「社会人では思った以上に試合数が少なく、プロに行くためには全国に出なければならない。そこで会社には頭を下げて『挑戦させてください』と伝えました」と独立入りを決断した。

 険しい道のりにも「金銭面は社会人ですが、挑戦できる環境に感謝している」と前を向く。そこには偉大な先輩の背中もある。

「高校時代の先輩である安里(海)さんが安定していた中で、社会人野球から独立リーグに挑戦しているのを見て勇気を貰いました。そこから自分も挑戦するなら地元神奈川でという気持ちになりました」

 入団後は開幕投手を務めるなど、4試合に先発して防御率は0.41。勝ち星こそ1つのみだが、昨年リーグ最多の11勝をあげたエース左腕の穴を埋める活躍を見せている。急成長を遂げた冨重は、秋に向けてもさらなる好成績で指名を掴みたいところだ。

 BC・神奈川は過去にドラフト指名でNPB入りを果たした選手がいないが、冨重は十分歴史を塗り替える力はある。「社会人を辞めたからにはプロに行けと周りから言われている。挑戦できるのは今年だけだと思う」とこの一年に全てを注ぎドラフト指名を掴む覚悟の左腕に周囲の期待も高まっている。

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