試合レポート

狭山ヶ丘vs昌平

2020.08.23

狭山ヶ丘が初優勝!今後埼玉の勢力図を変えることはできるか?

 どちらが勝っても初優勝、メットライフドームで行われる決勝は前日浦和学院との激闘を制した昌平対勢いに乗る狭山ヶ丘というカードとなった。全国的に見ても神奈川と共に一番遅い代替大会の決勝となるが、有終の美を飾るのはどちらか。

 注目の先発だが狭山ヶ丘はエース清水竣介(3年)が連投、一方の昌平はエース宮坂陸希(3年)ではなく右スリークウォーターの鈴木駿介(3年)が登板し試合が始まる。試合は意外な展開となる。

 昌平のスタイルといえば初回から先頭の千田泰智(3年)が出塁してかき回し、どこでも一発が出る2~6番が長打で走者を返すというのがパターンだ。だが、この日は中学時代武蔵狭山ボーイズの同級生であった狭山ヶ丘・清水を千田が意識し過ぎたのか第一打席は三球三振に終わり今大会初めて初回先頭打者でヒットを打てなかった。それでも、続く角田蓮(3年)がレフトフェンス直撃の二塁打を放ちチャンスメイクするが、3,4番が連続三振に倒れアウトは全て三振で奪われ昌平はいつもと違う形で試合に入った。

 するとその裏、今度は昌平の守備が乱れる。

 狭山ヶ丘は1回裏、昌平・鈴木の立ち上がりを攻め、一死から2番・川俣勇気(3年)が左中間へヒットを放つと、人工芝のピッチで打球が跳ねセンター千田は頭を越され二塁打となる。ここで続く正高が右中間へタイムリーを放つと、またしても千田が目測を誤り、さらにカバーに入った吉野創士(2年)もファンブルする間に正高奏太(3年)は二塁へ進む。4番・清水が四球を選び一死一、二塁とチャンスを広げるが、続く和田啓佑(3年)はセカンドゴロに倒れる。セカンドは一走・清水にタッチをしに行き併殺を狙うがタッチできずファーストだけアウトにしたのだが、三塁コーチャーに見えていなかったのかチェンジと勘違いし、二走・正高が三塁を大きくオーバーランした所で挟まれてしまう。結局狭山ヶ丘は1点でこの回の攻撃を終える。

 一方の昌平は2回表にもこの回先頭の吉野哲平(3年)がレフト前ヒットを放つと、今度は狭山ヶ丘のレフト金子がその打球に頭を越され二塁打となる。続く沼生隆汰(3年)がきっちりと送り一死三塁するが後続が倒れまたしても無得点に終わる。

 するとその裏狭山ヶ丘は一死から7番・阿部隆之介(3年)がセンター前ヒットを放ち出塁すると、続く小山秀斗(2年)もレフト前ヒットを放ち一死一、二塁とする。二死後、1番・金子侑渡(3年)が左中間へ2点タイムリー三塁打を放つと、なぜかピッチャーがホームのカバーに入っておらず、本塁への返球をバッテリーがお見合いをしてしまい後逸する。その間に打者走者・金子が一気に本塁を狙う。タイミングは微妙であったが本塁はアウトになり狭山ヶ丘は2点でこの回の攻撃を終える。

 決勝の硬さからかミスを連発し早くも3点差をつけられた昌平は、3回表一死から1番・千田がファースト前へ絶妙のセーフティ―バントを決め出塁する。一走・千田は盗塁に失敗し二死となるが、続く角田が四球を選び出塁すると、3番・吉野創が左中間へ二塁打を放つ。さらにレフトがファンブルする間に一走・角田が長躯ホームインし1点を返す。


 昌平は2回で先発鈴木を諦め3回から2番手・川野紘也(3年)へスイッチする。だが、川野はこの回先頭の川俣にライト前ヒットを浴びると、その後二死を取ったものの4番・清水、6番・平賀尊(3年)を歩かせ二死満塁としてしまう。昌平ベンチはたまらずここでエース宮坂を投入する。宮坂は期待に応え後続を抑え味方の反撃を待つ。

 昌平は4回表にも一死から6番・沼生がセンター前ヒットを放ち出塁すると、続く今井海渡(3年)がライト線へ二塁打を放ち一死二、三塁とするが、後続が共に初球を凡退し無得点に終わる。

