鳥取城北vs三島南
なぜ21世紀枠出場の三島南は鳥取城北を渡り合える試合運び、好守備を見せることができたのか?
植松麟之介(三島南)※写真は2020年秋季大会
秋季大会ではベスト4まで勝ち上がって選抜の切符をつかみ取った中国地区代表・鳥取城北。対するは静岡県大会ベスト4だったが、強豪・静岡を破るなど快進撃があった21世紀枠・三島南。両チームの一戦は三島南が先にゲームを動かした。
2回、5番・山田駿のヒットをきっかけにチャンスを作ると、一死三塁から7番・富岡創の犠牲フライで三島南が先制。先にペースを握ったかのように思われたが、鳥取城北が黙っていなかった。
5回に3番に座る注目打者・畑中未来翔のタイムリーに加えて、守備の乱れで鳥取城北が3点を取り返し逆転。三島南は6回に4番・小堂湧貴のタイムリーで1点差に詰め寄ったが、9回にマウンドに上がった2番手・前田銀治が鳥取城北につかまり3失点と勝負あり。鳥取城北が6対2で三島南を下して、選抜での初勝利を掴んだ。
試合後に三島南に向けられた大きな拍手。大健闘を行い、強烈な印象を残した。
最後まで粘り強い試合展開を実現できたのは、先発の植松麟之介の力投ぶりだ。サイドスローの植松はストレートが120キロから130キロほど。他の投手たちと比較しても決して速球派投手ではない。変化球も大きく曲がるカーブ、スライダーが100から110キロほどで、タイプとしては技巧派投手になる。
そんな植松が甲子園という全国の舞台で8回投げて被安打10ながら、失点はわずか3点。粘り強い投球が出来たが、まず対戦した鳥取城北の打者はどう感じていたのか。
「相手に流れが行きかけたところで点数を獲れたからよかったですが、変化球が多くて途中からフライアウトが増えてしまってしまいました」(畑中)
変化球主体の技巧派投手の術中にはまる時はフライアウトが増えるが、この試合で植松が取った24このアウトのうち、10個はフライアウトとほぼ半分。植松の投球は上手くはまったといってもいい結果ではないだろうか。植松はバックの守備陣に感謝の言葉を述べていた。
「今日は変化球が厳しいところを突き過ぎましたが、変化球が打たれたら外野の奥まで運ばれることがほとんどなので、外野は前もって後ろに守ってもらっています。だから思い切って投げることが出来ます」
植松の投球を支えるのは、野手のポジショニング、確固たる守備力があって初めて成り立つ。また守備面の壁でまず直面するのは、打球速度についていけないことだ。今日の三島南の守備陣は鳥取城北の強打者たちの打球に順応し、難なく打球処理ができていた。これは冬場の準備が大きく生きていた。2安打を放ち、快足ぶりと投げても最速143キロをマークした前田銀治はこう語る。
「甲子園が決まってからは現役の大学生が練習を手伝ってくださって、ノックの時は今まで以上に厳しい打球を受けてきました。さらにはあえて高いフライを打ってもうらうなど、送球ミスをしないよう、ストライク送球を心がけてきました。こうした練習の中で、速い打球や処理が難しい飛球に慣れることが出来たので、今日の試合でもしっかりと守ることが出来ました」
すべては甲子園を想定して。練習の質と意識を高めてノックを受け続けてきたことで、甲子園で粘りの守備を展開することに繋がった。
「100%の力を出すための準備を大切にする練習」をテーマに毎日を過ごし、甲子園でも発揮した三島南。周到な準備によって全国のレベルの私学に渡り合ったことは、大きな自信になっただろう。そして、県大会、東海大会を目指して戦っている静岡の球児たちにも大きな刺激となったはずだ。
(取材=田中裕毅)