試合レポート

花咲徳栄vs浦和学院

2019.10.06

ライバル同士の”ガチンコ”対決!

花咲徳栄vs浦和学院 | 高校野球ドットコム
髙森陽生(花咲徳栄)

 花咲徳栄浦和学院、埼玉の雌雄を決するガチンコ対決が準決勝で実現した。この対決となると、昨年の春季大会決勝以来だが、その時は浦和学院が6対5サヨナラで花咲徳栄を下している。だが、この時は共に関東大会出場を決め、夏のAシードも決めていた。決勝はあくまで関東大会の順位決めのための消化試合の様相を呈し、どちらかといえば花咲徳栄がそのような戦い方をしていた。甲子園をかけたガチンコ対決となると、一昨年夏の決勝で対決した時以来となるが、その時は花咲徳栄が浦和学院に5対2で勝利し、花咲徳栄はその後、甲子園で全国制覇を果たした。

花咲徳栄が前の試合でもエース髙森陽生(2年)の好投に打線も井上朋也(2年)の一発などで大量点を奪い、聖望学園を一蹴するなど万全なのに対し、浦和学院は新チーム1年生が多いこともあり、地区予選や県大会でも初戦で苦戦した。今回の対戦はそれもあり、下馬評では花咲徳栄が優位と言われていたが、ライバル対決は何が起こるかわからない。しかも、毎年秋季大会はベスト8終了後、国体中断期間があるので、ほぼ1週間空いた状態で準決勝を迎える。その間に対戦相手の対策を十二分に立てることができ、チームの勢いや各選手の状態も1週間で微妙に変化する。さて今回はどちらが勝つか。

 さっそく浦和学院が仕掛けてきた。先発は、花咲徳栄がエース左腕の髙森、一方の浦和学院はエース三奈木亜星(1年)ではなく、美又王寿(2年)が登板する。花咲徳栄サイドとすれば面食らったであろう。そんな中試合が始まる。

 試合は序盤から花咲徳栄・髙森、浦和学院・美又の両投手が好投し、ロースコアの静かな展開となる。

 最初にチャンスを掴んだのは花咲徳栄であった。

 3回表、花咲徳栄は一死から9番・小林虹希(2年)が三塁線を破る二塁打を放つと、さらに相手の中継が乱れる間に打者走者・小林は一気に三塁まで進み、一死三塁と絶好の先制機を得る。だが後続が倒れ無得点に終わる。

 一方の浦和学院は4回裏、この回先頭の吉田瑞樹(1年)がショート強襲ヒットを放ち出塁すると、一死後、6番・藤井一輝(1年)の送りバントに対し、髙森の一塁への送球が逸れ一死一、二塁とチャンスが広がる。だが、続く金丸斗南(2年)が併殺に倒れ無得点に終わる。

だが、花咲徳栄も5回表、一死から7番・栗島駆(2年)がセンター前ヒットを放ち出塁するが、続く髙森がショートライナー併殺に倒れるなど、2回表に続き2度目の併殺と浦和学院にお付き合いしてしまう。

 先制したのは浦和学院であった。


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美又王寿(浦和学院)

  5回裏、この回先頭の樋口結希斗(2年)がレフト前ヒットを放ち出塁するが、続く美又の犠打が失敗に終わるなど二死一塁とチャンスは萎んだかに思われた。だが、2番・里飛鳥(2年)がフルカウントからライト前ヒットを放ち二死一、三塁とチャンスを広げる。さらに、この場面、ライト・井上が一塁を大きくオーバーランした打者走者・里を刺すべく一塁へ送球したのだが、判定はセーフとなる。納得のいかないファースト・中井大我(2年)が一塁塁審へアピールをすると、その僅かな隙を突き、樋口が一気に本塁を狙う。ファースト・中井は全く気付かず、これがセーフとなり浦和学院が1点をもぎ取る。

 一方の花咲徳栄は、その後も打線がなかなか繋がらず浦和学院・美又を捉えられない。7回表には一死から4番・井上がレフト前ヒットを放ち出塁すると、続く中井のファーストゴロをファーストが二塁へ悪送球を放り、一死一、二塁とチャンスを広げるが、6番・渡壁幸祐(2年)はこの日3度目となる併殺に倒れ得点を奪えない。

 花咲徳栄は8回表にも、二死から9番・小林がセンター前ヒットを放ち出塁すると、続く南大輔(2年)がレフトフェンス直撃の二塁打を放ち二死二、三塁とするが後続が倒れまたしても無得点に終わる。

