Column

県立北条(愛媛)澤田 勝彦監督が語る 「一流の控え選手たち」

2016.03.11

 1988年から2006年までと2008年から2009年まで監督として母校・愛媛県立松山商業高等学校を率い、翌年からは愛媛県立愛媛北条高等学校で指揮を執る澤田 勝彦監督。松山商であげた数々の栄光に欠かせない存在だった「控え選手」。そして控え選手にも分け隔てなく大事にしている「素直で謙虚」の真意。さらに先日、愛媛北条であった「嬉しい出来事」についても語って頂きました。

松山商・北条で印象に残った控え選手たち

県立北条高等学校の澤田 勝彦監督

 控え選手から頑張った選手でまず頭に浮かぶのは、松山商を1997年度に卒業した後に城西大、昭和コンクリート、カナダ独立リーグ、愛媛マンダリンパイレーツを経て福岡ソフトバンクホークスに入団した西山 道隆(現:3軍マネジャー兼副寮長)です。

 彼は入学時までは遊撃手。キャッチボールの時に腕の振りが柔らかく、本人も「やってみたい」と言ったので投手に転向させたのですが、投手の基本の部分から練習をよくする選手でしたね。3年生の時は1996年夏の甲子園優勝に貢献した新田 浩貴(元・東芝)よりスピードは出ていました。エースは経験で新田にはなりましたけど、2番手は安心して任せられる選手でした。

 2008年12月10日に僕が松山商の監督に急遽復帰した時にいた西原 輝日本福祉大卒)という選手も忘れられません。彼は当時、3番手から4番手の投手でしたけど、小柄でも頭脳的だし捕手も手薄だったのでコンバートしたんです。

 正直言えば西原は本来、起伏が激しいレギュラーの捕手に刺激を与えるためのコンバートだったんです。でも、その捕手が変わってきた時には当初明らかにあった力の差がなくなって、西原が「外せない」選手になっていたんです。「自分が下手だ。時間がない」と知っているからアドバイスも素直に聴き入れるし、1回言ったことはすぐに実行してみるし、浸透の速度も早かったですね。

 愛媛北条で言えば私が来たときに2年生だった中川という選手がいます。中学時代は捕手をしていたんですが、ひざが割れない。でもよく声が出るし野球は下手でも野球自体を勉強しているし分かっている。ですので、チームに活気を出せる選手だったので、4番一塁手に抜擢したんです。そうしたらどんどんバットを振って力がメキメキ付いた。最後は本来の4番になってくれました。

 今年卒業した江草 康司も印象的でした。本来はレギュラーとして期待していたのが、大会前にことごとくケガをして離脱。そこで突き放しておいて、5月に最後のチャンスを与えたら結果を出して三塁手のレギュラーを取りました。

■注目動画
「いつか、僕と戦うかもしれないライバルへ。」

「生きる道は、どこだ。」

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[page_break:控え選手が最後に爆発する過程]

控え選手が最後に爆発する過程

松山商業ベンチ(2013年 秋季愛媛県大会中予地区予選1回戦より)

 そんな中で一番インパクトがあったのは1992年・松山商相田 博隆創価大~現:松山フェニックス助監督)ですね。
彼はいいものを持っていたんですが、気が弱くて。3年春の四国大会決勝でも内野の悪送球をカバーリングしに行った時にトンネル。入学時から大きな期待を持っていたんですが、捕手をしても右翼手をしてもそんな状況だったので、完全に突き放して自力で這い上がってくるのを待ったんです。バッティングもノックもさせず手伝い役に回して「練習するなら全体練習後にやれ」と告げました。

 そうするうちに人づてに「黙々と練習していた」という話が伝わってくるんです。それでも6月末の愛媛大会抽選前日までそのままにしておいて、翌日の練習試合で最終テストとして、いきなりライト7番先発させました。そうしたらこれまでと違って堂々と打席に入る。満塁走者一掃の二塁打はじめ2試合で11打点。愛媛大会では打力重視の代打の切り札として使いました。

 そうしたら夏の愛媛大会2回戦です。宇和島東と対戦したとき当時2年生の平井 正史(現:オリックス・バファローズ一軍投手コーチ)から9回裏二死、11球粘って6点差を追いつくことになる代打左中間同点打を放ったのが相田。創価大に進んだのも、そのダイジェストが全国放送で流れたのを見て岸 雅司監督から「ぜひ入学して欲しい」と電話がかかってきて。人生も切り開いた一打になりました。

 1996年夏の甲子園決勝戦で「奇跡のバックホーム」を起こした矢野 勝嗣(松山大~愛媛朝日テレビ)も行き着くまでは一緒です。いいものを持っていても出し切れない中、控えに甘んじても腐らず一生懸命黙々とやったものが最後に爆発したんです。

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「素直」で「謙虚」の真の意味

チーム一丸となって状況を確認する北条の練習風景

 私はうまくなる選手は「素直」で「謙虚」であることが大事。「ただ、その意味は履き違えないようにしろよ」と選手たちに言っています。
「素直」とは「無理難題なことでも『はい』と返事ができ、行動に移せる」。「謙虚」とは「できないことができるようになっても、まだまだと自分にいいきかせる」。これまであげた控え選手はそれがみんなできていた。練習からそのような姿勢でやる子が伸びていますね。

 その姿勢は卒業してからも大事なこと。「出てからが勝負。レギュラーや甲子園に出たことで明るい人生が約束されたわけではない。悔しさを持っている子の方が強い」。卒業するとき、僕はいつも言います。ですから、私は控え選手にも同じように悪かったら怒りますし、よかったら褒めます。野球を通じ、社会でも通用する本当の意味での「素直で謙虚」をつかみ取ってほしい。それを見逃さずメンバーの不協和音をなくすことが監督にとって一番の仕事だと私は思っています。

 さらに言えば、それをしている選手は起用した時、たとえ失敗してもみんなが納得する。相田の話に戻れば、あの時に代打を告げた時、ベンチが「ここはお前しかない!」と盛り上がって、相田は泣きながらネクストサークルでバットに滑り止めを塗っている。そして結果が出た。

矢野の場合もベンチ前で一切キャッチボールはさせずライトに入れたのは、下準備がなくても出せる可能性があるから、おばあさんが火事の時にタンスを持ち上げるような「火事場の馬鹿力」という言葉がありますが、普段の練習から土壇場での潜在能力を出せるような信頼関係と的確な指摘をすることが控え選手の結果につながると思います。

 最後に余談ですが、今年の卒業式後の話です。例年開催している野球部のセレモニー時、私と部長に花束とアルバムをプレゼントしてくれたプレゼンターは、卒業生22人中、ベンチに入れなかった選手2人と、男子マネジャーと女子マネジャーでした。その気持ちに涙が出て仕方がなかった。

「本当にありがとうございます。何が嬉しいというかと、この4人を選んでくれた保護者の皆さんと3年生のみんながそこを解ってくれたことです」。そんな挨拶をして、4人も泣いてくれました。今はキャプテン・レギュラーとかがクローズアップされる時代ですが、控え選手が解ってくれる。それが私にとって一番嬉しいことです。

(取材・写真:寺下 友徳

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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