試合レポート

日本航空vs東海大相模

2021.05.16

日本航空に現れたエドポロ・ヴァデルナの急上昇コンビが見逃せない

日本航空vs東海大相模 | 高校野球ドットコム
エドポロ・ケイン(日本航空)

 日本航空がセンバツ優勝の東海大相模の一戦。非常に見所のある試合だった。日本航空の先発は秋の関東大会でも主力投手だった山形一心小澤耕介ではなく、ヴァデルナ フェルガスだ。父がドイツ、ハンガリーのハーフで、母が香港出身の方に生まれた投手で、なんといっても188センチ86キロとグラウンドに立てば、ひと目で目立つ選手だ。この体格だと豪腕だと期待したくなるが、実際は軟投派だ。腕が遅れて出てくる独特の投球フォーム。このフォームは投手を始めた小学校4年生から現在のフォームにいきついたようだ。

 常時120キロ後半〜132キロ程度(最速136キロ)なのだが、出どころが見にくい上に、ボールが散らばるので、打ちにくい。それでも高めに浮くボールは多く、1回表には4番柴田疾(3年)に痛烈な中前安打を打たれ、1点先制を許す。

だが、初回に1点にとどめたことで、ヴァデルナの中では「いけると思いました」と手応えを感じていたという。

 だが、日本航空もすかさず反撃。1回裏、二死一、二塁のチャンスで打席に立ったのは5番エドポロ ケイン。エドポロは東海大相模の先発・大森幹大が投じた138キロのストレートを逃さず打ち返し、ライト超えの三塁打で逆転に成功。さらに6番和田航弥の適時打で3対1と追加した。

 しかし3回表、ヴァデルナが2点を返され、同点に追いつかれてしまうと、再び一死三塁の場面から痛烈な左前適時打を放ち、勝ち越しに成功。5回裏、1番久次米陸士の適時打で1点を追加した後、再びエドポロに打席が回り、またも左前安打を放ち、ここまで3打数3安打の大活躍。

 

 エドポロの打撃フォームを着目していくと、スタンスはスクエアスタンス。グリップを肩の位置において少し揺らしながら歩幅を狭め、バットを立てて構えている。投手の足の着地に合わせて始動を行い、鋭く腰を回転させてバットスイングを行う。スイング動作を無駄がなく、捉える打球が実に速い。

 打撃の才能開花のきっかけについてエドポロは昨秋の11月の練習試合がきっかけだと語る。
「今まで詰まることに恐れていたんですけど、ある日、詰まって本塁打を打ったことがあったので、詰まってもいいんだ思うようになってから、よりボールをひきつけて打てるようになりました」と結果的にボールを待つ時間が長くなり、高速のヘッドスピードをボールを捉えるようになってから本塁打量産へ。11月からここまでの間で11本塁打を積み重ね、通算17本塁打に到達。ナイジェリア人の父、韓国人の母の下に生まれたハーフで、南大阪ベースボールクラブでは西野力矢大阪桐蔭-JR西日本)、楠原悠太関東一)らとプレーした。関西出身の選手が多い日本航空の環境ですぐに打ち解け、関西弁でこれまでの歩みを打ち明けるエドポロは陽気なキャラクターで、試合中になると雄叫びをあげ、気持ちも熱いプレーヤー。豊泉啓介監督によるとだいぶ気持ちが吹っ切れるようになったという。



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ヴァデルナ・フェルガス(日本航空)

 そして投げてはヴァデルナがノラリクラリと交わす投球で東海大相模打線を抑える。この日は精度が良くなかったチェンジアップを封印し、スライダーを軸に組み立て、このスライダーは右打者の懐ではなく、外スラも活用。東海大相模の門馬監督によるとこのスライダーをなんとか捉えたかったようだが、最後まで捉えきれず、8安打浴びながらも144球、8奪三振、4四球の完投勝利で、センバツ王者を破った。

