樟南vs鹿児島工
「もっとノックを打ちたい!」・鹿児島工・堂山
鹿工・堂山
樟南は3回裏、無死一三塁として併殺の間に1点を先制した。
5回裏は二死三塁から暴投で追加点を挙げる。まともな得点機はこの2回だけだったが、虎の子の2点を、左腕エース西田恒河(2年)を中心に粘り強く守り抜き、鹿児島工打線に本塁を踏ませなかった。
鹿児島工の試合前のシートノックを担当したのが背番号20の3年生・堂山司鵬だ。昨秋の県大会では外野のみの担当だったが、今大会はシートノック全てを任された。初戦の錦江湾戦はサイドノックだったので、この試合が「シートノッカー」としての「デビュー戦」だった。
テンポが良く、それでいて力強い打球を次々と繰り出す。「ちゃんと打たないとノックが締まらないから」と最後のキャッチャーフライもしっかり打ち切った。「堂山ノック」の成果で鹿児島工は良い守備のリズムが作れた。1回裏、ライトのファールフライを原ノ園直主将(3年)がダイビングキャッチしたことでチームも波に乗った。三塁手・川路紘平(3年)のところへは三塁線の鋭い打球が飛んだが、好捕を連発した。
「この前、エラーしたのを見られて、狙われてるんじゃないのか?」
ベンチから堂山がヤジる。初戦の錦江湾戦でエラーをしたので川路は今週、練習の後で堂山に個人ノックを打ってもらった。得点こそ奪えなかったが「守備から攻撃のリズムが作れている」と確信できる場面が再三あった。
だが「守備だけでは勝てない」現実も思い知った。樟南は2度しかなかったチャンスをものにした。鹿児島工は8回走者が出塁し、うち5回は得点圏に走者を進めたにも関わらず得点できなかった。チームのために「グラウンドでもっとノックを打ちたかった」思いをかなえられなかった悔しさで言葉を詰まらせた。
元々は一塁手でプレーしていたが、1年生の冬季に福留龍一・前監督に勧められてノックを打つようになった。最初は打撃練習のつもりでノックを打っていたが「チームを裏方で支える」ことにより大きな魅力を感じた。「きのう捕れなかった打球が、きょう捕れるようになる」のを見るのが何よりのやりがいだった。
「試合で実際にある打球を日頃から打ってくれるので安心して守れる」と川路は言う。敗れはしたがチーム全体の守備が引き締まっていたのは「間違いなく堂山のおかげ」と言い切った。
卒業後は就職する予定だが「野球の指導者」になりたい夢もある。高校野球も捨てがたいが、自分がかつて硬式の少年野球で育ったように、小中学生を教えることにも魅力を感じている。高校時代から筋金入りの「名物ノッカー」ぶりで野球少年を鍛える姿が目に浮かぶ。
ベンチ入り20人はすべて3年生で臨んだ今大会。厳しいノックを打って、厳しい言葉を浴びせてイヤな思いをさせたかもしれないが、ノックバットを通じて仲間と心を一つにできた。「卒業したらバラバラになるけれど、ずっとつながっていられる仲間に出会えた」と思えた高校野球生活だった。
(取材=政 純一郎)