都立文京vs啓明学園
緊迫の投手戦は無失点のまま延長に突入、11回に文京が4点奪い決着
仲亀烈太(都立文京)
両先発投手が持てる力を発揮しあって、緊迫の好投手戦となった。お互いに譲ることなく10回までともに0に抑えてきていた。しかも、その内容も素晴らしかった。
身長187cm72kgの都立文京の仲亀烈太君は、黒縁眼鏡をかけておっとりしたように見えるが「えいっ!」と気合いもろとも投げ込んでくる力投派。その気持ちが最後まで途切れなかったのも素晴らしかった。長身で角度もあるが、ストレートはかなり力があるなという印象だ。10回まで打者37人に対して、6安打2四球で7奪三振。三塁まで走者を許したのも2回の一度だけというものだった。
啓明学園の二宮君も力強い投球で、10回まで打者34人に対して被安打わずかに2、与四球も1であとは四球一つと失策の走者が一人というもの。三塁へ進めたのもやはり2回に四球とバントに竹村君に安打されて一三塁となった、その回のみだった。奪った三振は6というように、力でねじ伏せに行くというタイプではないが、球そのものはいい回転のボールで「球が走っている」という表現がぴったりするような内容だった。
こうして、両投手がまさに、ベストに近い投球を見せあって、お互いに突破口がないという状態。こうなってくると、ベンチとしてはタイブレークのことも意識していかなくてはならないから、選手もなかなか代えられないということになる。
そんな状況で迎えた11回、都立文京は先頭の8番新谷君が中前打して出塁。この試合、チーム3本目の安打である。続く仲亀君のバントを思い切って二塁送球したが送球が乱れて無死一二塁。都立文京としては願ってもないチャンスで、梨本浩司監督としても、「あの場面では、バントはまったく考えていませんでした。ここで打たなかったらダメだと思っていました」というくらいの、最も期待している1番青木君だ。その青木君は期待に応えて、左前へ運んでついに均衡を破った。送球間に二塁に進んだ青木君は満面の笑顔だった。都立文京ベンチは、もうも大騒ぎで盛り上がった。そして、そんなムードがさらに追加点を導いた。二死となったが、二宮君は警戒して4番伊能君は四球。これで満塁となったが、今度は慎重になりすぎた二宮君は続く松岡君にも四球を与えて押し出しとなってしまう。あれだけ入らなかった得点が、こうして連続して入ってしまうのも野球の不思議である。
続く齋藤大和君は、ここまで右翼の守備でも再三攻守を見せていたが、バットでも結果を出して右前へ2点タイムリー打を放った。これでたちまち4対0となった。
その裏、啓明学園も2番からの好打順で四球後、岡田君、石川君が連続安打して無死満塁。試合はまだどうなるか、わからないぞという追い上げを示したが、ここから仲亀君は気合を入れ直して連続三振を奪って二死とする。それでも、粘る啓明学園は7番荒谷君が右前打して、三走の幡野君が帰り、続いて中田君も本塁を狙いかかったものの、返球を見て躊躇。それが、三本間に挟まれる形になって、最後は都立文京の竹村捕手が岡田君にタッチアウトで試合終了となった。バックアップに回っていた仲亀君は、その場で諸手を挙げてガッツポーズ。まさに、劇的な形でのゲームセットとなった。
お互いが力を出し切った試合だったが、都立文京の梨本監督は、「試合の流れとしては、完全に負けゲームですよね。それでも勝てたのは、よく守ったということでしょうね」と、8回の無死での菊地君の大きな中飛を配送して好捕した青木君のプレーや、きわどいライン際も好捕していた斉藤大和君など外野手の好判断も勝因に挙げていた。
啓明学園はプロ野球のヤクルトでも活躍し、広島のコーチや四国アイランドリーグでの監督経験のある芦澤真矢監督が就任して3年目。練習環境も整い、選手たちも徐々に集まり出した。4番で三塁の石川大樹君などは強い打球に対しても胸ではじいて落として、強い方で矢のような送球で走者を刺すという、昭和の高校野球前世紀の名門校の内野手のようなプレーで光っていた。華麗さはなくても、きっちりと練習を積み上げてきたチームという印象だった。確実にチーム力はステップアップしており、また一つ東京都の高校野球に注目すべきチームが現れたなという話題性もありそうだ。来春が楽しみなチームでもある。
(文=手束 仁)