智辯和歌山vs石見智翠館
144キロの2年生右腕・塩路柊季が好投 石見智翠館は成長に手ごたえ
髙嶋奨哉(智辯和歌山)
◆先取点をどちらが奪うか
智辯和歌山としては、早い段階で点数を取って試合の主導権を握る。同時に今大会初先発の2年生右腕・塩路柊季を援護することが大事になってくる。
石見智翠館が点差を離されてしまうと苦しい試合になるため、終盤まで競った試合展開に持ち込み、終盤でひっくり返す。前回の日大山形戦のような試合運びができれば、準決勝進出の可能性は十分あった。
そのためにも先発に起用したエース・山崎琢磨の状態はポイントだ。
前回の試合の投球を見ると疲労の色は隠せていなかった。コンディションが整っていればベストだが、継投になる可能性が高いだろう。それを見極めるという意味でも、立ち上がりの投球はポイントだ。
◆突如現れた2年生右腕
山崎は初回、最速138キロと初戦ほど調子は戻っていなかった。その山崎を智辯和歌山は逃さない。
2番・大仲勝海のヒットから一死満塁を作ると、5番・岡西 佑弥の犠牲フライで智辯和歌山が1点を先制。2年生右腕・塩路に1点をプレゼントした。
1対0のリードした展開でマウンドに上がった塩路は、石見智翠館1番・関山 和へ初球いきなり144キロを計測。自己最速を更新する一球から始まると、全休ストレートで関山を空振り三振。
3番・宮本 赳希からは3ボール2ストライクから142キロの真っすぐで2つ目の三振を記録。2年生右腕が甲子園初マウンドでインパクト与えるには十分な立ち上がりを見せた。
2回には高嶋 奨哉のホームランで2点差に広がると、塩路は2回からは変化球も混ぜて石見智翠館4番・上 翔曳をスライダーで三振に斬って取った。
これで智辯和歌山が主導権を握ると、4、6回それぞれ得点を重ねて7対0とリードを広げるなかで、塩路は6回までで8奪三振と能力の高さを発揮した。
7回に主砲・徳丸天晴の一打などで9対0とした智辯和歌山が最終回に1点を許しながらも勝利した。
◆下半身からの勢いを使って
自慢の攻撃で石見智翠館を打ち崩した智辯和歌山。本来の力を準分に発揮したが、初回の攻撃から落ち着いた投球を塩路の好投が大きかったのではないだろうか。
初球から自己最速144キロを計測するなど、初回は全球140キロを超えるスピードボールで石見智翠館を圧倒した。
2回以降は変化球を混ぜながらの投球ではあったものの、時折見せる真っすぐには力があった。2年生ながら準々決勝を任されるのも納得のポテンシャルだ。
ただ、能力だけで140キロを超えるボールを投げているわけではない。テイクバックはコンパクトにまとめているものの、投げ終わりは蹴りだす右足が、軸足である左足を追い越すような形でフィニッシュしている。きちんと重心移動を使えていることで、速球に繋がっているのではないだろうか。
◆速さを強さに変えて
好投を見せた塩路は「初回から緊張していました」と初めての甲子園での投球を終えて、少し興奮気味に振り返った。そのうえで「持ち味のストレートで攻められたのは良かったです」と自分らしく投げ抜けたことに満足していた。
では、自信が持てるような力のある真っすぐ投げ込むために、意識していたのは、速さだった。
「入学した時はモーションが無駄に大きかったので、そこを見直しましたが、あとは周りに比べて体は小さいので、代わりに素早く動けるフォームであれば、その分を補えるかなと思って意識しています」
172センチ72キロと智辯和歌山の投手陣のなかでは、もっと身体が小さい。それを補うために速さ、特に腰の回転を速くすることが、力へ繋がり、ボールに伝わっていた。だから右足が軸足よりも前の方までいくようにフィニッシュしているのだ。
まだ2年生であることを考えれば、来年も楽しみな投手だ。ただ塩路は「先輩たちとできるのも1週間ないので、最後までやり切りたいです」と先輩たちの夏を最後まできち切ることを考えている。日本一まで残り2勝、次戦も活躍が楽しみだ。
◆春からの成長を実感して
強豪・智辯和歌山の前に思うような試合運びをすることが出来なかった。末光監督は、「接戦に持ち込みたかったですが、そつのない攻撃にキレのあるボールで自分たちの野球をできずに悔しいです」と攻守で力を発揮させてもらえなかったことに悔やんだ。
それでも最終回は意地で1点を取り返した、「良い打撃よりも、これまでやってきたことを発揮しよう」と泥臭くても今までの成果を発揮しようと各自がベストを尽くしたことで、打線がつながった。
今大会は3回戦でサヨナラ勝ちと競り合いをモノにしてきた。「県大会から自分たちから動けるようになったので、そこは成長したと思っています」と夏の2か月間でのチームとしての成長を感じていた。
主将の山崎凌夢は「春負けてから修正をしていけたのは、全員が思うところがありながら成長できたことが大きかったと思います」と、苦い経験をした春をバネにしたことで、今回の結果があったと感じているようだ。
戦っていく中で成長しつづけたことが、石見智翠館のベスト8まで勝ち上がる原動力になったのではないだろうか。
◆石見智翠館の伝統に刻まれた夏
現在の石見智翠館の校名に変更なり、最高成績のベスト8進出を果たした、歴史の1ページに刻まれることは間違いないだろう。ただ、大事なのはこれからだ。3年生たちが築き上げたものをどれだけ継続もしくは改良して、より強いチームにしていくかが求められる。
3回戦でサヨナラ打を放った今泉秀悟や4番の上は下級生として、甲子園を感じることも、全国の強豪の凄さを知ることが出来た。この経験が、石見智翠館の血となり肉となり、さらにチームとして一皮むけることを期待したいしたい。
(記事:田中 裕毅)