小山vs熊谷商
栃木と埼玉の公立校古豪対決は、いい雰囲気の好ゲームで見どころ満載
三塁打とタイムリー打を放った熊谷商・権蛇君
昨年は新型コロナの影響で中止になってしまった夏の選手権大会。さまざまな部分で制限付きではあるものの、今年は、何とか開催できる予定で進んでいる。埼玉も栃木も、組み合わせも決まり、いよいよ最後の夏へ向けて緊張感も高まってきている。
これから大会開幕までの2~3週間、最後の調整期間ということになっていく。だから、週末の練習試合の一つひとつもとても大事な試合である。まして、今年は例年に比べて実戦練習が詰めていない状況でもあり、大会までの一つひとつの試合がとても貴重だ。
熊谷商は、春季県大会後からの活動は週2回のみで、時間も90分ということで県からの指示があり、それに従っていた。土日は活動禁止ということでもあり、練習試合もままならず、ようやくやれたのが先週ということだった。
本来の高校野球スケジュールで言えば、県大会後の連休以降の5月~6月は練習としてもかなり追い込んでいって、負荷を課していくという形で心身を鍛えていく期間でもある。ところが、去年も今年も、新型コロナの影響でその時間にほとんど練習ができていないという状況になってしまっている。
そんなことで、熊谷商としてはこの日が春季大会以降では3試合目という状況だった。新井茂監督としても、「まともに(練習が)やれていないので、どんな試合になるのか…。やはり、紅白戦と他校との対戦の試合では気持ちも違います。そうした試合の中で学んでいくということが多いと思っているんですけれども、それを積み重ねられていないですから、可哀想と言えば可哀想なんです。とはいえ、(公立校は)どこも同じでしょうから、そうした中で夏へ向けて仕上げていくしかない」というのが偽らざる心境であろう。
期待の高い1年生小山・山田陽翔君
ことに、今年の3年生はもっとも技術的にも精神的にも成長していくと言われている夏の大会以降の夏休み練習こそ辛うじてこなせたものの、今年になってからの度重なる緊急事態宣言もあって、ほとんど満足な練習ができていないというのが現状だ。
それは、栃木県の小山も同じで、県外校との試合に関しても、まん延防止措置の地区の相手とは対外試合ができないということになっている。だから、隣県であっても、さいたま市や川口市の学校とは試合をすることができない。
たまたま熊谷市はまん延防止措置から外れていたので、この日の試合は成立したという形になった。小山としても、久しぶりの県外校との対戦となったのである。斎藤崇監督も、「県内の知っている相手ばかりと試合をしているよりも、県外の学校と対戦していきながら、いろいろな野球を経験していくことで学んでいくことも、とても大きな収穫があるのだけれども、それがほとんどやれていない状況」ということで、久々の県外校との対戦を楽しみにしていたという。
そうした状況下での試合だったが、限られた練習時間の中で、それぞれがきちんと練習を積んできた成果を確認できたという内容だった。試合ができる喜びを感じながら取り組んでいるというか、そんな思いも伝わってきた。心配された判断ミスや、大きなボーンヘッドもなく、引き締まった展開の試合になったことはよかった。
激励式でお礼の言葉と決意を述べる小山・谷島主将
現状でのベストに近いメンバー同士で戦った1試合目では、熊谷商が6番三塁手で入っていた権蛇君の勝負強さと3番の小菅君の打撃が光った。権蛇君は先制点につながる三塁打と4回には2点目を叩き出す左前打を放った。2試合目でも4番に入り4打数3安打で1打点。しっかり結果を残していた。小菅君は主将としてチームを引っ張っているが、4打数3安打。捕手としても鋭い判断力と肩の良さを示していた。
6回に3点を返されて1点差とされた熊谷商は、7回に4番宮崎君が右中間打してこれがランニング本塁打となるのだが、この時小山の右翼手石塚君が飛び込んでその反動で頭を打って退場ということになってしまった。大会まで、わずかという時期でもありケガだけは注意したいところでもあった。それだけに心配もされたけれども、何とか大丈夫ということではあった。
結局、試合は熊谷商の星名君が7回を投げて、高野君が2回をリリーフして二人でリードを守り切る形で逃げ切った。
試合後、小山は野球部後援会から激励式が催された。夏の大会前の恒例行事ということだが、OBなどから激励の言葉が掛けられ。谷島主将がそれに応えて決意を述べていた。
2試合目は小山は左腕大澤君から谷島君、そして1年生の山田君という形で継投していったが、大澤君は2年生ということだが、左特有の変化球が決まると面白い存在になりそうだ。谷島君は能力の高さを示していた。そして山田君は、1試合目では7番三塁手として先発出場していたが、斎藤監督の期待も高く、この試合では任された3イニングを何とか1失点で切り抜けた。
登板したすぐの6回にはバタついて失点したものの、7回、8回はしっかりと3人ずつで抑えていた。このあたりも、試合慣れしてきたら、しっかりと試合を作れる投手になっていくのではないかという期待感は十分に感じさせてくれる存在だった。
2試合とも、引き締まった試合で、実戦が経験少ないという中で、それぞれが一つひとつの試合を大事にしているんだろうなという意識も伝わってきて、とてもいい雰囲気だった。多くの選手が起用された2試合目も、大雑把にならないできちんとした試合になっていったのは、それぞれの選手が与えられた機会を大事にしていこうという意識の表れでもあったのだろうとも思わせてくれた。
多くの選手が出場すると、どうかすると大味で雑な試合になっていってしまうこともある。だけど、そうならなかったところにも、両校のきちんとした姿勢が伝わってきた感じでもあった。
(記事:手束 仁)