星稜vs仙台育英

今井秀輔（星稜）　写真：共同通信

　前日、智弁和歌山の強力打線を相手に延長14回を投げ抜き、3安打、1失点に抑えた奥川恭伸（3年）が投げないことは想像がつくが、リリーフでいつ出てくるのか、という恐怖感は1998年にリーグ戦、日本シリーズを制した横浜の守護神、佐々木主浩に近いものがある。

　1回裏、仙台育英は1番中里光貴（3年）が左中間に二塁打を放ち、2番がバントで送って1死三塁の場面を迎える。3回戦の敦賀気比戦で仙台育英は1点を追う6回裏、1死一、三塁の場面、スクイズで同点に追いついているので、この場面でのスクイズは十分考えられたが、3番入江大樹（2年）が投手ゴロ、4番小濃塁（3年）の四球で一、三塁となったあと5番千葉蓮（3年）が三塁ライナーに倒れ無得点に終わる。

　奥川のことを考えなければ1点ずつ取りにいけたが、1点でもリードされたら奥川が出てくる可能性がある。そういう恐怖感が1点ずつ取る作戦を捨て、強打でビッグイニングを狙う作戦に走らせたのではないか。

　星稜打線は2回以降、仙台育英にそういうことを考える暇を与えなかった。2回表、1死走者なしから7番岡田大響（3年）が左中間を破る二塁打で出塁し、8、9番が四球で歩いて満塁としたあと、1番東海林航介（3年）が初球をライト前に運んで先制点を挙げる。

　さらに1死満塁の場面は続き、2番今井秀輔（2年）が内角球をコンパクトに打ち返すと打球はレフトポール際に飛び込む満塁ホームランとなり、早くも5対0と大差がついた。もし力んでスイングを大きくしていたら右から左に強く吹く風に乗ってファールになったと思う。振り幅を抑えてフォロースルーも抑える、言い換えれば「欲望を抑えることで最高の結果がもたらされた」と言っていい。

　3回には先頭の7番岡田が内野安打で出塁すると、四球と内野安打で1死満塁とし、打席に立ったのは1回と同様、2番の今井。初球を振り抜くと打球は風にも乗ってレフトフェンスを直撃する二塁打となって7点目が入り、3番の知田爽汰（2年）の犠牲フライで8点目が入り、勝負の行方が見えた。

　星稜の先発、荻原吟哉（2年）のストレートは最速でも136キロだから速くはない。威力を発揮したのがスライダーとチェンジアップという逆方向の変化球だ。とくに多投したのがチェンジアップ。たとえば5回裏、2死二塁の場面で2番宮本拓実（2年）に対したとき、荻原はチェンジアップを続け3ボール2ストライクにしたあと、真ん中高めにスライダーを投じて空振りの三振に仕留めている。

　スライダーもチェンジアップも同じフォームから投じ、チェンジアップは途中までスライダーと同じような軌道をたどるので、見極めがつきにくい。速さはなくてもコントロールと工夫があれば強力打線でも抑えられる。そういう見本となった投球である。

　反対に仙台育英の投手陣はこの日登板した伊藤樹（1年）、大栄陽斗（3年）、笹倉世凪（1年）、鈴木千寿（3年）のストレートがいずれも140キロ以上を計測したが、伊藤が3四球、鈴木が2四球を与えるなど制球難が目立ち、17失点を許してしまった。それでも、一人エースでなく複数の投手陣で連戦をしのぐという最も今日的なテーマに挑む姿は好感が持てた。伊藤と笹倉が1年なので来年以降の巻き返しに期待したい。

星稜　打撃成績

星稜　投手成績

仙台育英　打撃成績

仙台育英　投手成績

（記事＝小関 順二）