試合レポート

智辯学園vs日本航空

2021.08.25

智辯学園・小畠が動く球で安定感抜群の投球、ヴァデルナ「後悔ない」

智辯学園vs日本航空 | 高校野球ドットコム
小畠一心(智辯学園)

◆ポイントは序盤の攻防

 勝負のポイントは初回の攻防になるのではないだろうか。

 初回を挙げた理由は、智辯学園先発は小畠 一心だからだ。今大会はリリーフ登板でマウンドに上がっているが、先発は初めてである。これまでの実績は十分だが、ここをすんなりいければ、智辯学園は波に乗れる。

 対する日本航空は出鼻をくじけば、試合の主導権を握れる。相手が慌ててくれれば、日本航空としては余裕を持った展開を作れる。

 ベスト8へ、初回の攻防をどのように乗り切るか。

◆智辯学園が辛抱強く勝ち切った

 初回、智辯学園垪和 拓海が四球で出たものの、盗塁失敗と4番・山下 陽輔が併殺打に抑えられて無得点に終わる。日本航空の先発・ヴァデルナ フェルガスの真っすぐを打たされる形になった。

 裏の守備、先発・小畠は日本航空の1番・久次米 陸士にレフト前へ運ばれると盗塁も決められる。マウンドの小畠の立ちあがりを叩こうと、足を使って慌てさせる。

 一死三塁としたところで、日本航空のキーマンであるエドポロ ケインとの初対決を迎える。先制のピンチで小畠はストレートでエドポロを詰まらせ、勝負には勝ったが、三塁ランナーの生還を許した。

 その後、小畠はストレートを軸にしてストライク先行で日本航空の打線を抑える。ただ、智辯学園打線も日本航空のヴァデルナの前に得点が奪えない。立ち上がりの1点が次第に重くなっていた。

 ただ6回に智辯学園はヴァデルナを捉えた。
 先頭の垪和が二塁打で出塁すると、4番・山下の内野ゴロや相手のエラーで勝ち越しに成功。7回にも1点を加えるなど、智辯学園がリズムを作った。

 リードを受けた小畠は8回に無死一、二塁のピンチを招いたが、8番・山本 竜毅をストレートで併殺打。続く中西 海都を139キロの真っすぐで三振に斬って取り、試合を決めた。

 9回に前川 右京のホームランなどでダメ押しをした智辯学園が7対1で勝利した。


◆ベースとなるストレートの存在

 終わってみれば7得点と智辯学園自慢の強力打線が力を発揮した。中盤までは日本航空のヴァデルナに苦しめられており、決して余裕をもって戦えたわけではないが、マウンドの小畠が、チームの安心感を与えたのが大きいだろう。

 96球という省エネで投げきったことも素晴らしいが、ストライク先行の投球が出来たことも大きい。
 実際に公式記録でストライクを数えると、44球となっている。全体の45.83%という数字になり、安定しているのがわかるのではないだろうか。

 小畠が使うボールはストレートとツーシームを使うことが多い。小さく動く変化球がメインだからこそ、ストライクゾーンの中で勝負ができる。だからボール球が少なく、テンポの良い投球に繋がりやすいのだ。

 この試合もツーシームは要所で決まっていた。しかし真っすぐも8回の場面では最後に投げるなど、今日の投球を支えた。ストレートがあって変化球が活きるというのは良く言われることだが、それを小畠が実践で来たからこそ、ツーシームはいつも以上に輝いたのではないだろうか。

◆指揮官をうならせる安心感

 まず96球での完投の要因について聞かれると、「今日はスライダーとツーシームで引っ掛けさせてゴロアウトを取れたからだと思います」と自己分析する。やはり小さく動く高速変化球が省エネに繋がっていたようだ。

 また「カウントを悪くするとリズムが良くないので、早めに追い込むことは意識していました」と配球面でも小畠は工夫を凝らしていたようだ。

 ただ、すべての基盤となるストレートについては、抜けてしまったことは反省をしていたが、力強さがあったことを評価した。
「真っすぐは回転がかかったボールが一番だと思っていますし、それができていると思います。だから今日は抜けてしまっても、ボールにはしっかり強さがありました」

