都立武蔵野北vs都立田無
都立のドクターK・武蔵野北の一井、夏に向けて奪三振11
都立武蔵野北の好投手・一井日向汰
昨年の7月10日、強豪・明大中野八王子は都立田無の健闘の前に土俵際まで追い詰められた。結局6-5で明大中野八王子が逆転サヨナラで勝ったものの、都立田無の奮戦は、高校野球ファンに強い印象を残した。
あれから1年経った7月11日、[stadium]都立田無グラウンド[/stadium]に、好投手・一井日向汰を擁する都立武蔵野北を招いて、練習試合が行われた。
都立田無にとってこの日は、昨年は新チームに代替わりする日であったが、今年は両校ともこの試合が初の練習試合になっている。コロナ禍で外出自粛の中、「外を走れと言うわけにもいきませんので……」と田無の内田光治監督は語る。ただLINEで生徒から来た質問に答えたりし、筋肉を増やすなど、意識を高く自主トレーニングをしてきた生徒もいたという。都立校の場合、3~5月は全体の練習が全くできず、6月に入っても、15日から限定的に始まったような状況だった。そのため、「最初の1週間は、土に慣れることから始めました」と都立武蔵野北の原壮一監督は言う。
そういう状況だけに、まず両校の仕上がり具合が気になったが、それ以上に注目したかったのは、都立武蔵野北の左腕、エースの一井日向汰の投球であった。都立武蔵野北は、秋は1次予選で敗退したものの、初戦は都立農業・都立東村山・都立府中の連合チーム相手に奪三振15.2戦目の都立紅葉川戦は敗れたものの、奪三振9を記録している。最速は138キロ程度だが、カットボールに近いものも含め、複数のスライダーと、チェンジアップなどを駆使し、三振を奪える投手である。
立ち上がり、一井はやや不安定であったが、初回を無失点で切り抜けると、その裏、都立武蔵野北は1番・横山右京が振り遅れ気味ながら、三塁線を破る二塁打で出塁すると、3番・中島海斗の左前安打でまず1点。その後も2回に1点、3回には一井自身の二塁打などで1点、4回は横山のこの試合2本目の二塁打などで1点を追加する。
一井の投球は2回からさえ始める。2回表は四球が1個あったものの、3つのアウトは全て三振。ボールが都立田無の打者のバットの上を通過することが多く、球が伸びている。そこにコースギリギリに落ちるスライダーを投げてくるので、打者は手を出さざるを得ず、三振が多くなる。一井は3回、4回、5回と毎回奪三振2ずつを記録して、三振の山を重ねる。
都立田無の3番・服部由聖
しかしながら球数も多く、後半になると、都立田無の打者も合い始める。7回表には、5番・石澤寛太の中前安打を皮切りに、四球、敵失で無死満塁となり、併殺の間に石澤が還り、田無が1点を返した。
8回、9回も田無は安打を記録したが、さらなる追い上げはならず、一井はさらに奪三振2を追加して、結局この試合、奪三振11を記録した。
武蔵野北打線は8回裏にも、横山のこの試合3本目となる二塁打などで3点を追加して、8-1で都立武蔵野北が都立田無に快勝した。
都立武蔵野北の原監督は一井のこの日の投球について、「今までで一番良かったです」と語る。今年初の実戦登板で、立ち上がり不安定だったものの、来週に始まる大会に向けて、順調に仕上がっているといった感じだ。一井は、「最初は力んだところがありましたが、変化球中心に変えてから落ち着きました」と語る。コロナによる自粛期間中、「走り込みなどは、していません」と語り、どこか飄々とした感じがあるが、プロへの思いもあり、志望届提出も考えているとのことだ。まずは、夏季大会での投球に期待したい。
一方敗れた田無の内田監督は、「久しぶりの試合で、うまくやろうとし過ぎて、ミスが出ました」と語る。それでも、一井投手の球威が後半少し落ちると、対応していたので、基礎的な力はあるはずだ。後は、準備期間はあまりに少ないが、どこまで仕上げることができるかだ。田無は西東京大会の1回戦で東京都市大等々力と対戦し、勝てば、日大三と対戦することになる。「先をみずに1戦1戦です。でも三高と戦いたい気持ちはあります」と内田監督は語る。
試合前後、ホームベースを挟んだ両校の選手たちは、帽子をとってお辞儀をするだけで、声は出さない。コロナ時代の特別な夏が始まる。
(取材=大島裕史)