智辯学園vs倉敷商

◆倉敷商が経験者中心にどこまで食らいつくか
　今年も強力打線に合わせて、西村王雅と小畠一心といった投手陣を擁する智辯学園。選抜でベスト8に進出するなど実力は出場49校のなかでもトップクラスだろう。

　対する倉敷商は9年ぶり11回目だが、昨夏の甲子園交流試合を経験した永野司など、経験者は残っている。そこに調子が良い2年生がスタメンに名を連ねて岡山大会を制した。岡山大会と同じように智辯学園と対戦できるか。勝負を分けるポイントはそこにあった。

◆投打で智辯学園が圧倒
　試合は4回、この試合から中軸に復帰した智辯学園3番・前川右京が内野安打で出塁したところで、4番・山下陽輔が真ん中付近の真っすぐを捉えた。打球はぐんぐん伸びて左翼フェンスを直撃するタイムリーとなり、先取点が智辯学園に入った。

　その後、スクイズで2点目を奪ってリズムを作ると、5回に倉敷商2番手・永野司から5番・植垣 洸と6番・三垣 飛馬の連続タイムリーに加えて、7番・森田空のスクイズなどで一挙5得点で主導権を握った。

　7回には8番竹村日向がエンドランを決めるなど、足を使って3点を掴んで10対0とする。

　大量援護をもらった智辯学園の先発・西村王雅は、立ち上がりこそ130キロ後半の真っすぐとスライダーを主体としたが、中盤からは90キロ台のカーブなどを交ぜて倉敷商にホームを踏ませない。エースとして安定感ある投球を見せた。最終回に3点を失ったが、智辯学園が10対3で倉敷商を下した。

[page_break:攻守にわたって引き出しの多さを見せる]

◆攻守にわたって引き出しの多さを見せる
　勝った智辯学園だが、攻守にわたって戦い方の手札が多かった。
　まずは持ち味である攻撃から見ていきたい。打者一巡となった5回は、高めに浮いてきたボールを逆らわずに打ち返す。インコースにボールが来れば、引っ張って痛烈な打球をはじき返した。

　好投手攻略への定石ともいえるバッティングを徹底し、失投が許されない状況を作り、強打の印象を持たせたと思いきや、7番・森田は4回に続いてスクイズを決める。小技も兼ね備える。

　さらに7回からはエンドランも仕掛けていくなど、攻撃の手段が多く、理想的な攻撃展開だった。2回戦以降も強豪との試合が続くだろうが、柔軟に対応して落ち着いた試合運びができるのではないだろうか。

　そして守備では、エース・西村のピッチングを見たい。
　立ち上がりから、倉敷商打線が一巡するまでは、最速139キロを計測したストレートと、110キロ台のスライダーを中心とした組み立てだった。ここまでは今まで見せてきた西村らしいピッチングだった。

　ただ特筆したいのは、4回からの西村の投球だ。
　ストレートの割合を少なくして、変化球を使うシーンが増えた。スライダーはもちろんだが、特に印象深いのはカーブだ。球速は90キロ台と、最速とは40キロ差を付けている。これまでは伸びのある真っすぐに、曲がりの大きいスライダーと、角度を付けてボールの質で勝負していた西村に、奥行き・緩急を付けることで、投球術の幅が広がっていた。

　この投球には小坂監督も「これまでの3本に入るんじゃないでしょうか」と称賛した。

◆新たな引き出しとなったカーブ
　フォームの修正をしていく中で、「（カーブが）合わない」と判断して封印をしていたボールとのことだ。ただ、今春の選抜を経て西村の中で意識が変わった。

「春の選抜以来使っていなかったですが、甲子園では大事だと思いましたし、今日はスライダーが悪かったので、カットボールと一緒に使ってカウントでも、勝負球でも使うつもりで投げました」

　選抜の段階からカーブについては、「カウントだけではなく空振りを取れる。打ち取れるので、自分のなかでは活きたボールだと気づかされました。あれがあることで、強いボールを活かせる部分もありますので」と手ごたえは十分だった。

　カーブによって投球に幅を持たせることが出来た。先日の東京オリンピックで好投した森下暢仁もカーブを得意としていたが、今後の再びトレンドとなるのではないだろうか。

[page_break:序盤は理想通りも力負け]

◆序盤は理想通りも力負け
　倉敷商は序盤までやりたい野球ができており、スタンドから見ていたこちらにも意図は十分に伝わった。
　先発には背番号10ながら、岡山大会ではエース・永野に次ぐ投球回を任された右のエース・三宅を抜擢したが、1点を取られたところで、すぐに交代させた。110キロ台のフォークを織り交ぜた巧みな投球は智辯学園も手を焼いており、交代は早いようにも感じられた。

　ただ、序盤からバントシフトを敷く。エース・永野が早くからブルペンに入っていたところを見ると、1～3点ほどの計算で試合展開をしたいことは分かった。それを考えれば、継投策も、バントシフトを仕掛けた理由も合点がいく。

　それに応えようと、選手たちも智辯学園の各打者の鋭い打球に反応し、球際に強い守備を見せていた。日ごろから守備が鍛えられていることはすぐに分かった。

　ただ5回に大量失点をしてから、苦しい試合運びを強いられていた。それだけに5回の失点は悔やまれるだろう。梶山監督も「完敗です。何もさせてもらえなかったです。力の差を痛感しました」と試合を振り返ったが、序盤の戦い方は理想通りだったようだ。

「3回まで我慢できていたと思います。攻撃のチャンスがあったところで上手く攻められれば、違う展開になったと思います」

◆敗戦をバネに経験者を軸とした新チームへ
　今後に向けて梶山監督は「全国で勝つことの難しさといいますか、この負けが1つのきっかけにしないといけないと思いました」と話していたが、1番・雄龍人志、4番・藤森旭心ら2年生がスタメンに名を連ねて甲子園を経験した。

　経験者を残して再びチームが始動することになる。この悔しさを受け継ぎ、秋から強い倉敷商を見られることを楽しみにしたい。

（記事：田中 裕毅）