 豊泉監督も「今日はヴァデルナにつきます」と完投勝利のヴァデルナを称賛。実はヴァデルナはこの春まで公式戦登板が0。この冬の間に、投球時の回旋速度を高めるためのトレーニングを行い、秋までは128キロだったのが136キロへレベルアップ。春先の練習試合で結果を重ね、自信を掴み、センバツ帰りの上田西相手に2失点完投を果たし、豊泉監督も「この試合はこれまでの中でも見違えるようなピッチングでした」と指揮官も評価する投球で、背番号13でベンチ入りし、登板機会も増えていった。陽気で、野球で勝負していきたい気持ちがひしひしと伝わるエドポロとは対象的に、ヴァルデナは寡黙で、特進クラスに在籍し、英語と数学が得意で、自宅では英語で会話。最初は勉強での大学進学を考えていたようだが、少しずつ結果が出るようになり、野球選手として続けたい気持ちも持ち始めているようだ。投手としての将来性だが、いわゆる「フニャフニャ」とした感じ腕の振りの中にさらに鋭さが出て、体全体が使える躍動感が出ると一気に球速が増すタイプだろう。

 日本航空としては県大会が終了後、東海大相模と相手が決まった瞬間、「春季大会の位置づけとしては、勝つためではなく、経験をさせるために臨むスタンスも有ると思いますが、我々としては東海大相模とやれるのは良い機会と捉えつつも、負けては良い試合ではないので、しっかりと調整をして臨もうと思いました」とこの試合に標準をあわせて調整をしてきた。関東大会で課題となった打撃を強化し、東海大相模投手陣に11安打。石田隼都が登板しなかったとはいえ、4投手全員が135キロ超えと、ハイレベルな投手陣に「打」を証明したことは大きな試合だ。

「これは夏の通過点として、気を緩めることなく、しっかりと切り替えさせて臨みたいです」と準々決勝へ向けて意気込みを語った豊泉監督。

 東海大相模撃破にはヴァデルナ・エドポロの急上昇コンビが大きな原動力となるのは間違いないだろう。


誤算続きの東海大相模。それでも光る好投手が

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4番手・武井京太郎(東海大相模)

 東海大相模にとっては誤算続きの試合だった。先制した1回表。実は一死一、二塁の前に二塁走者が盗塁死した場面があった。これはヒットエンドランで、それを失敗したことが大きかったと振り返る。ようは0点の攻撃内容が、柴田の適時打で25点ぐらいまで取り戻したといっていいだろう。

 門馬監督はセンバツから外野手のレギュラーが固定できていないという。レフト・門馬功は固定できているものの、センター、ライトはなかなか門馬監督が求める基準に達していないようだ。振り返っても逆転を許したエドポロの三塁打の場面。門馬監督は一定以上の守備力を持った選手ではあれば捕れる当たりと説明する。そういった1つ1つのミスが響いていった。

 エース・石田隼都頼み脱却へ4投手が登板。能力は悪くないのだが、全国レベル打線を想定すると、まだ不安を感じる内容だった。

 先発した大森幹大は県大会で14.1回を投げ、20奪三振を記録している一方で、防御率6.28と不安を残す内容だったが、それが露呈された。下半身主導で滑らかな体重移動から打者よりのリリースで、130キロ後半(最速138キロ)のストレートを投げ込むが、全体的に高めに浮きやすく、平面的な角度なため、日本航空クラスになると無理なく振り抜かれる。2番手でマウンドに登ったのは追加登録の庄田 聡史(県央宮崎ボーイズ出身)。中学時代から140キロのストレートを投げる好投手だが、全身を使って振り下ろすオーバーハンドで、常時130キロ〜135キロ(最速138キロ)と球威はあり、しっかりと決まったときは空振りが奪える精度はあるが、まだ高めに力のないボールがいく傾向がある。120キロ近いのスライダーも悪くない。2.1回を投げ1失点にとどめたが、安心して送り出せるまでにはもっとレベルアップする必要がある。

 センバツでも好投した求航太郎はこの日はボールの走りは本調子ではない。それでも振り下ろす135キロ前後のストレートとカーブ、スライダーを投げ分け、打ち取る投球は光るものがあった。

 この日最も良かったのが4番手の武井京太郎だろう。右腕のグラブを高く掲げて、振り下ろす本格派左腕でタイプ的には成瀬善久を彷彿とさせる投手で常時135キロ前後(最速138キロ)のストレートを軸に1回を投げて2奪三振、無失点と最も内容が良かった。大事な試合でも登板できるには、これから強豪校相手の練習試合でどれだけ実績を積み重ねられるかだろう。

 これでセンバツからの連勝が止まった東海大相模。春夏連覇を目指すためにこれから激しいチーム内での争いが起こりそうだが、その競争を経て、強力なチームになることを期待したい。

(取材=河嶋 宗一

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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