 この小畠について「素晴らしい、の一言です」と指揮官・小坂監督は最大級の称賛の声を送った。特に「相手打者を見て考えながら投げてストライク先行ができていた」ことを高く評価した。

 右のエースとして役割をしっかりと果たした小畠。準々決勝以降は再びリリーフ起用もあり得るだろう。しかし、日本航空戦の投球を見ていれば、どこで起用されても安心できることを確信せずにはいられなかった。


◆努力のエースが智辯学園に見せた好投

 初回に先取点を奪い、試合の流れを掴んだ日本航空だったが、中押し、そしてダメ押しができなかったのが痛かった。豊泉監督は「甘いボールは確実に捉える精度が高いと思いました」と智辯学園打線の凄さは改めて実感しているようだった。 また「低めの変化球を振らされたのが目立ったと思います」と相手の小畠の良さを語った。

 久々に出場した甲子園でベスト16まで結果を残したことは自身になるはずだ。そして躍進を支えた立役者は間違いなくエース・ヴァデルナだ。

 今日の投球は「疲れが残っているのかなと思いました。制球を乱しましたが、打ち気を逸らしていたと思います」とベストでないながらも好投したエースを称えた。

 そんなヴァデルナに対して、「コツコツやったことで強豪相手にここまで投げたので、身体のサイズを含めて次のステージで大きく成長することを楽しみにしたいです」とエールを送った。

 ヴァデルナは「ストレートが良かったので、スライダーを織り交ぜて5回まで好投ができましたので、後悔はないです」とすっきりとしており、目はまっすぐ前を見ていた。

◆成長物語は次の舞台へ

 ヴァデルナは2年生の冬に覚醒の時期が訪れ、それを逃すことなく成長へつなげ、アピールのチャンスをもらった。そして結果を残し続け、ついには甲子園で完封勝利をするなど、全国区の技巧派左腕へ成長を遂げた。

 この成長曲線はチーム内はもちろんだが、全国の球児にとっても1つの勇気を与える活躍ではないだろうか。ヴァデルナのサクセスストーリーの続きを、次のステージで見られることを楽しみにしたい。

(記事:田中 裕毅

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

関連記事

応援メッセージを投稿

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

RANKING

人気記事

2024.04.26

今週末に慶應vs.横浜など好カード目白押し!春季神奈川大会準々決勝 「絶対見逃せない注目選手たち」!

2024.04.26

【春季四国大会逸材紹介・高知編】2人の高校日本代表候補に注目!明徳義塾の山畑は名将・馬淵監督が認めたパンチ力が魅力!高知のエース右腕・平は地元愛媛で プロ入りへアピールなるか!

2024.04.26

古豪・仙台商が41年ぶりの聖地目指す! 「仙台育英撃破」を見て入部した”黄金世代”が最上級生に【野球部訪問】

2024.04.26

【奈良】智辯学園が13点コールド!奈良北は接戦制して3回戦進出!<春季大会>

2024.04.26

【春季奈良県大会】期待の1年生も登板!智辯学園が5回コールド勝ち!

2024.04.23

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.04.23

【全国各地区春季大会組み合わせ一覧】新戦力が台頭するチームはどこだ!? 新基準バットの及ぼす影響は?

2024.04.24

春の埼玉大会は「逸材のショーケース」!ドラフト上位候補に挙がる大型遊撃手を擁する花咲徳栄、タレント揃いの浦和学院など県大会に出場する逸材たち!【春季埼玉大会注目選手リスト】

2024.04.22

【和歌山】智辯和歌山、田辺、和歌山東がベスト8入り<春季大会>

2024.04.22

【九州】神村学園、明豊のセンバツ組が勝利、佐賀北は春日に競り勝つ<春季地区大会>

2024.04.23

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.04.23

【全国各地区春季大会組み合わせ一覧】新戦力が台頭するチームはどこだ!? 新基準バットの及ぼす影響は?

2024.04.05

早稲田大にU-18日本代表3名が加入! 仙台育英、日大三、山梨学院、早大学院の主力や元プロの子息も!

2024.04.02

【東京】日大三、堀越がコールド発進、駒大高はサヨナラ勝ち<春季都大会>

2024.04.12

東大野球部の新入生に甲子園ベスト4左腕! 早実出身内野手は司法試験予備試験合格の秀才!