至学館vs豊田大谷
辛抱の仕合となったが、至学館が7回に2点を奪い逃げきる
負けたら後がない夏の選手権大会。一つひとつの試合に対してのプレッシャーは、相当なものである。まして、この猛暑の中での戦いでもある。この試合では、選手が脱水状態で足が攣るというアクシデントもあり、その回復を待つために、17分の中断ということもあった。それでも、選手たちは、去年は中止になってしまっただけに、甲子園を目指す夏の大会を戦えることの思いを背負い、ひたむきに戦っていた。
初戦で至学館は難敵中部大一を下し、3回戦の安城との試合では似たような野球をやってくる相手に先行されて苦しい戦いとなったが、最後は地力を示して逆転してここまで進出してきている。豊田大谷は初戦では同系列校の名古屋大谷、2回戦では豊田西、3回戦では岡崎北を下して勝ち上がってきた。
この試合は結局、3時間近い時間がかかった長い試合となってしまったが、お互いに取り組んできた成果を示せた試合だったと言っていいであろう。
初回は共に、両チームらしさというか、お互いの持ち味を出した形を示して1点ずつ取り合う。豊田大谷は先頭の永井が二塁打。一死後織田も二塁打して、2本の二塁打で先制。これに対して至学館は、横道が叩きつける打球で内野安打とすると、すぐに二塁盗塁を決める。バントは失敗して二塁と三塁の間で挟まれるが相手のミスも出て二、三塁となる。そして、内野ゴロの間に三塁走者が生還。しかし、二塁走者は三塁で刺された。一死一塁となり、併殺打で1点止まりの同点となった。
その後は豊田大谷・相良と至学館・石川が、走者を出しつつも粘り合って行ったが、4回、豊田大谷が四球、バント、暴投で得た一死三塁の場面で、5番長谷川が右前打してリードした。追いかける至学館は5回に高柳がバント安打で出塁すると、代打片山がセンターの一番深いところへ運ぶ三塁打で同点とした。ここで中断となってしまうのだが、再開後の無死三塁は、豊田大谷の相良がよく踏ん張って追加点を許さなかった。
至学館は6回から3人目として古田が登板したが、最速141キロを表示するなど、歯切れのいい投球で抑えていった。そして7回、至学館はその古田自身がライト前にポトンと落とす安打で出ると、失策とバント、四球などで一死満塁とする。期待の4番山岡 聖弥は内野ゴロで本塁封殺となったが、続く5番の安並は、強い打球で三塁を強襲する2点タイムリー安打を放ってこの試合初めて至学館がリードした。
このリードを古田は8回、9回とピシャリと3人ずつで抑えて守り切った。古田は、ベンチでは5回までには肩を作っておけという指示は受けていたという。また、自分自身としても気持ちも含めて、早めに準備をしていたという。「ロースコアゲームになるということは、言われていたので、自分は1点もやらないぞという気持ちだった」と、気持ちも充実していたという。
結果的には、至学館が粘り切って勝ちをものにしたという形になったのだが、麻王 義之監督は、「まだ、この大会になって全然力を出し切れていません。もっと、力のある子たちなんですけれども、メンタルがおとなしいのかなあ。細かいところで、記録には表れないミスも多くありました。だけど、負けなかったということで次へ進めますからね」と苦笑していた。
それでも、「何かを仕掛けてくるかもしれない」という至学館野球は、相手の守りに対して与えるプレッシャーは相当なもののようだ。その分、投手はいろいろなことを考えなくてはならなくなるし、けん制も多くなる。結果として、守り時間が長くなってしまう。「サッカーで言うボール支配率が高いのと同じで、攻撃時間が長いことでゲームアドバンテージは得られると思います」と、麻王監督は言う。そういう意味では、至学館野球としての持ち味は出していたということではある。
この夏は、ノーシードながらも、確実にベスト8を競う5回戦までは進出をしてきた。そして、5回戦では今春の県大会優勝校の愛工大名電に挑む。昨夏の選手権の代替えとなった独自大会ではタイブレークの末に逆転本塁打でサヨナラ勝ちした相手でもあり、注目のカードとなる。
(文=手束 仁)