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巨人4位・伊藤優輔の高校時代を恩師が語る「中学の実績を一切書かなかった」

2020.12.25

 新型コロナウイルスの影響で例年通りとはいかなかった野球界。10月に行われたドラフトも例外ではなく、今年は少し特殊な形で開催された。そのドラフトで読売ジャイアンツからドラフト4位指名を受け、プロの扉を開いた男が伊藤 優輔だ。(都立小山台出身)

 都立小山台時代は都立の星と呼ばれ、2年生の秋にはチームを初の甲子園に導く投球を披露し、2014年の選抜に21世紀枠で出場。その後は中央大、三菱パワーを経て150キロを計測するまでに成長を果たし、今秋プロの世界を切り開いた。そんな剛腕はどんな球児だったのか。恩師である福嶋正信監督に話を伺った。

2年生の夏が伊藤優輔のターニングポイントとなった

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高校時代の伊藤優輔

 伊藤投手に福嶋監督が出会ったのは都立小山台に入学をしてからのこと。グラウンドが狭い都立小山台は様々な場所を有効に活用して短い時間で練習をすることで有名なチームだ。伊藤投手も他の選手と同じく、入学直後はトレーニングを中心としたメニューに参加させていた。

 そのため、福嶋監督はきちんとプレーをする姿をなかなか見ることが出来なかった。しかし5月、都立小山台が練習試合で佼成学園と対戦をした際、藤田 直毅監督に「凄い投手が入学しましたね」と言われ、初めて中学までの伊藤の実績を知ることとなる。

 「伊藤は一切中学時代までの実績を書かなかったんです。だから全然知らなくて、それを聞いてからブルペンで投げ込むボールを見てAチームに合流させて、遠征にもつれていきました」

 実際に練習試合に登板させても、投げていたボールの質は1年生の段階では高く、福嶋監督の中では夏までに十分戦力になると判断。バント処理など、夏までにやっておくことはあったが、伊藤の高いポテンシャルを発揮し、少しずつ克服していった。

 そして1年生の夏、伊藤はベンチ入りを果たし、公式戦にも登板。チームはベスト8まで進出と、確かな結果を残す。そして新チームがスタートすると、伊藤は先輩たちがいる中でエースとして活躍することとなる。

 福嶋監督の中ではそれだけ伊藤の技量は高いものがあると感じていたが、それ以上に評価するのは性格面だった。

 「中学時代から凄い選手だったので、持っているものは元々凄かったです。けど、それまでの実績を書かないような謙虚さだったり、歩く姿勢や授業態度だったりを見ても人として立派でした。だから、周りの生徒や先生方に尊敬され、愛されて支えられて成長できたと思います」

 そして2度目の夏、今度はエースとして迎えた初戦の日体荏原戦(現日体大荏原)との試合は、1点リードのまま9回まで進み、二死ランナーなしと勝利まで残りアウト1つのところまで来た。だが、誤算はここからだった。

 「そこまで打たれていませんでしたし、二死だったのですが、ボールが13球続いて押し出しで追いつかれてから、勝ち越し打を許してしまいました」

 福嶋監督の中では最終回二死はタイムを取ることを、勝つためのルーティーンにしてきた。それをできずに、そのまま試合を進めてしまったことに「申し訳なかった」と振り返りつつも、こう語った。

 「日体荏原に敗戦した時の悔しさが、伊藤を成長させたと思います」

[page_break:結果を気にせずに精いっぱい投げて欲しい]

結果を気にせずに精いっぱい投げて欲しい

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福嶋正信監督

 その後、最高学年になると、チームのことまで考えられる伊藤の一面を評価し、福嶋監督は主将に指名。本来であれば投手に主将を任せない福嶋監督だが、伊藤のそうした才能もあることを感じ取り、あえて任せた。

 以前の取材の際、伊藤本人も「主将をやって周りが見えるようになった」とコメントしていたが、福嶋監督の狙い通りだったといっていいのではないだろうか。

 そして迎えた秋、伊藤の力投でチームはベスト8進出。来春の選抜の21世紀枠推薦校に選出された。この秋の力投を通じて、福嶋監督は伊藤の逆境に対する強さを確信した。

 「1年生秋の一次予選で日大二との一戦でも雨で1時間の中断あっても初球でストライクを投げ込む強さがありましたし、早大学院戦は延長15回を完投。2年生の秋は早稲田実は粘りの投球を見せるなど、苦しい場面を乗り越えるメンタルの強さもありましたね」

 逆境をはねのけて切り開いた甲子園は履正社の前に敗れたが、甲子園での伊藤投手の投球を福嶋監督は懐かしそうに振り返る。

 「エラーこそありましたが、伊藤の投球は良かったです。甲子園の大観衆が凄くて感動しましたが、その重圧の中で良く投げてくれたと思います」

 その後、都立小山台は春季大会の初戦で都立雪谷と対戦し、7対9で敗戦。伊藤は完投するものの、鈴木 優(現オリックス・バファローズ)との投げ合いを制することが出来ず、最後の夏へ。

 2季連続甲子園を目指した都立小山台駿台学園足立学園、そして朋優学院とライバルを倒していきベスト8進出。甲子園まで3勝と迫ったが、帝京の前に力尽き甲子園は届かなかった。

 福嶋監督は春、そして夏の伊藤投手について「よく頑張ったと思います」とコメント。その後は中央大へ進み、1年生からリーグ戦に登板。怪我の影響で一時離脱を余儀なくされたが、4年生の時はエースとして活躍した。中央大での4年間の活躍は福嶋監督の目にどのように映っていたのか。

 「入れ替え戦の時はハラハラしながら見ていましたね。ただ、ケガをしている期間に栄養学やトレーニングなどいろんなことを勉強したから、150キロを投げられるようになったと思います。ですので、やっぱり逆境に強い、ピンチをチャンスに変える男だと思いましたね」

 またOBとして練習がない時にはグラウンドに足を運び、練習の手伝いや指導をしてくれていたとのこと。そうした一面も伊藤投手の人として優れた一面なのだ。

 そして三菱パワーで2年間腕を磨き、2020年のドラフトで巨人から4位指名。プロへの扉を開いた。直後に伊藤投手自ら電話で報告をもらったとのことだが、プロ入りしたことについて

 「両親をはじめ周りの人たちが伊藤の頑張る気持ちを育てたからプロになれたんだと思います。心が成長するから技術も成長するので、伊藤は大学の時も遊ばずに一生懸命やったからプロ野球選手という夢を叶えたと思います」

 巨人という12球団屈指の競争率の高い球団に入り、「これからが大変だと思います」と心配そうに語る福嶋監督に、伊藤投手へのメッセージをもらった。

 「伝えることは何もないです。とにかく結果を気にせずにやって欲しい。精一杯投げてくれればそれでいいです」

 都立小山台から巣立った伊藤投手の活躍は、これからも後輩たちの励みとなり道しるべとなっていくはずだ。

(記事=田中 裕毅

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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