女子硬式初!東北楽天と連携を取るクラーク記念国際しかない方針とは【前編】
NPB東北楽天ゴールデンイーグルスと提携し、2018年4月に誕生したクラーク記念国際高校・仙台キャンパス女子硬式野球部。創部初年度に1年生だけで臨んだ選抜大会を含め、これまでの全国大会で準優勝2回の実績を残す。今年8月のユース大会では、直前の選手権大会で優勝した神戸弘陵に準々決勝で敗れたものの、出場校で唯一、延長タイブレークの接戦まで持ち込む粘りを見せた。
1期生でOGの小野寺佳奈投手は、在籍時に125キロの日本高校女子最速記録(当時)をマーク。今夏の全日本選手権で優勝したクラブチームのエイジェックでも、すでにエース級の活躍を見せる。プロ球団から直接指導を受ける日本で唯一の高校生チームを率いる元楽天選手・森山周(まこと)監督に、プロとアマチュアの指導の違い、チームの変化、などを聞いた。
森山周監督
ーークラーク記念国際が楽天と提携してから今年で4年目になります。指導するにあたって気をつけていることなど、ありますでしょうか?
森山:プロ野球に入ってくる選手は、ある程度の基礎ができていますから、いきなり新しいことを教えることが多いですけど、高校生には〝わかりやすく、わかりやすく〟伝えることが必要です。基本的には同じことを教えているのですが、少し言葉の表現は変えるようにしています。例えば「軸足に体重を乗せろ」とプロでは簡単に言いますが、軸足に体重を乗せるには、まず逆の足に乗せてから、重心を移動することが必要です。プロではしない、もう1個前の段階から話をしていくと、なんとなく伝わるようになるのかなと思います。
ーープロと組んでいるからこそできる指導内容は?
森山:僕がクラーク記念国際の監督になってから、楽天の戦略室を多く利用するようになりました。間違いなく他の高校でやれないのは、プロ野球選手の動画を使った指導でしょう。楽天生命パークのプロ野球公式戦では、三塁側、一塁側、バックネット裏、真上、ピッチャー側と、様々な方向から選手の動画を撮影しています。「この日の、あの選手の動画を送ってください」といえば、すぐに戦略室から動画が送ってきます。自分とタイプの似ている選手の動画を見せてイメージを湧かせたり、良い部分を取り入れたりすることもしています。
打つだけじゃなく、盗塁のスタートや、ピッチャーのけん制などの動画もありますから、「ここに(投手のけん制の)クセが出ているよね」という話しもできます。そういった細かい話をしていくことで、彼女たちの野球の経験値や知識が増えていきますね。戦略室の(元巨人・楽天の)金刃(かねと、憲人投手)とは現役時代から仲が良かったので、チームの仕事の合間にグラウンドに来てもらって、(クラーク記念国際の)投手を指導してもらったりもしています。
高校野球というと、全力で走って、全力で投げて、全力で振って、というイメージですが、「それだけじゃないんだよ」と分かってもらえたと思いますし、全体的に野球に興味を持ってもらえた感じはあります。興味を持つからこその難しさを、分かってしまった子もいるでしょうね(笑)
クラーク記念国際女子野球部
ーー夏の選手権では、初戦で至学館にまさかの5回コールド負け(0-11)。ところが3週間後のユース大会では、選手権で優勝した神戸弘陵と準決勝で対戦し、タイブレークの接戦まで持ち込みました。
森山:ユース大会に出場した1、2年生は、(選手権の)失敗を失敗のまま終わらせようとせず、(選手権の)敗戦を糧に、その後の練習でも練習試合でも「負けたくない」という気持ちを持って戦ってくれました。とにかく熱量をもって取り組んでいる様子が、指導者の側にも伝わってきました。あの敗戦があったから「負けたくない」「勝ちたい」「うまくなりたい」という熱が生まれ、僕たちが何も言わなくても、どんどんうまくなっていきました。まず練習でやったことを練習試合で出せるようになってきて、その成功体験がユース大会につながっていったのかなと思います。
練習内容をガラッと変えたつもりはありませんが、キャッチボールの仕方は変えました。なんとなく(キャッチボールを)している選手がまだいましたので、「キャッチボールが一番の守備練習で、ここが一番重要だよ」と伝えました。具体的には、長くても塁間ぐらいまでだった距離を、一塁線のラインから50mぐらいまで伸ばしました。少しでも距離を伸ばし、低く、強い球を投げるために、「回転のいいボールを投げよう」という話をしました。シュートやスライダー回転がかかると相手に届きづらくなりますが、指にかかったいい回転のボールを投げることによって距離を稼げます。風がある時に回転量が少ないと、曲がっていったり、風に負けて落ちていったりしますが、スピン量があれば、風に負けない、いいボールがいきます。
以前とは全くチームが変わりましたね。すごく意識を高く持ってやってくれました。一人がエラーしたら、最初からやり直しの〝ノーエラー〟というノックがありますけれど、これは選手の方から「もっと緊張感を持ってノックがしたいので、〝ノーエラー〟をやってほしい」という提案があって始めました。また、試合が終わった後のミーティングで監督は少しだけ話をしますが、その後に選手だけで1時間もプレーについて話し合っている時がありました。野球に取り組む意識が大きく変わった感じはあります。
そして今年のチームの柱が語る意気込みは以下の通り。
■岡田梨花主将(2年)
今年のチームは全員野球を追求しています。1つのミスに対して、誰か一人というのでも一部というのでもなく、全員で話し合って解決することを心がけています。夏の選手権は試合での緊張感が足りなかったと思いますので、練習から緊張感を出していくにはどうしたらいいか自分たちで考え、監督に〝ノーエラー〟のノックを提案しました。また、日頃の行いが野球の試合につながってくることを強く感じ、「私生活から大事にして行こう」ということは選手全員に私から言いました。登下校の時にゴミを見つけたら拾いますし、挨拶もしっかりするというような誰でもできることから始めています。目標は日本一ですが、クラーク記念国際は全国にキャンパスがありますし、大学や専門学校などの系列校もありますから、まずは応援してもらえるチームを作っていきたいですね。
■網代日美樹投手(2年)
登板した試合で思うような結果にならず、マウンドに立つと不安がよぎり、自分のボールに自信が持てなくなった時期がありました。指導者の皆さんは「それでいい」と言ってくれたのですが、どうしても満足いかず、自分を追い詰めました。この夏に外野手をはじめ、味方の投手を後ろから見て「もし自分が同じ立場だったら」というのを1球1球考えてプレーするうちに、「また投手に戻りたい」という思いが強くなりました。最速125キロが目標ですが、それよりも常時120㌔台を出せるよう、練習に励んでいます。楽天からいただいた動画では、早川(隆久)投手や松井(裕樹)投手を拝見しました。特に早川選手は、足を上げてからのテイクバックがスムーズで、力も抜けていて、自分にはない部分ですので参考にさせてもらっています。来年はエース番号をつけて試合で投げられる投手に戻ります。
(取材:河嶋 宗一)