最新トレーニング&マシンを紹介! 野球につながる鍛え方 (取材協力:ゴールドジム)
高校球児にとって、冬は忍耐のとき。大好きな白球から離れ、きたる春に向けて体を徹底的に鍛えぬく。辛いトレーニングだが、体の鍛え方しだいで個人もチームも大化けする可能性がある。今回は「全ての人々に結果を」をコンセプトとする世界的フィットネスクラブ、ゴールドジムの方に最新トレーニング事情と成功するトレーニングの秘訣を教わってきた。
世界30カ国、300万人の会員を誇るゴールドジム
世界的フィットネスクラブであるゴールドジム
世界30カ国、300万人の会員を誇るゴールドジム。日本では全国45店舗を展開している。今回はそのひとつ、浦安千葉店にお邪魔した。案内してくれたのは米倉拓也さんと三井悠嗣さん。お二人ともトレーナーであり、「ゴールドジムベースボールクラブ」(東京都野球連盟所属)の部員でもある。
「浦安千葉店はクラブのトレーニングでも使っています。最上階にはピッチングマシンとブルペンがあって、マシンも30~40台完備されています。筋力トレーニングと技術トレーニングを並行してできるのがメリットですね」と語るキャプテンの米倉さん。三重県の四日市工業から国士舘大学と野球を続け、ゴールドジムに入社して5年。クラブチームでは外野を守り主砲でもある。
三井さんは神奈川県出身。大和リトルシニアから東海大相模を経て旭川大と野球を続け、1年間独立リーグでのプレー後入社して4年目。
「学生時代、そこまで筋力トレーニングはしていなかったんですが、ゴールドジムに入って本格的に取り組むようになり、足が速くなりました」
クラブチームでは内野を守る俊足選手。今年の社内運動会では、猛者ぞろいの社員選手が集う中、50m走で優勝した。
(左)三井悠嗣さん、(右)米倉拓也さん
チームは2011年東京都クラブ春季・秋季大会優勝、続く関東連盟クラブ選手権大会でも準優勝するなど強豪クラブチームとしても知られている。
トレーナーでもあり選手でもある彼らに、まずは最新トレーニング事情について聞いた。
「先日も展示会がありましたが、新しいマシンはどんどん出ています。理論も最近ではファンクショナルトレーニングや体幹トレーニングが流行していますね。でも、最新マシンにしても最新トレーニング理論にしても、まずはベースの筋肉を作り上げてから進まないとケガのもとになってしまいますから注意が必要です」(米倉さん)
これから、ゴールドジムベースボールクラブも使用している最新マシンとその効果をいくつか紹介する。しかし米倉キャプテンが「僕がトレーニングを積んで実感したのはケガが減ったこと」というように、筋力トレーニングは、パフォーマンス向上と同時にケガをしにくい体作りにもつながる。ムチャをしたり興味本位でトライしたトレーニングでケガをしてしまっては元も子もない。これらはあくまで「上級者向け」であるということを知っておいていただきたい。
[page_break:トレーニングマシン最前線]トレーニングマシン最前線
BILT
マシンは「最大限の効果と最大限の効率」を追求して日々進化している。なかには野球の動きに近い形でトレーニングできるものもある。
1.BILT
これまでのスクワットマシンとちがい、左右にも動けるのが特徴だ。従来のタテの動きを繰り返すスクワットに横ステップを加えることができる。イメージとしては野球でいうペッパートレーニングを、負荷をかけながらやっているようなもの。サイドランジも行うことができる。
2.FREE MOTION DUAL CABLE CROSS
アームをタテに12段階、ヨコに9段階可変できるのであらゆる動作ができる。例えばバットスイングの要領でケーブルを引くこともできるので、野球に直結した動きで負荷をかけられる。「上下前後左右に動かせ、”三次元”のトレーニングを可能とするマシンです」(米倉さん)
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バーンマシンを実演する三井悠嗣さん
3.バーンマシン
クラブチームでも愛用されているというマシン。「短時間でのウォームアップにもなりますし、イッキに追い込むトレーンングとしても有効です。うちのチームでは試合会場に持っていって、円陣でオーダーを聞きながら使ってます(笑)」(米倉さん)。もとはボクシングのパンチングボールから発想を得たツール。重いタイプで5キロあり、それを肩の高さまで持ち上げて回すだけでもかなりの負荷がかかる。
筋力アップは“確実な”積み重ねが最も大事
筋力トレーニングについて語る三井悠嗣さん
最新マシンを実際に体験してみたが、確かに負荷が逃げずたった数回で使った筋肉に張りが出る。しかしこの“やった気”になるのが一番怖いと言う。
「最新のメニューを行い、どこかしゃれたことをして満足しても、それが野球につながるとは思えません。最近の高校生は能力が高い。筋力トレーニングを始める前からある程度筋量がある選手も多い。だからいきなり上級レベルから入りがちなんですが、全然違うフォームでケガをしてしまったりするんです。最新マシンは細かな動きができるようになったぶん、正しいフォームや負荷のかけ方、意識の仕方が難しくなっています。新しいことをやってもいいとは思いますが、まずは基本をきっちりとやりながら取り入れていってほしいですね」(米倉さん)
なぜ筋力トレーニングをするのか。それは野球のパフォーマンス向上のためだ、という大前提を忘れてはいけない。
「個人的に筋力トレーニングでは柔軟性と筋肉強化に重点を置いています。つまり、筋力トレーニングにストレッチの要素も入れるんです。たとえばスクワットなら足を広げてやることで股関節をやわらげることができます。トレーニングして体が固くなることもあるので、そうならないように意識し続けてます」(三井さん)
