試合レポート

東海大相模vs明豊

2021.04.01

元二塁手が大エース石田隼都を盛り立てる影のMVPへ。サヨナラ打の小島大河の成長の足跡

東海大相模vs明豊 | 高校野球ドットコム
サヨナラで優勝を決めた東海大相模

 春夏通じて初めての優勝を目指した明豊を下し、10年ぶりの優勝を東海大相模が掴んだ。

 8回終わって2対2の同点の展開で延長も視野に入っていた9回、東海大相模は先頭の深谷 謙志郎の内野安打からチャンスを作る。9番・石田隼都の送りバントなどで、東海大相模は一死満塁にした。この場面で3番に座る小島大河がショートへ痛烈なライナーをはじき返す。明豊・幸修也も懸命に飛び込みグラブに触れたが、打球はセンターへ転がりサヨナラ。東海大相模が10年ぶりに春の日本一に輝いた。

 今大会は表の立役者といえば、今大会無失点の大エース・石田隼都。その石田の持ち味を大きく引き出した捕手の小島は影の立役者といっていいだろう。驚きなのは、小島は捕手としての公式戦の経験がほとんどないことだ。

    昨秋まで3番・セカンドで出場していた小島は、1年生の冬から少しずつ練習を重ねていた経験もあり、今大会は正捕手を託された。遠投95メートルと突出した数字ではないが、捕球してから送球に入るまでの動作が早く、決勝戦のイニング間の送球では手動ながら1.73秒をマーク。それ以外は二塁送球は1.8秒台をマークしていた。強肩を活かしてスローイング1.8秒前後をマーク。ストッピングも長けており、石田をはじめとした強力投手陣のボールもきちんと止めていた。

 そんな小島の力量、取り組みぶりはチームメイトもしっかりと認めていた。

 「キャッチャーとしての経験は少ないですが、冬場に沢山の練習をしていたので、安心感がありました。良いキャッチャーだと思います」(門馬功

 「今日の試合でも腕振って来いと言われましたが、やっぱり頼りになる存在です」(石田隼都

 しかし小島は昨秋、捕手としての公式戦のほとんどやい。最も苦労したのは配球だった。
 「練習試合の時に指導者の方にアドバイスをもらいましたし、自分でも動画を見たりして配球に関しては凄く勉強しました」

 心掛けていることは投手の特長を活かすこと。ここに関しては明豊戦で2番手で登板した求航太郎は、「ピッチャーの良さや性格の部分まで理解してくれたうえで、上手くリードしてもらえました」とコメントをしている。今大会、東海大相模が失点したのは3点のみだが、その一役を小島が担っていたといっていいだろう。

 その代わり小島は、今大会の通算打率.200と苦しんでいたのだが、小島本人が語ったのは周囲への感謝の言葉だった。
 「打てなかったことは悔しかったです。ですが、その代わりにみんなが打ってくれたので、僕は守備に集中することが出来ました」

 それでも3番として出場し続けた最後は決勝の舞台で優勝を決めるサヨナラ打を放ってみせた。喜んだ小島も試合後は次の大会へ切り替えていた。

「ここで終わりではないので、切り替えて次の大会に臨みたいと思います」

  春季神奈川県大会は4月10日より開幕する。多くのチームが春の大会に向けて新たな一歩を踏み出している。優勝した喜び、達成感を胸に、明日から東海大相模も新たな一歩を踏み出していく。


史上最弱チームから準優勝。川崎監督が語る明豊のチームマネジメント

 一方、あと一歩で頂点を逃した明豊。川崎監督は「東海大相模さんは泥臭い野球をされていていましたが、手本になるチームでした」と優勝した東海大相模を称賛。その上で、「ウチも今できる全力をすべて出し切ったと思います」と決勝戦を振り返った。

 今振り返れば、初戦の東播磨戦は点数の取り合いとなるシーソーゲームだった。その試合では東播磨の走力を警戒するあまり四死球が増えたが、自慢の守備陣は無失策。そこが勝敗のポイントとなったと東播磨戦後に川崎監督も振り返っていた。

 しかし、そこからは投手を軸とした堅守を武器にしながら大会屈指の注目校とされた市立和歌山智辯学園。そして中京大中京との連戦を見事に制して準優勝まで駆け上がった。この堅守ぶりについては「キャッチボールからしっかり取り組んで、取れるアウトをしっかりと取る。当たり前のことを当たり前にやることだと思います」と語っており、あくまで凡事徹底の精神の末に磨かれたものだと説明。

 ただこの守備力については、決勝の東海大相模戦でも及第点を与えることはしなかった。
 「ここで出来たと満足してしまえば、もっと成長することが出来ません。だから球際をはじめもっと守備は磨いていきたいと思っています」

 そして明豊が今大会を通じて見せてきた戦い方の特徴は、ベンチのメンバーを含めた総力戦で戦うスタイルだ。初戦の東播磨戦こそ、相手の走塁が想像以上にプレッシャーがあったことで誤算が生じ、「次戦に向けて起用やタイミングは考えたい」と語っていたが、市立和歌山戦以降は、川崎監督の采配がハマっていく。

 市立和歌山戦では好投手・小園健太を攻略するのが困難だ思えば「調子の良い左打者に多く打席が回るように」と1番に黒木日向を抜擢。続く智辯学園戦では、エース・西村王雅を想定したうえで、「どうすれば打線がつながるか」を念頭に置いたうえで選手の状態を見極めて、1番は幸修也主将を置くといった、1つの狙いをもって打線を毎試合ごとに組んでいった。

 「4番らしい4番や中軸を打てる選手がいるわけではないので、あまりこだわりを持たずに繋ぐ野球を考えています」ということが全ての根底にあるが、今大会は見事にはまっていった。

 投手起用に関しても同様だ。準決勝の中京大中京戦が終わった後に、投手起用について聞くと「普段のコミュニケーションだけではなく、顔つきや練習での雰囲気。性格、ボールの質などいろいろ考えたうえで判断をしています」とコメント。

 もちろん試合の状況を見ながら継投の順番は考えるところがあるが、対戦相手との相性など様々な要素を見て考えた末に川崎監督は選手を起用し、試合を勝ち抜いてきた。その中で、「選手それぞれが任された役割を全うしようとしてくれたから好ゲームが増えました」と大会を総括した。

 日本一まではあと一歩だった。そのあと一歩のために「これまでやってきたことを継続して積み重ねたいです」とコメントした川崎監督だが、メンバーをこれだけ使うことの真意は何なのか。

 「選手によって適材適所があると思いますが、全員で戦うことで選手の中で『こんな武器があれば試合に出られる』と思ってもらえれば競争が高まる。その競争がチームを強くするので、出来るだけ多くの選手を出せればと思っています」

 幸主将は最後に「史上最弱という言葉があったから結果を残せたと思います。ただ東海大相模さんの優勝インタビューの景色を目に焼き付けて、この負けがあったから優勝できたと思えるような敗戦にしたいです」と意気込みを語った。日本一悔しい敗戦を経験した明豊が再び夏の甲子園で、全員野球を見られることを楽しみにしたい。

(取材=田中裕毅

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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