大阪桐蔭履正社の2強時代が続いている大阪府の高校野球。そこに割って入ろうとしているのが柏原市に所在する東大阪大柏原だ。

 2011年夏には石川 慎吾外野手(巨人)を擁して甲子園初出場。それ以降は甲子園出場こそないが、昨年は春、夏、秋ともに8強と強豪校としての地位を保っている。

 有力選手も多く、昨年には卒業生の野村 和輝が独立リーグの石川ミリオンスターズから育成ドラフト1位で西武に指名された。

 2018年10月からチームを率いているのが34歳の土井 健大監督。履正社で強打の捕手として活躍し、オリックス、巨人でプレーした実績を持つ。今回は元プロ監督の下で12年ぶりの甲子園出場を目指す同校の練習に密着した。

土壌にある履正社時代の恩師の存在



アップの様子

 野球部のグラウンドは学校の敷地内にある。大阪府ではグラウンドが狭かったり、遠方までバスで向かう必要があったりとグラウンド事情に悩まされる高校が多いことを考えると、東大阪大柏原はかなり恵まれている方だろう。

 それだけでなく、室内練習場とコロナ禍で練習できない間に土井監督が自ら作ったというサブグラウンドも完備。学校から歩いて数分のところには寮が数年前に完成し、野球に打ち込む環境が整っている。

 「とても過ごしやすいです。野球に集中できる環境だと思います」と主将の銖藤 大和内野手(3年)が話すように、東大阪大柏原の環境は選手からも好評だ。

 練習はまず挨拶練習からスタート。アップでは全員で大きな声を出し、一体感のある動きを見せる。その後のノックや打撃練習でも活気のある練習が繰り広げられた。こうした雰囲気作りは履正社時代の恩師である岡田 龍生監督(現・東洋大姫路監督)の影響があると土井監督は話す。

 「僕が高校時代に教わった『人として』というところに関しまして、世の中に出ていって、高校野球でユニホームを脱ぐ選手ももちろんいます。私のように監督でも最後までユニホームに袖を通している人間は限りなく少ないと思うので、世の中に出て行って重宝される人間作りを意識しています。野球をしているからできる、というところは必ずあると思うので、野球が上手くても下手でも、できることを選手には『徹底してやっていこう』というのをお話しさせてもらっています。上手くても下手でも、できることは世の中に一番必要なことだと思うので、必要なことは高校野球の中で伝えていきたいところではあります」

 これまで履正社の卒業生に取材することが何度かあったが、多くの人が「岡田先生には野球以外のことで怒られることが多かった」と話していた。野球の指導者である前に一人の人間として教え子を導くのが岡田監督の指導方針。高校時代に岡田監督の指導を受けた土井監督もその教えを継承しているようだ。

 その一方、プロの世界で5年間生きてきたからこそ伝えられることもある。一流選手と接して学んだことを次のように語ってくれた。

 「何があってもブレないというところが、どの一流の選手にも共通しているところかなと肌で感じました。私自身1軍の経験はなかったですけど、どうしても調子が良い時はやる、調子が悪くなったらやらないとか、そうやって芯がブレるところがありました。人生の軸になるものを短い期間ではありますけど、中学校から高校に入ってきた3年間でできる限り早い段階で自分の特徴、長所というのをつかんでほしい。そういった思いで毎日接するようにはさせてもらっています」

 高校で名将の指導を受け、プロの厳しい世界を経験した土井監督。その両面を教え子に還元して選手の成長を後押ししている。

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