 ピンチを凌いだ狭山ヶ丘は4回裏一死から9番・宮下愛叶(2年)がショートへの内野安打で出塁すると、続く金子が四球を選び一死一、二塁とする。二死後、ワイルドピッチで走者はそれぞれ進塁し二死二、三塁とすると、3番・正高のサードゴロをサードが後逸し狭山ヶ丘が5対1とし主導権を完全に握る。

 それでも昌平は5回表、この回先頭の千田がファーストゴロエラーで出塁すると、一死後3番・吉野創がレフト前ヒットを放ち一死一、三塁としチャンスを広げる。ここで4番・渡邉翔大(3年)が犠飛を放ち1点を返すと、さらに続く吉野哲がレフト前ヒットを放ち二死一、三塁と追加点のチャンスを迎えるが後続が倒れこの回の反撃も1点で終える。

 昌平は最終回も先頭の千田がショートゴロエラーで出塁すると、一死後吉野創が四球を選び、一死一、二塁とチャンスを広げるが、後続が倒れ万事休す。

 エース清水は連投ながら最後まで粘り強く投げ抜いた狭山ヶ丘が5対2で昌平を下し悲願の初優勝を飾った。


 まずは昌平だが、この日はとにかく先発に宮坂を立てなかったことと最後まで守備のミスが響いた。おそらく、昌平ベンチはミドルスコア以上の展開を予想していたのであろう。だが、決勝戦メットライフドームで登板することを考えるとかなりリスクのある選択だった。守備の時間が長くなれば必然的に攻撃のテンポも生まれない。事実この日長打は昨日と同数でありヒットは昨日を上回っているが、最後まで打線はつながらず集中打が生まれなかった。

 前日から無安打の主砲・渡邉の不調も大きかった。昨日の浦和学院戦で消耗してしまったのかこの日はチーム全体がやや精彩を欠いた。能力的には申し分ないメンバーの集まりであっただけに最後の結果は悔やまれる所であろう。これにより一昨年の夏ベスト4から始まった千田、渡邉、吉野哲などの1年生トリオも見納めとなる。吉野創は残るが、昌平の黄金世代がごっそりと抜けることとなる。昌平という校名になってから史上初の決勝進出、東和大昌平時代を含め初めて浦和学院を倒すなど歴史を塗り替えた世代であったが、あと一歩届かなかった。

 そして狭山ヶ丘だが、今大会のMVPは間違いなくエースで4番の清水であろう。西部地区一回戦から戦い大会が佳境を迎えたベスト8の所沢商業戦からは全てエース清水が先発し、狭山清陵戦以降の4試合は全て完投している。少し担ぎ投げのような印象もあるが、角度があり真上から投げ下ろす独特のフォームから投じる高めの直球と低めに落ちる変化球にどの相手も苦しんでおり、強打の昌平打線も例外ではなかった。だが、筆者は何度も述べているがこのチームは決して清水のワンマンチームではない。3~6番に昨夏の経験者が並ぶ打線は大会序盤から決勝まで安定していた。

 そしてこのチームを一番引っ張っていたのは弱冠29歳の平澤監督である。平澤監督は帝京OBで現役時代は日本ハム杉谷選手と二遊間を組んでいたそうだ。この優勝を恩師である前田監督に報告するかは迷っていたが、まだまだ20代の若手監督は昨秋の時点で埼玉県のナンバーワンを公言していた。選手達も秋の時点で負けて泣いておりその本気度を感じた。こういうチームが優勝するのだ。その姿勢を改めて感じた。狭山ヶ丘が今後埼玉県の勢力図を塗り替えることができるかは29歳の熱血漢にかかっている。

 最後に、コロナ禍のなか感染者を一人も出さず今大会が無事に最後まで行えたことが何よりの収穫だ。それは、未曽有の事態にもかかわらず先手で対策を講じていった大会関係者と保護者や生徒たちの協力があってこその結果だ。また、当初の予定では日程がずれ込めば8月25日から新学期が始まる所もあり、大会を途中で打ち切ることも想定されていた。そんな中準決勝以降の試合でメットライフドームを無償提供してくれた西武ライオンズのおかげで中止の心配をする事もなく、何よりこの大会で上位進出を目指す選手達のモチベーションになった。色々な方のご尽力があり大会が出来ている。現状では今秋も観客を入れて大会を行うことは難しいであろう。この状況で今後も大会を行うことの意義を改めて選手達は感じなければいけない。

(記事=編集部

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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