智辯和歌山vs高松商
テンポよかった中西の好投で勝利した智辯和歌山、高松商の浅野は雪辱誓う
中西 聖輝(智辯和歌山)
◆本来の力を発揮できるかどうか
智辯和歌山が1か月近くのブランクのなかで、どれだけ実力を発揮できるか。今回のポイントはここだ。
初戦で戦うはずだった宮崎商が参加辞退になったことで、智辯和歌山の初戦が24日まで伸びた。和歌山大会決勝から考えれば1か月近く実戦から離れる形となり、大会本部も23日は公式練習を認めた。ただ、どれだけ発揮できるかが試合の勝敗には大きなポイントだ。
対して高松商は先発に前回同様に德田 叶夢を登板させる。緩い変化球を効果的に使って相手打線を抑える技巧派左腕だが、これに智辯和歌山が焦って手を出すようなことがあれば、高松商の術中にハマることになる。そうなれば、高松商は勝利にぐっと近づく。
智辯和歌山は焦らずに自慢の強打を発揮する。高松商は恐れずに勇気をもって丁寧に投げ続ける。これを出来ることが、智辯和歌山本来の実力を発揮させるか否かの鍵になった。
◆終始リードを保つ
智弁和歌山注目の初回は、高松商の先発・徳田の前にわずか7球で三者凡退に終わる。逆に、その後マウンドに上がった中西は四球1つを出して17球を擁した。
しかし2回に初ヒットが生まれると、3回は4番・徳丸天晴のタイムリーなどで3点を先制した。
援護点をもらった中西聖輝は、3回を僅か8球で高松商の攻撃を終わらせると、4回は2番・浅野 翔吾にヒットを許しながらも打者4人を14球で終わらせて智弁和歌山に徐々に流れが傾く。
6回に浅野にホームランを許したが、12球で6回の高松商の攻撃を終わらせるなど4対1と3点リードで終盤を迎える。すると、8回に智弁和歌山にダメ押しの1点が中西のバットから生まれて、5対1となった。
最終回、4点リードだったが、高松商に粘られ、5対3までなったところで中西は降板して、伊藤 大稀に託した。
伊藤は僅か1球で高松商の攻撃を終わらせてゲームセット。5対3で智弁和歌山が勝利した。
◆テンポいい投球が光る
この試合、智弁和歌山打線は11安打5得点と力を発揮できたのではないだろうか。ただランナーを出しながらも得点に結びつけられない時間が多く、歯がゆいところもあった。
その時間を粘り強く耐え続けたのが、マウンドにいた中西だった。
最終回は高松商の粘りの攻撃を防ぎきれずにあとアウト1つで降板したが、そこまではストライク先行のテンポの良い投球が甲子園のマウンドで光っていた。
そのテンポの良さを、1回あたりの球数と、打者1人当たりの球数で考えてみたい。
<中西 聖輝の投球内容>
8.2回 145球
打者35人 被安打6 与四死球4 奪三振4 自責点1
打者1人当たり:4.1球/人
1回当たり:17.7球/回
わかりやすいのは打者1人あたりだろう。三振を取るにしても1球だけボールを使い、残り3球で三振に斬って取る。非常に理想的な攻め方が出来ていることが考えられる。これによって攻撃にもリズムを生んでいるのではないだろうか。
◆1球も無駄にしない
試合後、中西は自身の投球を振り返り、「反省が多いです」と厳しい評価を付ける。その理由として「8回まで1点に抑えられたのは野手のおかげですし、最終回もミスから失点をしているので」と説明する。
ただストライク先行に関しては「意識をしていた部分だったので、それは良かったです」と及第点を与えられる部分だったようだ。
ストライク先行ができた要因は、真っすぐのみならず、どのボールでもストライクが取れていたからだ。自在に自分のボールを操るために、ブルペンから打者に立ってもらい、打者目線での感想をもらうなど、意味ある1球を投げ続けたことで制球力を磨いてきた。
この投球について、サードを守る髙嶋奨哉は、「投手が打たせて取る投球をすると守備からリズムを出来ました」と守りやすい部分があるようだ。
中谷監督は宮崎商との対戦が決まった段階から中西に決めていたようだが、「立ち上がりは制球がばらつくところがありましたが、バッテリー中心に守ってくれた」と評価した。
球速に目が活きがちな中西の評価だが、ゲームを作る制球力の高さもあることを表明した。準々決勝以降の活躍も楽しみだ。
[page_break:甲子園レベルに近づいている]◆甲子園レベルに近づいている
敗れたものの、終盤に粘りを発揮できた高松商。長尾監督は最終回を含めた攻撃について、「打席での粘りに関しては甲子園に出場するチームのレベルに近づいています」と試合には敗れたものの、成長の手ごたえを感じている。その一方で、投手中心の守備をどれだけ固められるかを今後に課題に挙げた。
今年は力のない世代だと言われてきたとのこと。だが、「力のない年代だと知ったから、練習をしたり、試合前に準備を怠ることなくできたので、今日のような試合ができたと思っています」と長尾監督は分析する。
◆もう一度甲子園へ
弱さを認め、強くなった高松商。この夏は4元号での夏の甲子園勝利を達成した。しかしベスト8進出には手が届かない状況が続いている。「8強の壁を乗り越えるための1年間を過ごすことを知ったと思います。簡単ではないですが、チャレンジしたいです」と来年こそ上位進出を目指す姿勢だ。
その中心になるのは浅野だろう。この試合でもホームランを放つなど、先輩たちに負けない存在感を放って甲子園を去る。
「まだまだ3年生と野球がやりたいなと思いました」
この思いから浅野の目から涙がこぼれた。この夏は、「負けそうになっても繋ぐ野球で勝てたので楽しかったです」と高校2年の夏をまとめた。
新チームが始まれば、いよいよ最高学年としてチームを引っ張る存在だ。「先輩と比較して、まだできていないことが多いので、来年の夏までに成長していいチームになって戻ってきたいと思います」と誓った。
(記事:田中 裕毅)