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全国制覇三度の東海大仰星ラグビー部も大事にする「休養の概念」【後編】

2015.12.27

 本日開幕する第95回全国高校ラグビーフットボール大会。過去に同大会で三度の全国優勝を果たした東海大仰星高校ラグビー部に今回は訪問!前編では身体を大きくするトレーニング法を伺いましたが、その後も湯浅 大智監督との話は尽きず、その中には、高校球児のみなさんにもぜひ伝えたいと感じた内容の話が多々あった。スペースの許す限り、湯浅監督の言葉で紹介していきたい。まずは、東海大仰星高校ラグビー部のトレーニングの様子がよくわかる動画をお届けします!

全国屈指の強豪チーム・東海大仰星高校ラグビー部のトレーニングの様子を紹介!

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練習の終了時間にこだわる理由

湯浅 大智監督(東海大仰星高等学校ラグビー部)

 当ラグビー部の平日の練習時間は16時10分から約3時間ほど。長くなったとしても、19時半までには終わることを強く意識しています。19時半までに終わらせたい最大の理由は「選手たちの休養時間が足りなくなるから」です。

 体が思うように大きくならないときの原因は、「食事が足りない」「トレーニング方法が間違っている」といったことよりも「休養がきちんととれていない」というケースの方が実は多いものです。

 家に帰る時間が遅くなってしまうと、疲労回復に欠かせない入浴の時間が短くなりやすい上、夜ご飯を食べる時間も遅くなり、胃の中に内容物がある状態で寝ることになります。すると、寝ている間にも消化にエネルギーを費やすことになり、体が疲労回復に集中できないため、休養不十分の状態で朝を迎えることになってしまう。携帯電話に例えると、7時間の睡眠中にフル充電になるはずが、消化にエネルギーを費やすことで充電スピードが遅くなり、7時間コンセントにさしていたにも関わらず、70パーセントの状態で朝を迎えるようなものです。

 フル充電で朝を迎えられれば、授業中に20パーセント減ったとしても、80パーセントの状態で放課後の練習に入っていける。しかし70パーセントの状態で朝を迎えた場合、50パーセントの状態で練習に入ることになる。となれば、仮に同じトレーニングをしても前者と後者とでは成果が異なってしまいます。すべては「前日の練習終了時間が遅い」というところに起因しているわけです。

真の休養状態とは?

 人間が本当の意味でリラックスし、休養状態に入っているといえるのは、副交感神経が優位に働いているときです。副交感神経を優位に働かせた状態で就寝してこそ、成長ホルモンの分泌も活発になり、フル充電の状態で朝を迎えることができる。運動する際に準備運動が必要なように、良い眠りを手に入れるための準備は就寝の一時間前から始まっています。ゆっくりと湯船につかり、落ち着ける音楽を聴いたりすることで、副交感神経を優位に働かせた状態で眠りにつくことができます。

 ところが携帯電話やパソコンを触っていると、ブルーライトの影響で副交感神経が優位に働かないことがわかっています。寝る直前までブルーライトを浴びていると、リラックスしているつもりでも、実際は交感神経が優位に働いてしまう。真の休養状態とはいえない状態で眠りについてしまうため、フル充電で朝を迎えられません。

「SNSは欠かせない」という球児は少なくないとは思いますが、体づくり、競技パフォーマンスに関しては悪影響しか及ぼさないと言い切れます。

 夜、寝る前に素振りをする高校球児も多いそうですが、これも交感神経が優位な状態で寝ることにつながってしまいます。素振りの時間の分だけ早寝早起きし、朝、フレッシュな状態で素振りをする方が成果にはつながりやすいはず。

筋力トレーニングは体が疲れているときよりも、充電たっぷりな状態で行った方が体は大きくなりやすい。可能ならばト筋力レーニングも朝一番に行うことをお薦めします。

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[page_break:空腹の時間を極力作らない / 必要性を感じない長距離ランニング / 飛躍の鍵は日常生活にあり!]

空腹の時間を極力作らない

 人間は空腹を感じたときにはすでに体のエネルギーは枯渇し、自分の筋肉を削る形でエネルギーを生み出す状態に入っています。つまり体重を増やし、体を大きくするためには「空腹の時間」を極力つくらないことが大きなポイントになります。

 当然、食事の回数は増えますが、一回あたりの食事はそんなに多くなくてもいいと思っています。体を大きくしようとすると、苦しくなるほどにたくさん食べなくてはならないイメージがありますが、一度にたくさん食べたところで一度に吸収できる栄養素の量には限界がありますから。

 それに夜ご飯をたくさん食べすぎると、寝ている間も消化にエネルギーを費やしてしまいます。それならば夜はほどほどにして、朝しっかり食べた方がいい。食べる際によく噛むことも体づくりのための重要ポイントです。たくさん咀嚼することで固形物も小さくなり、唾液、胃液もしっかり出るため、消化がスムーズに進みます。食べる際の姿勢がいいとさらに消化がよくなります。

必要性を感じない長距離ランニング

全体ミーティングの様子(東海大仰星高等学校ラグビー部)

 ラグビー界から見ると野球界は「長距離ランニングの量が多い」という印象がすごくあります。特に高校野球は試合ができない冬に長い距離を走りこむチームが多いと聞きます。うちの部もランニングはしますが、10分間の間にジョギングとダッシュを交互に入れ混ぜたりするメニューはあっても、10キロ走のような長距離メニューは行いません。

 野球はラグビーよりも持久力が求められる要素が少ない競技。長時間、走る必要性はないように感じますし、もっとスピード、強さといった部分に特化したトレーニングをしてもいいのではないかと思います。もしも自分が野球の指導者であれば、長距離を走る時間はすべてウエイトトレーニングに回すと思います。

 うちの部ではダッシュなどの要素が織り込まれたメニューを技術練習の中に織り込むようにすることを強く心がけています。技術練習の時間とは別にランニングメニューの時間を設けてしまうと練習時間が長くなってしまい、19時半までに帰れなくなるということも大きな理由です。野球もダッシュなどの短距離走は必要でしょうが、それは技術練習とは別に行うのではなく、技術練習の中に極力織り込むことで練習時間の短縮を図れるのではないかと思います。

飛躍の鍵は日常生活にあり!

 私はよく選手たちに「どんなトレーニングをするかより、どんな日常を送るかの方が大事」という話をします。食事、睡眠、休養といった要素を踏まえ、日常生活をきちんと送る方が体づくりという面においても求める成果が出やすいものです。

 パフォーマンスは練習中に高まっていると思いがちですが、その練習はライバルたちも行っているわけで、差を生み出せる要素はほとんどありません。
ライバルとの差を生み出すのはむしろ練習以外の部分。日常生活の過ごし方にあると私は考えます。

 身体を大きくするには、ハードトレーニングをこなせばよいというわけではない。フィジカルの強さが求められるラグビー界で強豪であり続ける東海大仰星が休養の取り方こそ大事にしている。そこには身体を大きくするヒントが多く詰まっているはずだ。

(文・服部 健太郎


注目記事
・【12月特集】冬のトレーニングで生まれ変わる

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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