白井vs都立小岩
成功体験で成長したい白井、潜在能力の高い小岩に挑んで学習
小岩・渡辺壮太郎君
千葉県のニュータウンとも言われている白井市は人口にして6万人強というさほど大きくはない街である。行政的には2001年に白井町から市となった。東京都心からは約25キロ離れているが、北総線が開通したことで、一気に東京のベッドタウンとして発展していった街でもある。どうかすと過疎になりかねない要素もある土地ながら、一気に都心としての佇まいを備えてきてはいるが、一方で未開発の土地も多いというのが現実だ。
そんな土地だけあって、白井高校も学校から約1キロ離れた地点ではあるが、第2グラウンドとして野球部専用球場を保有している。現在は1、2年生で選手10人と女子マネージャー2人という小世帯である。それだけに、広いグラウンドをやや持て余し気味でもあるというのが正直な印象だ。東京都の教員を務めていたが、野球指導の現場環境を求めて、グラウンドの確保できるところということで、千葉県に再挑戦して赴任することとなった櫻井剛監督。周囲の中学校や少年野球チームに声をかけて行きながら、徐々に部としての形を整備していっている。こうして、このグラウンドを十分に活用できるようにしていきたいという思いで日々取り組んでいる。
櫻井監督自身は福島県の安達の出身ではあるが、最初は東京都の採用試験をクリアして教員となった。東京都の教員として最初に赴任していた都立小岩で野球部監督を務めていた。その後任に永山から異動して来た西悠介監督は、早稲田大での同期ということもあって気心が知れていた。そんなこともあって、自分がある程度基礎を作ったところを安心して任せられる形になったとともに、自身が再挑戦して千葉県へ移ったという経緯がある。それだけ、高校野球を指導していくということに対しての思いは強いとも言えよう。
都立小岩を引き継いだ西監督は、当初は選手や保護者たちの下町気質や、自分が目指そうとしている野球スタイルと、選手たちの求めている者との差異があり、いささか戸惑いもあったという。しかし、それでも熱心に指導を続けていく中で、徐々に自分の思いが浸透してきた。早稲田実で自分が体験してきた質の高い野球を少しずつでも伝えていかれるようになってきた。
こうして、都立小岩そのものも野球部としての形がしっかりと育まれてきている。
そんな背景を見て行くと、改めて高校野球というのは、指導者たちの熱い思いに支えられており、それをどうやって、今の高校生たちに伝えていくのか、その葛藤の場でもあるということも見えてくる。と同時に、櫻井監督のように、「これまで、何一つ褒められたり、評価されたことがない生徒たちを、野球を通じて、どんな形でもいいから成功体験を味あわせてあげたい」という思いも強い指導者たちの情熱、思いもほとばしっている。
白井・中村虎之介君
現実に、この秋の白井は、「準公式戦ではあるが、久しぶりに背番号付けたユニフォームを着た試合で勝つことが出来た」と、先日の近隣大会で勝利したことを素直に喜んだ。そして、それが一つの自信となって、この日の試合でも、シートノックの様子から見ても、明らかに力としては上と見える都立小岩に対して、中盤大きくリードされながらも、諦めないで終盤に食い下がる姿勢を見せたことも一つの成長だ。しかも、5回は投げて欲しいと予定していた先発の照屋君が、3回に打球を受けて退かざるを得ない状態になりながら、遊撃手から急きょリリーフした鈴木颯斗君が何とか投げてつないだ。最後は、「2イニングくらいなら投げられる」と、前日の試合での疲労が残っている中村君も踏ん張って投げた。
暴投が多かったり、送球ミス、捕球ミスなどもあったがこうしたプレーの一つひとつに対しても、その都度ベンチから櫻井監督が、そうなった要因を叫んで指導していた。選手たちは、プレーしながら、それを反復していくことで、少しずつ階段を上っているというところかもしれないが、確実に「進歩していく」実感は得られているのではないだろうか。そんなところが伝わってきた。
2試合目は、白井が10人しかおらず、投手が限界ということで5回を限定して行われた。
1年生の山本君が投げたが、「初めて5回投げられたのではないかな」と櫻井監督は言っていた。序盤には力みもあってか制球が定まらないところもあったけれども、投げていくうちに整えられていって、最後のイニングは0に抑えられた。櫻井監督も、そのことを評価していた。
「力の差があることは、分かっていましたから、これまでだったら簡単に20点くらいとられていたところです。それを踏ん張れたのは成長だと思います」
甲子園という頂点があるのだけれども、こうして、自分たちの現場での“今”を見つめながら、一つひとつ前へ進んでいくこと。これこそが、部活動としての高校野球の姿だとも言えよう。そして、こういったすそ野があるからこそ、甲子園という檜舞台が支えられ、輝いているのだということを再度認識させられた。
「今年のチームは、伸びしろとしてはまだまだあると思うので、これから一冬超えて、もう一つ大きく化けていきたいし、それだけの力はある」
都立小岩の西監督は現在のチームをそう見ている。エースで4番の大谷(おおや)君のポテンシャルの高さにも期待している。また、この日もランニング含めて2本の本塁打を放った渡辺君の能力の高さも評価していた。さらには、三塁手として引っ張る主将の永嶋君、確実な守りを見せていた橋詰君らチームとしての安定感はあった。
この秋は、ブロック予選の代表決定戦で國學院久我山に6回表までリードしていながら、7回に自滅でビッグイニングを許してしまったという反省がある。そのメンタル面を強化していくのも、この冬の課題となっているようだ。来春にどこまで成長している姿を見せてくれるのか、楽しみなチームである。
(取材・写真=手束 仁)