試合レポート

奈良女子大附vs大淀

2018.07.21

灼熱のシーソーゲーム。空中戦を制したのは奈良女子大附属

 第100回全国高等学校選手権記念奈良県大会は、大会5日目を迎えた。

 100回記念の年であり、平成最後の大会となる今回は、全国的な猛暑が続いている。5日目の今日も、奈良県予選会場である[stadium]佐藤薬品スタジアム[/stadium]では気温37度を記録した。

 大会5日目、第2試合に登場するのは奈良女子大附属高校と大淀高校だ。去年の大会では大淀は1回戦敗退、奈良女子大附属も2回戦でシードの奈良大附属に苦杯を飲んでいる。ともに去年の成績を乗り越えるために、初戦を勝利し、勢いに乗りたい。

 両校の先発はともにサウスポー、大淀は小兵の塗田駿二(3年)、奈良女子大附はエースで四番、大黒柱の森本友(3年)がマウンドに登る。

 先制したのは先攻を取った大淀、一回、一番の中川瑠惟(3年)がライト前に鮮やかにはじき返すと、間髪入れずに盗塁し、二塁を陥れる。すると一死のち三番遊撃手の小林聡良(2年)の打球を奈良女子大附の野手が一塁へ悪送球、試合開始の浮き足立ったところを捕らえた大淀がまずは主導権を握る。

 その後も5番投手の塗田が一、二塁間を破るヒットで追加点を奪い、大淀は初回に2点を先制。スタートダッシュを決めた。

 追いつきたい奈良女子大附だが、大淀先発の塗田をなかなか捉えることができない。低めにコントロールされた変化球を詰まらせては凡打を繰り返す。二回には6番田中佑和(3年)が左中間の奥に運んで三塁打を放つが、後続を断たれてしまう。

 大淀はその後も三回に3番小林の本塁打、4番坂口惇将(3年)、5番塗田の連打の後に6番沖中がセンターに犠牲フライで2点を追加。四回には打者7人の猛攻で3点、五回にも9番岡田侑真(2年)がレフトに飛び込むソロ本塁打で1点と試合を優位に進めた。

 対する奈良女子大附も四回、5番の辻本瑞喜(3年)がヒットで出塁すると、前の打席で三塁打を放った田中がまたも左中間に大飛球を飛ばす。これがスタンドに飛び込み、本塁打。大差のついた展開でもあきらめな
い。

 試合の潮目が変わったのは五回だった。時刻は午後一時近く、一日でもっとも気温が上がるころあいだ。猛暑が、試合の流れを急展開させることは高校野球ではよくあることである。しかし、それがここまで露骨に出た例もないだろう。

 五回、大淀は1点を追加し、点差を7点とした。コールド圏内に入ったことがこの後の伏線だったのかもしれない。その裏に、大淀は投手を塗田から、四回までライトを守っていた、エースナンバーを背負う沖中龍星(3年)にスイッチした。

 その裏の奈良女子大附は一転攻勢にでた。マウンドにあがったばかりの沖中のボールを見極めに見極め、三者連続で四球を選ぶと、流れがはっきりと変わり始めた。夏の猛暑のなかライトのポジションについていた沖中はすでにはっきりと疲れを見せていた。制球が定まらない。ストライクゾーンにボールがいかない。2番大塩佳正(3年)に四球を与えた後、マウンドを降り、ライトに回っていた塗田が再度マウンドに上がる。しかし、この時点ですでに塗田も疲れを見せていた。37度の直射日光は体力を奪っていき、繊細な投手の指先をぶれさせるものなのである。

 無死満塁の場面での再登板だった塗田は奈良女子大附3番の漆谷を三振に打ち取るが、ここからが苦悩の始まりだった。4番森本の打球はレフトに上がったが、その打球の目測を誤り、落球。スタートを切ったランナーが次々に生還してくる。続く辻本は三振に打ち取ったが、6番の今日絶好調の田中にはセンター前
にはじき返され、7番の友村にはライト前に運ばれる。この回、大淀は都合6点を取られ、8対8。一気に追いつかれた。

 六回も、塗田苦心の投球は続く。四球で先頭大塩を出すと漆谷にはレフト前に運ばれ、森本にはセンターへの犠牲フライを許し、2点を献上し、10対8、逆転される。気温が殺人的になりつつあるなか、154センチの小兵、塗田はその中心にいた。

 しかし、気温に苦しめられるのは奈良女子大附も同じである。大淀が苦しければ当然奈良女子大附も同じように苦しい。8回、マウンドを守っていた奈良女子大附のエース森本が乱れる。先頭の岡田こそ、セカンドゴロに抑えたが、一死より中川にヒットを打たれると、今日2個目の盗塁を許す。すると2番の北浦がヒットで続き、1点差に詰め寄る。

 気温に苦しめられていたのは森本もだ。小林に四球を出した後、坂口の犠飛で二死一塁三塁の場面で迎えた塗田の打席では、暴投で同点に追いつかれてしまう。10対10、両校とも二桁得点を記録した。

 気温は8回時点でも37度。両校の選手は時折給水、あるいは担架でベンチまで運ばれたあと、しばし試合中断の後に復帰を繰り返すなど根性を見せ、勝利にむけてひたむきにプレーを続けた。

 迎えた九回。大淀はついに再逆転を果たす。7番森勇貴(3年)がレフトのエラーで出塁し、二塁を陥れると、西岡がレフト前に鋭い打球を飛ばして11対10とした。

 九回裏、奈良女子大附の前に立ちはだかるのは、7回より塗田から継投した一塁手の中川。ここまでは奈良女子大附の攻撃を抑えてきた。

 しかし、奈良女子大附もただでは終わらない。先頭打者の6番、田中が三振。だが、ここで大淀のキャッチャー坂口がこぼし、一塁への悪送球で田中が出塁。7番友村もヒット。8番、途中交代の清水がセンター前にぽとりと落とし、あっという間に同点に追いついた。

 9番本村稜(1年)が送りバントを決め、一死二塁三塁。ここで大淀は満塁策を選択し、2番大塩で勝負する。一死満塁。

 その大塩が、最後に決めた。レフトに高々と上がった打球を大淀の左翼手東元駿(2年)のグローブに収まる。友村が本塁を踏んだ。11対12。奈良女子大附がサヨナラで暑い試合に終止符を打った。

 気温は最後まで37度。両校の選手たちは複数人、脱水症状に陥ったり、担架で運ばれたりもした。しかし、それでも最後までそれが原因で交代になった選手はいなかった。全力プレーを続けた選手たちに拍手を送りたい。

(レポート=編集部

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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