済美vs高知商
済美・山口が3試合連続完投!ベスト8進出
済美は中央学院を5対4、星稜をタイブレークの末に逆転サヨナラ満塁ホームランで13対11の歴的勝利を挙げ、高知商は山梨学院を14対12、慶応を12対6の乱戦で退け、3回戦に進出している。過去の戦績を見れば、当然この試合は点の取り合いになって終盤までもつれると予想したが、結果は「もつれる」以外はまるで違った。
済美の先発、山口直哉(3年)はこの日最速の142キロのストレートを主体にピッチングを組み立て、変化球は100キロ台のカーブとチェンジアップのような落差を見せる縦変化のスライダーがあり、これらを「外角」と「低め」に集める丁寧なピッチングを見せた。高知商が記録したゴロアウトは14、ここに山口の苦心の跡がよく見える。
高知商の先発、北代真二郎(3年)はストレートの最速が130キロ台中盤という技巧派。変化球は90~100キロ台のカーブ、110キロ台中盤の縦・横2種類のスライダーがあり、これらを丁寧に低めに集めて山口とは逆に4回までにフライアウトを7個量産した。打ち気にはやる済美打線を翻弄するようにこれでもかというくらい緩い変化球を根気よく低めに集め、ストレートの速い山口の7個をしのぐ9個の三振を奪っているところにも北代の真価が見える。
試合は北代が思うようにフライアウトを取れなくなった5回から動いた。5回裏、済美は2死走者なしの局面から1番矢野功一郎(3年)が右中間に三塁打を放ち、2番打者が四球で出塁すると3番芦谷泰雅(2年)がレフト前にヒットを放ち先制。7回には先頭打者の矢野が一塁手のエラーで出塁、2番中井雄也(3年)が右中間に二塁打を放って矢野を迎え入れ、さらに無死二塁の場面で芦谷のバントをピッチャーの北代が三塁に投げ記録は野選、一三塁の場面で4番打者の併殺打で三塁走者が生還して3対0と引き離した。
高知商は7回裏に2本のヒットと1つの四球を絡めて1点を返したが、山口は最後までストレートがコンスタントに140キロ台を弾き出し、高知商打線に反撃の糸口を与えなかった。10点以上の点の取り合いになった星稜戦でも10回以降の4イニングで山口は1安打しか与えていない。このときはストレートが最速145キロを計測し、最後は力でねじ伏せた感があるが、高知商戦ではヒットを打たれながら「低め」と「外角」に球を集め、ピンチを脱した。
両校には注文もある。私はストップウォッチを持参し、打者走者の各塁への到達タイムを見て走力を判定している。俊足の基準にしているのは「一塁到達4.3秒未満、二塁到達8.3秒未満、三塁到達12秒未満」というタイム。これをクリアしたのは高知商が2人3回、済美が1人1回でわかるように人数、回数とも少ない。さらに、高知商は「一塁到達5秒以上、二塁到達9秒以上、三塁到達13秒以上」という〝アンチタイムクリア″が3人6回もいた。このうちの1人は内野ゴロのとき一塁ベースまで走っていない。ベース手前で引き返してしまったのだ。甲子園大会では極めて異例なので強く印象に残った。
四国勢がかつての〝野球王国″に返り咲くためには土佐高校が元祖と言われる全力疾走する姿を取り戻すことが絶対に必要である。勝ち上がった済美には準々決勝でそれを期待している。
(記事=小関 順二)