試合レポート

東浦vs豊橋西

2021.05.05

筑波大出身監督の先輩後輩対決「東浦・豊橋西」は好雰囲気の試合となった

東浦vs豊橋西 | 高校野球ドットコム
東浦・中嶋勇喜監督

 近年、知多地区で躍進してきている東浦。この春も知多地区予選は1位通過で県大会に進出。県大会でも誠信蒲郡を下してベスト8に進出して夏のシード権を獲得している。そんな東浦だが、昨年秋は一度どん底に落ちている。

 県大会で投手が乱れて自滅気味の大敗。さらに、その1週間後の全尾張大会知多地区予選では、半田東にコールド負けを喫してしまった。そこから、苦しくて長いオフ期間を耐えて練習してきた。中嶋勇喜監督は、「半年間で何とか立て直して、来春にはもう一度いいチームに仕上げて見せる」と意を決していた。そして、その間に選手たちも地味な練習、もう一度基本に戻ろうということを話し合い、自分たちか何をしていくことがいいのか、ということも話し合っていたという。

 そうした中で、投手陣はもちろんのこと、個々の意識がもう一度高まっていき、春季大会で一つの成果を示すことが出来た。中嶋監督も、苦しい時期を頑張った選手たちを評価している。

 「去年の秋から冬にかけての練習は、生徒たちも辛かったと思いますよ。正直、つまらんなぁという気持ちもあったかもしれません。だけど、自分の思うようになっていかない時に、それをどう乗り越えていくのかということもまた、高校野球では大事な練習です。そういうことも毎日のように生徒たちに伝えていました。そして、それに応えてくれたと思います」

 その、中嶋監督と筑波大では学年で1年下だったのが、豊橋西の林泰盛監督だ。林監督は、前任校の豊橋工では県3位校として東海大会にも進出を果たし、その戦いぶりと手作りのグラウンド施設や工業校の特徴を生かした地域貢献などの活動も評価されて21世紀枠代表として選出されて甲子園出場を果たしている。甲子園では初戦で、その大会で準優勝することになる東海大四(現東海大札幌)に守りのミスも出て敗れはしたものの、最後まで食い下がる戦いぶりだった。

東浦vs豊橋西 | 高校野球ドットコム
豊橋西・林泰盛監督

 その後、林監督は豊橋西へ異動ということになったのだが、活動としてはそれほど目立つものではなかった同校で、地道に生徒たちに声かけをしたりして、まずは部員集めから始めた。

さらに、昨年のコロナ禍での活動自粛期間にも、学校へ出向いて毎日グラウンドを整備したり、いつ生徒たちが戻って来てもいいいようにと、手作りでブルペンを作ったり、何もなかったグラウンドサイドにダッグアウトを作り、選手たちの練習再開時に、これまで以上の環境を与えてあげたいという思いでやってきた。

 そして、そんな監督の思いに、選手たちも一つひとつ応えていく姿勢を示していった。

「まだまだ、全然発展途上のチームですけれども、確実に前へ進んでいるのではないかとは感じています」

 そんな手ごたえで3年目を迎えている。

 中嶋監督は豊田西で、1年下の代が秋季東海地区大会を制して、第70回センバツ大会に出場。甲子園でも2つ勝っている。中嶋監督は、学生コーチとしてそのチームに協力していった。時習館出身の林監督は、その豊田西が甲子園出場を果たした代と同期である。

夏はたまたま第80回記念大会ということで、甲子園の開会式では第1回大会からの地区大会出場校の主将は開会式で自校の旗を持って入場行進に参加するという恩恵にあずかっている。だから、現役時代には、試合こそしてはいないものの甲子園の土は踏んでいる。

 そんな県内の実績ある伝統校出身の2人が、やがて指導者となった。そして、それぞれが経験してきた野球を、まだそれほど実績のない地域の公立校で、新しい高校野球の息吹を根付かせようとしているのである。

 高校野球は、地域でも認められる存在になっていくことは、一つの文化貢献でもある。また、地域に根差した学校が活躍することで、地域活性化も果たしていく。それもまた高校野球の一つの役割でもあるのだ。東浦は、それを地域ぐるみで実践していこうという姿勢を示している。

 新型コロナの感染拡大により、さまざまな活動が制限されているという社会状況下ではある。しかし、対外試合かやれるという状況下の今、この対戦は、それはそれで非常に興味深いものでもあった。


東浦vs豊橋西 | 高校野球ドットコム
豊橋西・夏目冴亮(なつめさすけ)君

 東浦は、ケガで何人かは欠場という状況ではあったものの、現状で組めるベストメンバーで当たった一試合目。東浦が初回に。4番榊原君の左越二塁打で先制するが、2回に豊橋西は7番富田君のスクイズや相手失策もあって3点を奪い逆転。

