さらに進化を遂げる智辯和歌山。思考力が高い高ポテンシャルの選手をどう育成しているのか?【前編】
昨夏全国優勝を果たした智辯和歌山。今春の近畿大会でも大阪桐蔭を破って優勝を決め、2年連続の夏の甲子園優勝を狙える戦力になってきたと言っても過言ではない。
今回はそんな智辯和歌山を訪問した。智辯和歌山といえば色々と強みがある。平成初期から続いた圧倒的な強打、高い投手力、元プロの中谷仁監督の就任で、自主性が高く思考力が高い選手の育成と、さらにハイブリッドなチームへ変貌を遂げようとしている。その取り組みについて迫った。
木製バットで本塁打連発 施設面の進化も見逃せない
ティー打撃する選手(智辯和歌山)
まず、智辯和歌山の強みである圧倒的な強打は、さらに凄みが増している。智辯和歌山の打撃練習を見ると、選手が手にしていたのは木製バット。智辯和歌山に限らず、次のステージで通用する選手になるために木製バットで打たせているチームは見られる。ただ、完成度が違う。
大会前ということで、打撃練習に入っていたのはベンチ入り選手。木製バットでも殆どの選手が長打性の当たりを飛ばしていた。特に主将で主砲の岡西 佑弥内野手、プロ注目の二刀流・武元 一輝投手(3年)、渡部 海捕手(3年)、山口 滉起外野手(3年)、青山 達史外野手(2年)といった長打力が売りの選手は、スタンドインを連発し、武元、岡西の左打者は右翼方向にある雨天練習場の上部に当てる。スラッガータイプの選手だけではなく、巧打者のタイプの選手もしっかりとコンタクトして、逆方向にライナー性の打球を飛ばすことができていた。
中谷監督は「グラウンドが狭いので」というように両翼91メートルほどの広さだが、木製バットで打つ練習を行っているチームを見ると、なかなか飛ばない姿を見ているだけに、これほど自分の打撃ができているチームは見たことがない。
大阪桐蔭の前田 悠伍投手から本塁打を打てたのも、またこれまでの試合で好投手を擁するチームから強打を発揮できたのも理解できる。
ただ、最初はかなり苦労したようで、岡西、渡部、武元も口を揃えて「最初は全く飛びませんでした」と振り返る。ベンチ入り選手の後に、いわゆるBチーム選手の打撃練習を見ると、やはりレギュラー選手とは明らかな差があった。
どうすれば打てるようになるのか?選手と中谷監督を始めとしたスタッフとの対話を通して、自分が打てる形を追求していくことが要因となっているようだ。武元は「自分は球の軌道に対し、ラインに入れることを意識しています」とそれぞれが自分を打つポイントを持っている。
また、智辯和歌山の選手たちは体格がいいが、施設面の進化によるところが大きい。プロ入り選手の寄贈により、ネット裏には、本部席が設置された。電気が使えるようになったことで、冷蔵庫や炊飯器を置くことができ、補食の管理がしやすくなった。選手たちが最も使用するグラウンドにそれがあるだけでもかなり違う。
夏の期間では、練習後のクールダウンとして理由するプールも設置されている。全面人工芝の雨天練習場の2階には多くの器具が設置されたトレーニングルームがある。寮にも、多くのトレーニング器具があり、寮に入っている選手は「しっかりとトレーニングができていいです」と効果を実感する。
個々の力、思考力を伸ばす期間と徹底して練習する期間を分ける
武元一輝(智辯和歌山)
智辯和歌山はチームとして一致団結して、全国の強豪を破ることを目指しながらも、「個」の実力、思考力を伸ばすことも重要視してきた。そこで力を入れたのは冬の練習。選手たちは自分自身のスキルを伸ばすために、練習に取り組んだ。指導者主体ではなく、選手たちがしっかり考えている。
阪神、楽天、巨人とプロ3球団渡り歩いた中谷監督は、次のステージで活躍するには、こういう時間こそ大事だと考える。練習試合についても、チームとして勝利するために戦術を固める時期、個人をアピールする時期を分けた。春季大会前の3、4月の練習試合では、冬に取り組んできた課題克服、スキルアップした成果を披露する場となった。
次のステージに通用するために、選手の自主性を育む。そのために練習内容についても変化を加えた。
ただ、高校野球の頂点である甲子園優勝を果たすためには、徹底的に追い込んで、自分の限界を超えるための練習をする時期も当然必要となる。
6月には強化練習期間に入る。技術練習をメインに取り組んだというこの期間では、打撃練習も、守備練習でも徹底して「量」を積んだ。守備練習では2時間を超えることもある。
「ずっと打ち続けるノックをしている自分もつらかったですね」と中谷監督は笑うが、自分と向き合って、スキルを伸ばす。選手、指導スタッフが懸命に汗を流しながら、量を多くこなす時期も過ごす。そうしたメリハリをつけながら、智辯和歌山はレベルアップをしてきた。
連係プレーなども徹底的に突き詰めて練習するのも強みだ。夏前の練習ではノックの前に投内連係プレーが行われていたが、中谷監督は選手たちにプレーの根拠を求めている。どういう判断で動いたのか、アウトにするためにはどんなプレーが最善なのか。練習中からも厳しい指摘が飛ぶ。
「何であかんのか、考えようよ!良くても悪くても理由がある」
3年生たちは、野球のプレーに対しての理解度が増したという。主将の岡西は、
「(中谷監督の指導は)細かいですね。野球だけではなく、私生活面であったり色々指導していただいて、自分が感じたのは野球だけやっていても結果は出ないと感じて、野球以外の面で勉強面や私生活を疎かにしていたら野球にも隙が出ると思います」
捕手の渡部は、捕手出身の中谷監督からは厳しく指導を受けてきた選手だ。
「入学して、試合にも出られるようになって、指導を受けた時、ここまで細かくやるんだと、覚えないといけないんだと驚いた記憶がありますし、必死でした」
すべてにおいて中身の濃い野球部というのがわかる。今年の3年生たちは2年生で甲子園優勝を経験。春夏連覇、そして夏の甲子園連覇を目指して、臨んだ新チームであったが、現在に至るまで大きな試行錯誤があった。
(取材=河嶋 宗一)