内野手として要求される動きを思い浮かべ、自分に足りない、必要だと考える筋力を鍛える。プレーから逆算していけば、おのずとやるべきトレーニングメニューが決まってくる。そうしたら次は“正しく”メニューを消化できるようにする。
「欲張った重さを持たず、適正負荷でのトレーニングをするように心がけています。スクワットならフルで。ベンチプレスもフルレンジ。動作を浅くすれば重量も上げられますが、関節への負荷が増してしまうリスクがある。これはケガの元にもなります。であれば、自分の身の丈にあった重さでフル動作をやった方が効果も得られますし、ケガのリスクも減ります」
「適切な負荷を考えながらトレーニングして欲しい」
持ち上げる重量の大きさより、正しいフォームの方が何倍も大切だ。そしてメニューがもたらす効果を知っておくことも重要になる。
「筋力トレーニングの基本メニューとしてスクワット、ベンチプレス、デッドリフトといったものが挙げられると思います。なぜこれらが基本メニューなのかというと、多関節運動だからです。例えばスクワットなら足の前、後ろ、ふくらはぎ、お尻、腰、背中を使う。鍛えられるところはひとつではないんですね。一度に多くの部位を鍛えられる=それだけ効果的なメニューといえます。どこが鍛えられるかを知っていれば、逆に使っていない部位は他のマシンで鍛えて補充することもできますから」(米倉さん)
せっかく辛いトレーニングをするのだから、最大限の効果を得たい。そのためにはまず、
「自分の野球のプレーを思い返し、鍛えたい部位を明確にする」
次に
「自分が望む部位を鍛えるメニューを調べ」、
「正しいフォームと適性な負荷で行う」。
このアプローチがきちんとできれば、100%効果は出ると言いきれる。
「普通に考えて、筋量が増えればパフォーマンスは上がります。そして正しくやればやっただけ筋肉はついてくれます。ただ、やっているトレーニングが正しいのか間違っているのかは、自分ではなかなか判断できない。ですから、トレーニングの合間にキャッチボールやバッティング練習をして野球の動きで確かめてみるのがいいのかもしれません。あと、選手同士でフォームなどをチェックして間違っていたら指摘してもらうのもいいかもしれませんね」(米倉さん)
下半身の力を上半身に伝える
三井さんがランジの時に使うダンベル
それでは、「野球につながるトレーニング」を実践しているお二人の実例を見てみよう。
まずは内野手で俊足タイプの三井さん。
「よく言われているように、最初はやはり下半身の筋量を増やすべきだと思います。で、その後に重要になるのがお尻の筋肉かと。野球というスポーツは下半身のパワーを上半身に伝えることで、よりパワフルな動きができる。その下から上へパワーを伝達する役目を負うのがお尻です。実際、お尻が大きい選手がいいパフォーマンスをする、という印象を持たれたことがある人も多いと思うんですよね」
自分に必要なのはお尻の筋肉。では、どのメニューで強化をはかるかというとスクワットと、あともうひとつはランジだ。
三井さんが行うランジはダンベルを使う。ゴールドジムにはさらに「ケトルベル」と呼ばれる新型ダンベルといえるものがある。ダンベルは“持つ”ものだが、ケトルベルはグリップが上についているため“吊る”感覚に近い。より重みを感じながらランジを行うことで効果アップが期待できる。
続いて長距離砲の米倉さん。
「自分は打球をより遠くへ飛ばすことを意識しています。ロングティーなどをすると僕は腹筋が疲れるんですね。だから腹筋を鍛えようと考えたことがあります。バッティングは下半身の力を上半身に伝え、最後は体幹でひねって終わる。この“ひねる”動作で必要とされる腹筋が弱いと、せっかく下から伝わってきた力が弱まってしまいます」
必要な筋肉は腹筋。メニューは誰もがやったことのあるであろう腹筋運動だ。しかし、意識の仕方には違いがある。
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「腹筋運動は足を上げることでバランスがとれなくなり不安定になります。そのぶんしっかりと腹筋を使わないと上体を上げることができません。これを1セット15回で3~4セットやるだけで十分。ちゃんと意識していれば効果は出ます。これが100回とかだと、仲間がいればモチベーションも上がるかもしれませんけど、一人では難しいでしょう。一人のときはしっかりと自分の腹筋を感じてあげながら、1回をきっちりやることに集中した方が効果は出ると思います」。
ゴールドジム 米倉拓也さん
プレースタイルの異なるお二人からは、奇しくも「下半身を上半身に伝える力」に必要な筋肉の必要性が聞かれた。もちろん考えようは人それぞれで、採用するメニューも各自違っていいのだが、筋力トレーニングのプロフェッショナルの意見として参考になる部分も多いはずだ。
「トレーナーとしてジムにいて感じるのは、やはり重さにこだわった人が多いということです。でも全然違うフォームでやっている。そこで正しいことを説明すると、それまで50キロであげていたものが30キロになってしまう。きちんと説明を聞く、ということもトレーニングの大事な一要素と知ってほしいです」(米倉さん)
「僕が感じるのは、フォームは間違っていても、メニューの種類などはいろいろ知っているな、ということ。だから1回のトレーニングでたくさんのメニューを消化されるんです。情報は頭に入っているんですが、その先、考えることへ進むのに苦労しているイメージがあります」(三井さん)
正しくやれば間違いなく成長する。だが、このシンプルなお題がいかに難しいことか。まずは「より重いものを10回!」と努力するのではなく「正しく1回!」と努力する方が得策だと意識を変えることが第一歩のようだ。
(文=伊藤亮)