 2点差を追いかける東浦は以降なかなか豊橋西の夏目冴亮(さすけ)君を攻略できなかったが、7回に1番仲川君の三遊間を破るタイムリー打と続く成瀬君の犠飛で同点とする。そして8回に四球と相手バント失策で得た一死一三塁という場面で、8番夏目暖人君が詰まりながらも右前へのポテンヒットで決勝点を奪う。

そして、その大事な1点を、6回からリリーフしていた左腕大沼君がしっかりと3人で抑えて、厳しい9回の守りを凌いだ。練習試合の中で、こうした緊張感のあるシチュエーションをしっかりと守れるということで、選手たちは確実にメンタル面でも成長していくはずである。

 試合後のミーティングでも中嶋監督は、「野球はミスがあるスポーツなんだから、それは仕方がない。だけど、そこでどういう気持ちで次へ向かえるのか。ミスを引きずって空気を悪くするヤツは、どんなに上手くてもチームとしては必要はない。上手い選手よりも、勝てる選手になっていって欲しい。勝てる選手とは、ミスを自分で修正できて取り返せる選手」ということを選手たちに伝えていた。

 東浦のミーティングは、それを選手たちがそれぞれノートを手にして、仲間の発言も含めて書き留めていく。「コロナになって、ミーティングが多くなってから、こういうスタイルにしたんですけれども、その後の最初の大会がこの春で、結果が出ましたから、こういうスタイルがいいのかなぁと思っています」と、中嶋監督はコミュニケーションの大事さを再認識していた。

東浦vs豊橋西 | 高校野球ドットコム
東浦・外山君は1年生ながらランニング本塁打を放った

 序盤のリードを守り切れなかった豊橋西だったが、チーム力としては、春季東三河地区予選からも、確実にチーム力は上がっているという印象だった。ベンチからは、林監督が選手以上に元気な声を発しながら盛り上げていく。そして、選手たちも、それに鼓舞されながら、より高いパフォーマンスを発揮していかれるようになる。そのことで、自信となって、それが基礎能力の向上ということにも繋がっていくのではないだろうかという感じもした。

 2試合目では、東浦が3回と4回に1年生の外山君のランニング本塁打なども含めて、長打攻勢で5点ずつ奪って、ややワンサイド気味になったが、5回から登板した本来は4番一塁手の星川君が好投。その後の展開を大味にしないでしっかり引き締めたのは、評価されていいであろう。

 結果的に、選手層の差が出たということは否めないかもしれない。だけど、高校野球をやっていく意義というを感じさせてくれた…、そんないい雰囲気の試合だったという印象でもあった。甲子園出場は、一つの目標ではあるが目的ではない。高校野球を通じてどれだけ高校生たちの思いを育てていってあげられるのか、そんな目標設定の大事さが見えたということでも、改めて高校野球のすそ野の部分での大事さを実感できた1日でもあった。

(記事=手束 仁

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

関連記事

応援メッセージを投稿

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

RANKING

人気記事

2024.04.26

今週末に慶應vs.横浜など好カード目白押し!春季神奈川大会準々決勝 「絶対見逃せない注目選手たち」!

2024.04.26

【春季四国大会逸材紹介・高知編】2人の高校日本代表候補に注目!明徳義塾の山畑は名将・馬淵監督が認めたパンチ力が魅力!高知のエース右腕・平は地元愛媛で プロ入りへアピールなるか!

2024.04.26

古豪・仙台商が41年ぶりの聖地目指す! 「仙台育英撃破」を見て入部した”黄金世代”が最上級生に【野球部訪問】

2024.04.26

【奈良】智辯学園が13点コールド!奈良北は接戦制して3回戦進出!<春季大会>

2024.04.26

【春季奈良県大会】期待の1年生も登板!智辯学園が5回コールド勝ち!

2024.04.23

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.04.23

【全国各地区春季大会組み合わせ一覧】新戦力が台頭するチームはどこだ!? 新基準バットの及ぼす影響は?

2024.04.24

春の埼玉大会は「逸材のショーケース」!ドラフト上位候補に挙がる大型遊撃手を擁する花咲徳栄、タレント揃いの浦和学院など県大会に出場する逸材たち!【春季埼玉大会注目選手リスト】

2024.04.22

【和歌山】智辯和歌山、田辺、和歌山東がベスト8入り<春季大会>

2024.04.22

【九州】神村学園、明豊のセンバツ組が勝利、佐賀北は春日に競り勝つ<春季地区大会>

2024.04.23

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.04.23

【全国各地区春季大会組み合わせ一覧】新戦力が台頭するチームはどこだ!? 新基準バットの及ぼす影響は?

2024.04.05

早稲田大にU-18日本代表3名が加入! 仙台育英、日大三、山梨学院、早大学院の主力や元プロの子息も!

2024.04.02

【東京】日大三、堀越がコールド発進、駒大高はサヨナラ勝ち<春季都大会>

2024.04.12

東大野球部の新入生に甲子園ベスト4左腕! 早実出身内野手は司法試験予備試験合格の秀才!