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ミスして当たり前だからこそバッティング!独特のスイング軌道で革命を起こす! 開成(東京)野球部訪問【前編】

2019.03.16

 東大に毎年100名以上の合格者を輩出している全国トップクラスの進学校・開成。野球部は2005年の夏に東東京でベスト16にまで勝ち進んだ実績を持つ。まさに文武両道のチームである。
 2012年にベスト32に入って以来、上位進出から遠のいているものの、打撃を中心とした野球は今もなお健在である。日本有数の進学校が取り組む打撃特化型の練習に迫る。

バッティングこそが野球界の本質

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テニスボールを使ってバッティング練習中!

 開成野球部は週に1回だけグラウンドを使って全体練習をする。それ以外はグラウンドを使って練習をすることができない。これは2011年の取材の時から何も変わらない。そして貴重な週1回の練習のほとんどを打撃練習に費やすというのも、8年前と変わらない。

 1年生ながら夏は5番、秋には2、3番に座っていた内田開智選手は「打撃練習しかやらないのでビックリしました」と入学当初の印象を語る。
 また2年生の清水駿太郎選手は「中学の軟式の時は全員で揃ってアップをやったり、守備に重点を置いて練習したりと普通のチームだったのですが、高校に入るとほとんどバッティングばかりで少し驚きました」とコメントする。

 打撃に特化した練習をする開成。これには青木秀憲監督の2つの考えがあった。1つは
 「もちろん守備で勝つ、投手で勝つというのも大事な要素ですが、守備は100%を要求されますので、エラーをしてはいけない。それを週1回の練習で実現するのは難しいので、 守備は誰がどう見てもアウトという打球だけでも処理してくれれば試合は大崩れしないので、それぐらいまでしか要求できないです。
 それくらいの守備で勝とうとすると、バッティングを良くするしかない。」と青木監督は語る。

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選手に指示を出す青木秀憲監督

 さらに、青木監督はこう続ける。
 「野球はミスをするのが当たり前のスポーツなのに、守備ではミスをするとクローズアップされるので、あたかも失敗をしてはいけないという雰囲気になっています。野球というスポーツがなんとなくミスをしてはいけないスポーツ、ミスをしちゃいけないと選手たちは思ってしまいます。
 そうすると、ミスした選手に対して指導者は抑圧的な指導をするという循環に陥ってしまうんです。」と、守備でのミスが許されないことの影響を語る。

 一方、「バッターは打率3割、4割くらいで良いバッター、ということは失敗が許される。空振りもあり凡打もありファールもある。その中でヒットを3割、4割出せるのが良いバッターであって、毎回ジャストミートできるかと言うとそういうわけではないんです。それがバッティングなんです」と青木監督は語る。

 ミスが当たり前のスポーツだからこそ、守備ではなくバッティングを重視する。さらに言い換えればバッティングを優先に野球をやるというのが、野球界の本質的な部分ではないかと青木監督は考え、今も思い切って打撃練習に多くの時間を割いているのだ。

[page_break:“J”や“し”を描け!]

“J”や“し”を描け!

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真剣な眼差しでタイミングを合わせる

 では実際にどんな理論を伝えているのか。今度はテクニカル面について話を聞いてみた。
 「ボールとバットを真っすぐ正面衝突させるというのが理想です。真っ直ぐ来るものは真っすぐ跳ね返すのと一番力がボールに伝わりますし、飛距離にも影響する。だから球場の作りはセンターが深くできているわけですから。
 そのためにも、バッティングで一番大事なのは、バットとボールが当たる時の角度。さらに言えばバットの軌道、バットの芯がどんな軌道を描くか。それが一番大事な部分かなと。」

 一番のポイントが軌道だと考える青木監督。では理想の軌道とは何だろうか。
 「生徒に対して使う言葉としては、右バッターであれば アルファベットの“J”を逆の書き順で書いていくイメージ。左バッターであれば、ひらがなの”し”を逆の書き順で書いていくイメージでバットの軌道を描くことです。
 つまり、打ち出しは円運動から始まってバットのヘッドを加速させる。そこから少しアッパーでも構わないので、今度は肘から先を何とかうまく使ってセンター方向へ真っすぐな軌道でバットを出して、ボールの軌道とバットの軌道を正面衝突させるんです。」

 この理論について、青木監督から統率力があると評価されている丸澤勇介選手に話を聞くと、
 「やってみたらすぐに飛距離が変わってきたので効果があると言うか、一般的には最短距離でないと、というのがあると思うのですが、ヘッドの移動距離を大きく稼いで打つことで飛距離が変わるというのは実感できました」と効果を実感していた。

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バッティング練習の様子

 また青木監督が注目している酒寄壮生(さかよりまさき)選手は、「青木先生が言ってることを自分の中で噛み砕いてやっていくと、自分でもビックリするぐらい飛距離とかも変わって実際に効果が出ていてすごいなと。ありがたいなと思っています」というコメントも出た。

 さらに、4番に座る佐藤和真主将も「普段は体いっぱい振らないとヘッドが出ないのですが、試してみると結構弱い力でも、体はまだ開かずともヘッドが出せるようになったので飛距離がどんどん伸びていって。ここを意識することで差し込まれることが少々あっても飛距離は伸びました」と語る。

 実際に酒寄、佐藤選手2人のスイングの軌道とスピードをミズノ社のアプリ「スイングトレーサー」で計測してみると、スイングスピードは2人とも130キロ中盤から後半を記録している。そしてヘッドが後ろで大きな円を描いている。(実際の軌道はこちら)青木監督の教えが実践できている証拠である。

 前編はここまで。後編ではこういった思い切った発想に行きつく理由や、春への意気込みに迫った。後編もお楽しみに!

(文・編集部

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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