西尾vs東海南
大ワザと小ワザで西尾が、粘る東海南を振り切る
<第104回全国高校野球選手権愛知大会:西尾2-1東海南>◇2日◇1回戦◇刈谷
例年よりも、3週間ほど早く梅雨明けした愛知県。連日、35度を超える猛暑が続いている。そんな中で、今年の第104回全国高校野球愛知大会が開幕した。まだ、新型コロナも完全収束はしていない中、猛暑対策も加えていきながら、さまざまな警戒をしていかなくてはならない。
それでも、開幕した愛知大会は多くのファンも足を運んでいたし、応援団も入っていた。多くの人たちが入場に並ぶ様子を目にすると、2年間失われていたいつもの夏が戻ってきたのかなぁという思いにもさせられた。
愛知黎明に勝つなどしてベスト16にまで残った昨年のチームに比べると、いくらか粒は小さいくなったということは否めない西尾。しかし、選手たちが真面目でひたむきに練習していく姿勢は変わっていない。というよりも、選手たちは「自分たちは、しっかりと練習して積み上げていかなくてはいけない」という意識があるからこそ、ひたむきに取り組んでいかれるのである。春季大会は、2次順位決定トーナメントで、滑り込みセーフで県大会に進出を果たした。それでも、県大会では、敗れはしたものの名古屋市内の実績のある私学の伝統校・愛知に1対2と善戦。愛知打線を2失点に抑えて鈴木 海渡投手(3年)は自信を得た。
初戦でもあり、そのエース鈴木が先発した西尾。打線も、2回に6番永田 卓が右越えへソロホーマーを放って先制。西尾の流れで試合が進んでいくかと思われた。
ところが、そこから東海南は踏ん張った。本塁打後も連打されたり、3回、4回も先頭を出し苦しい展開ではあったが、山本 輝空投手(3年)がよく踏ん張っていた。5回などは、1死で西尾の1番・横山 晟也外野手(2年)が二塁打して、続く野田 峻平内野手(3年)も二塁を強襲する安打で球がそれる間に本塁を狙った二塁走者を、バックアップした遊撃手の渡邊 大翔内野手(3年)が本塁へ好送球で刺した。
こうして、東海南のしっかりした守りもあり、西尾としては1点リードこそしているものの、むしろ苦しい展開の試合でもあった。
そして7回、東海南は2死走者なしから6番前田 浩輝(2年)が左越え三塁打すると、続く投手の山本がしぶとく左前へ運んで三塁走者をかえして、自ら自分の粘りの投球を励ますかのような一打となった。好機を何度も潰してしまい生かし切れないという、流れとしても非常に悪い感じの西尾だっただけに、ついに同点に追いつかれてしまい、雰囲気としては決していい感じではなかったであろう。
それでも田川誠監督は、それは想定内だったという。
「生徒たちはわかっていましたから、追いつかれた時も、これで0対0と同じだ。大丈夫だという声も、ベンチからも出ていました」
ただ、西尾としても突破口がないままだった。だから、もしかしたら延長にもつれ込んでいくこともあるかなと思われた。そんな8回、「チーム一の元気印」ということで4番に入っていた先頭の榊原 英剛内野手(2年)が中前打で出ると、鈴木のバントは安打となって一、二塁。ここで、この日は本塁打も含めて3安打と当たっている永田だったが、しっかりと送りバント。四球もあって満塁となり、8番は代打井上 凜外野手(3年)。カウント2ストライク1ボールと追い込まれていながら、敢えてスクイズ。打球は、投手前に転がって三塁走者はホームイン。西尾は勝ち越した。
8回のスクイズの場面に関して田川監督は、「初球は様子を見るスクイズの動作でしたが、2球目は打ての指示でしたが追い込まれてしまいました。ただ、次がボールになったので、これで行けると思ってスクイズを出した」ということでスリーバントスクイズとなったのだが、これは勇気のいる作戦だ。そんな難しい場面で、代打井上が、きちっと転がせたのは立派だった。「打って行ったら、併殺もありました。そうなったら、最悪の流れでした」と田川監督も振り返る。
そして、これで勇気を得た鈴木は9回、三者凡退でしっかりと抑えた。苦しい状況でも、慌てることなく自分たちのプレーをしていっていた両チーム。うだるような熱さの中だったけれども、真面目に部活動という範囲の中でしっかりと取り組んできている公立校の生徒たちのひたむきなブレーで好試合となった。何だか、爽やかな一陣の風が吹き抜けたかのような気持ちにもなれた試合だった。
(取材=手束 仁)