 花咲徳栄にとっては嫌な流れであったが、この日もエース髙森が踏ん張った。制球重視ということもあり直球はMAXで130kmほどであったが、両サイドを丁寧に突く好投を見せる。1点リードを許した6回以降も決して気落ちすることなく、9回まで浦和学院打線をノーヒットに抑え味方の反撃を待つ。

 だが、この日は浦和学院・美又が実に素晴らしい投球内容であった。美又が崩れるとすれば四死球からなのだが、この日は制球が良く、強打の花咲徳栄打線に対してもMAX140km直球を武器に8回まで無四球無失点で抑え、浦和学院1点リードのまま試合は最終回を迎える。

 ライバル対決は簡単には終わらなかった。

 9回表、花咲徳栄は一死から、4番・井上がショートへの内野安打を放ち出塁すると、続く中井も四球を選び、一死一、二塁とする。さらに、6番・渡壁も死球で出塁し一死満塁とチャンスを広げる。

ここで浦和学院・森監督はエース三奈木へスイッチしようとするが、マウンドの美又がそれを拒否する。この場面、甲子園の仙台育英戦で小島和哉と森監督のやり取りを思い起こした。あの時は小島の足が攣っていたこともあり、結局交代させたのだが、今回は上級生の意地に賭けたか浦和学院ベンチは美又の続投を決意する。だが、美又は一死満塁から7番・栗島を追い込みながら犠飛を浴び1対1同点とされると、続く髙森の初球がボールとなった所でマウンドをエース三奈木へ譲る。三奈木は後続を抑えるが、同点で試合は延長戦となる。


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三奈木亜星(浦和学院)

 迎えた10回表、花咲徳栄は一死から1番・南がレフトフェンス直撃の二塁打を放ち出塁すると、続く浜岡陸(1年)もセンター前へポトリと落ちるヒットを放ち、一死一、三塁とチャンスを広げる。さらに3番・田村も四球を選び、一死満塁で4番・井上とこの試合最大の山場を迎える。井上は一発もあるが、併殺も多い選手である。ここでどちらが出るか注視していたが、井上は冷静であった。きっちりとチームバッティングに徹しライトへ犠飛を放ち花咲徳栄が1点を勝ち越す。

 だが、まだ1点差、浦和学院も裏攻めであり十分チャンスが残されている。

 浦和学院はその裏、この回先頭の樋口がセンター前ヒットを放ち出塁する。続く途中出場の松村海季(1年)はバントで送るかと思われたが、浦和学院ベンチはここでエンドランを仕掛ける。だが、結果はサードゴロ併殺に終わり万事休す。後続も倒れ、花咲徳栄が2対1で浦和学院を下し関東大会進出を決めた。

 まず浦和学院だが、この日は先発の美又が好投し、ロースコアに持ち込みしかも裏攻めを取っている。浦和学院にとってこれ以上ない試合展開であり、試合も総じて浦和学院ペースで進み花咲徳栄をあわやの所まで追い込んでいた。それだけにこの敗戦は悔やんでも悔やみきれないであろう。最終回の継投タイミングは結果論であり責められないが、同点とされた場面の配球はややバッテリーの冷静さが欠けた印象を受けた。追い込んでいただけに相手の待ち球を外せば、あるいは結果も違ったかもしれないだけに、今後はそのあたりが課題となるであろう。また、1点ビハインドで迎えた10回裏も、この日2安打で相手も嫌がっていた2番・里まで打順を回せば、まだわからない展開であっただけに、このあたりの攻め方も今後への課題か。

とはいえ、新人戦当初のスタメンは、ほぼ1年生という状態で始まった新チームは、そこから2年生が少しずつ増えていき、旧チームからも主軸・里はもちろんだが、この日好投した美又や好走塁を見せた樋口を含め、5人と過半数を占めるまでになった。このあたりは上級生の意地であろう。森監督は今後も1,2年生を競わせることで春以降を戦う事になると思うが、元々三奈木を筆頭とした才能ある1年生を多く擁するだけに未来は明るいであろう。

 一方の花咲徳栄だが、この日は負けてもおかしくない内容であった。それでも、最後ライバルに勝ち切るあたりはさすがだが、そういう展開まで持ち込めたのは、エース髙森の好投あってこそ。セルフジャッジで貴重な先制点を与え、打線も10安打こそ放ったが、この日は3併殺と精彩を欠いた。今後、関東大会レベルになると打線、投手陣共にレベルが上がり、髙森が打ち込まれることも考えられる。それだけに、髙森以外の投手陣の整備や打線の強化は課題だ。センバツ出場へ向け、関東大会までにまずは”甲子園組”以外の選手達の底上げ、投打にチームとしてのレベルアップが求められる。

(記事:南 英博

 

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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