試合レポート

智辯学園vs横浜

2021.08.21

スラッガー前川お目覚め一発で快勝、横浜は強豪復活へ下級生に期待

智辯学園vs横浜 | 高校野球ドットコム
1番・左翼手の前川 右京(智辯学園)

◆どちらも強力打線がウリ

 智辯学園横浜の3回戦進出をかけた一戦は、打線の調子がポイントだった。

 智辯学園は伝統的な強打が今年も健在で、特に前川 右京山下 陽輔の2人の打力は高い。1回戦・倉敷商戦でも小技を絡めた効果的な攻撃で10点を奪った。

 対する横浜は神奈川大会で100安打87打点の打力で頂点まで走り抜けた。智弁学園とはタイプの違う強力打線で甲子園に乗り込んだが、初戦の広島新庄戦はバットが湿り気味で、本調子とは言えなかった。

 1回戦でエンジンがかかった智辯学園打線を勢いづかせない。地方大会で発揮した横浜打線を目覚めさせない。両チームの投手陣による神経戦、我慢比べが想定された。

◆スターの目覚め

 3回までは想定通りの我慢比べだ。横浜は1年生・杉山 遙希智辯学園は3年生・西村王雅とエース左腕同士が、緩急巧みに低めにボールを集める投球でスコアボードに0を並べてきた。

 膠着状態で迎えた4回、智辯学園は7番・植垣洸が四球を選ぶと、そこから連打で繋いで一死満塁と先制のチャンスを作る。ここで1番に入った前川 右京が打席へ。1ストライクからの2球目を捉えると、高く上がった打球がセンター後方へ飛び、フェンス直撃。あと数センチでホームランという特大のタイムリーなどで智弁学園が3点を先取する。

 これで前川が勢いに乗った。
 6回には無死一塁で打席が回った。3ボールからの真っすぐを振り抜くと、快音を響かせてバックスクリーン左へ飛び込んだ。自身初となる甲子園でのホームランで、チームは5対0と横浜を突き放した。

 最後は2番手で小畠 一心が最終回にマウンドに上がり、横浜打線をシャットアウト。前川の4打点の大暴れで智弁学園が10年ぶりの3回戦進出を決めた。


◆昨夏の課題の克服を証明した

 プロ注目スラッガーの聖地での待望の一発が、智弁学園に流れをもたらしたといっても過言ではない。そんな前川が一発を打てたのは、課題の克服にあったと考えられる。

 昨夏の甲子園交流試合で前川は、当時の世代No.1投手・高橋宏斗(現中日)と対戦した。150キロ近くを計測する剛腕と対戦した前川の結果は、3打数1安打という内容だった。直球への対応ができていないと感じ、「軸で回転すること」を今後のテーマとして掲げていた。

 それを踏まえてホームランを振り返ると、下半身主導で軸を残しながらもバットを走らせていき、強くボールにインパクト出来ているように見える。前川が追い求めてきた理想の打撃が出来たことで、ホームランという最高の結果になって表れた。

◆5か月遅れの有言実行は右足がポイントだった

 前川自身も、1回戦・倉敷商戦を振り返り、「低めの変化球に対して頭の位置がブレてしまい、引っ掛け気味のバッティングをしてしまいました」と踏みとどまれずに泳いでしまったことを反省していた。その課題をクリアするためにも右足の使い方をポイントにした。

 「前足でしっかりと踏み込んで、ブレないように心がけました」

こうして軸を安定させると、あとは「ヘッドを走らせて打ちました」と思い切りの良いスイングで、ボールに対して強くコンタクトして、アーチを描いた。

 これには小坂監督も「これまでの甲子園で打球が上がらなかったので、前の打席のセンターオーバーで余裕が生まれたから、仕留められたと思います」と1年生から期待していた主砲の一打を振り返った。

 「選抜で『バックスクリーンに打つ』と監督に言っていましたが、それが選抜ではできていなかったので、今日打てて良かったです」と最後に改めてホームランの感想を語った。世代No.1スラッガーと日本一の称号をつかむことが出来るか。次戦も前川の一振りに期待したい。


◆日本一を狙えるチームを目指して

 強力打線を機能させることが出来ないまま甲子園を去ることになった横浜。村田監督は「非常に難しい試合でしたが力負けだと肌で感じました」と試合を総括した。

 優勝候補に数えられる智辯学園の厚い戦力に「食らいついていこう」ということで序盤から競った試合展開を繰り広げた。ランナーを出して反撃のチャンスもあったがが、「一歩及びませんでした」とあと一押しができなかったことを悔やむ。

 だからこそ、村田監督の心は燃えていた。
 「3年生から連れてきてもらった甲子園に下級生は出場したので、『この景色を忘れるな』と伝えたいです。また戻ってこようと思いますので、練習あるのみです」

 また絶対に帰ってこようと。甲子園で全国優勝できるチームを作って戻ってこようと。

◆新たな伝統の担い手たちに期待

 頑張って甲子園に連れてきてくれた3年生の思いを背負い、日本一を目指せるチームを作って甲子園に戻ることを村田監督は誓った。

 甲子園はエースナンバーを背負った1年生左腕・杉山は「1年生で甲子園で投げられたのは大きい経験なので、負けた悔しさを練習にぶつけて、もう一度甲子園に戻ってきたいと思います」と今度こそ聖地での1勝を掴むことを誓った。

 神奈川は東海大相模を筆頭に激戦区であることは有名だ。その中を今夏は勝ち上がって甲子園を経験した下級生は、横浜の新たな伝統を作る担い手だ。再び横浜の時代を作るための第一歩は3年生の力で踏み出せた。この後の歩みは下級生の仕事だ。甲子園を経験した選手たちを中心に、横浜を今よりも一回りも二回りも強いチームにしてほしい。

(記事:田中 裕毅

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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