中央学院vs習志野
サヨナラ劇を呼び込んだ中央学院の粘り打ちと堅い守備
千葉県で、最後に夏3連覇を成し遂げたのが1996年~1998年の市立船橋だ。その市立船橋を率いていたのが、習志野を率いる小林徹監督だ。そして当時、市立船橋の甲子園メンバーだったのが、中央学院の相馬 幸樹監督。まさに師弟関係といえる対決が準決勝で実現した。先発投手は習志野・佐藤将聖(3年)、中央学院・大谷拓海(3年)ともに背番号1が先発した。
この試合の注目は大谷拓海である。5月下旬に頭に打球が直撃し、戦線離脱。登板復帰したのは2日前の準々決勝の八千代戦だった。まだ本調子ではないかもしれないが、大谷が万全なピッチングをしない限り、中央学院の勝利はない。しかし大谷はやはり好調時と比べるとほど遠い。
ストレートは常時130キロ中盤~138キロ、125キロ前後のスライダー、110キロ前後のカーブが中心。それでもコーナーギリギリに投げ分けながら、2回まで無失点に抑えていたが、3回表、9番佐藤の二塁打から始まり一死三塁となって、2番角田勇斗(1年)が詰まりながらも中前適時打を放ち、1点を先制。さらに4回表、二死満塁で1番根本翔吾(2年)の1ボールの場面で投手交代。大谷はライトへ行き、右サイドの西村陸(3年)が登板する。しかし西村は四球を与えてしまい、押し出し四球で習志野が1点を追加する。
追う中央学院は5回裏、一死一、二塁から8番手塚が左前適時打を放ち、1点を返す。だが、6回表、習志野は連打でチャンスを作り、9番佐藤の犠打で一死二、三塁のチャンス。1番根本がストレートを逃さず、ライトの頭を超える適時二塁打で2点を追加し、4対1と点差を広げた。7回表、二死三塁から7番鈴木空吾(3年)のセーフティバントで1点を追加。ここまで習志野が理想的な形で追加点を入れることができていた。
しかし中央学院は、昨秋の関東大会から花咲徳栄の野村佑希、選抜では明徳義塾の市川悠太とプロ注目の好投手を攻略した打線である。7回裏、ついに牙をむく。
先頭打者の池田翔(3年)が本塁打を放ち、1点を返した。主将の一打で勇気づいたのか、その後、無死満塁のチャンスを作る。9番長沼 航(2年)が右犠飛を放ち、1点を返し、なおも一死一、三塁のチャンス。さらに1番宇田 周平(3年)も左犠飛を放ち、4対5と1点差に迫る。2番平野 翔(3年)の場面で盗塁を仕掛け、二死二塁となって2番平野が降り抜いた打球はセンターの頭を超える適時三塁打でついに同点。試合を振り出しにもどした。
8回裏、中央学院は先頭打者の大谷がヒットで出塁。ここで習志野は2番手に古谷拓郎を投入する。この日の古谷は一段と気合が入っていた。右オーバーから繰り出すストレートは常時140キロ~146キロと140キロ中盤を何度も計測。この日はスライダーの割合が少なく、ほとんどがストレート。全力を振り絞って投げていた。ギアが入ったときの古谷のストレートは絶品だった。8回、9回と無得点に終わり、延長戦となった。
延長10回表、習志野は無得点に終わり、10回裏、中央学院の先頭打者は青木優吾(1年)。青木は高めに浮いた140キロのストレートを振り抜き、左翼席へサヨナラ本塁打。中央学院がサヨナラ勝ちで決勝進出。レギュラーとして試合に出場を続ける1年生が期待に応えた。
中央学院が勝利できたのは粘り強い投球を見せ、8回以降無失点の力投を見せた西村とそれに応えたバックの守備、そしてリードされても動じないメンタリティの強さだろう。
7回まで5対1と習志野リードと理想的な展開。だが、中央学院は焦ることなく、チャンスをうかがっていた。同点に追いついた7回裏の攻撃はそれぞれの打者が粘り打ち。簡単にアウトにならず、習志野の先発・佐藤を追い込んでいた。中央学院の破綻がなく、予測能力が高い守備は全国クラスのものがあった。内野手はゴロの追い方、グラブ捌き、外野手は前後への打球の追い方など基本的な守備スキルはもちろん、特に素晴らしかったのは内外野の連携プレー。中央学院の選手はとにかく素早い。広いグラウンドに対しても素早い連携と肩の強さで進塁を防ぎ、極め付きは8回表、二死二塁から左前安打を浴び、素早い連携プレーで勝ち越し点を防いだプレーは値千金のものがあった。
好守備により次々とアウトになる習志野は自分たちの思い通りの野球ができない。終盤以降、早打ちをして簡単にアウトになったりと受け身な野球となっていた。
相手を苦しめる徹底とした戦略を得意とする習志野に対し、粘り強い試合運びで、ここぞで畳みかけ、習志野ナインを翻弄し、打ち破った中央学院野球。決勝戦でも自分たちの野球を貫き、初の甲子園出場をつかんでいく。
(文=河嶋宗一)