三重vs日大三
定本 拓真(三重)が高低を生かした投球で日大三打線を完封!
高低を生かしたピッチングで日大三を抑えた定本 拓真(三重)※写真提供 共同通信社
初戦の由利工を5対0で撃破した日大三の戦いぶりを見て、この試合も5点くらいの点を取り合う展開になると考えたが、三重の先発、定本拓真(3年)の高低を生かした軟投に日大三の強力打線が沈黙した。定本はストレートが最速145キロを記録する本格派として昨年秋から評判になっていた。
当然、ストレートを中心とした配球が予想されたが、この試合の最速は137キロ。このストレートを見せ球にして主体となったのがカーブ、スライダーなどの変化球。
球種に加え、これらを投じるときのフォームが日大三打線を迷わせた。スカウト的目線で見ればテークバックに向かうとき上体が反り返って左肩上りになるフォームは評価されない。しかし、この真上からの腕の振りが変化球に角度をつけた。「真縦」と表現したいくらいカーブ、スライダーが鋭角に縦変化し、これが正確にストライクゾーンを通過した。
昨年秋の東海大会準決勝、東邦戦では2番手で登板し、2つの暴投を記録している。公式戦の与四死球率(1試合・9イニングに与えた与四死球数)は7.9で奪三振率は8.8。それがこの試合では与四死球、奪三振ともに2個。こういうピッチングは日大三でも予想できなかっただろう。
日大三の先発、井上広輝(2年)は定本とは対照的にストレートが最速144キロを計測し、スライダーは横に大きく変化する球筋。由利工戦はストレートが最速147キロを計測し、縦変化のチェンジアップを主体に5個の三振を奪ったが、この試合ではゼロ。5回まで15アウト中11個が内野ゴロという内容を見れば、三振ゼロは井上の技術が三重打線を上回った結果と考えていい。
0対0の均衡が破れたのは6回裏。三重打線は長短打4本を絡ませて井上を攻略、3点を奪うのだ。この攻撃で目立ったのが盗塁。2回裏に二盗を2つ失敗しているので企図自体しづらい状況ができていたが、ヒットで出塁した9番井上裕斗(3年)が1死後に二盗して、2番浦口輝(3年)の三塁打を誘引した。さらに3番曲孝史朗(3年)が142キロのストレートを左中間に二塁打して加点、5番東亮汰(3年)も内野安打で続いて3点目を奪った。
この3点だけなら勝負の行方はまだわからなかったが、7回に三重は打者9人を送る猛攻で5点を奪い、勝負を決した。日大三で惜しまれるのは2番手でなぜエースの中村奎太(3年)を出さなかったのかということ。バッティングのよさが買われて5番・中堅手としてスターティングメンバーに名をつらねていたが、攻撃のときブルペンで準備することはできたはず。しかし、日大三ベンチは林玲介(3年)、河村唯人(3年)をマウンドに送り、失点を重ねた。
ちなみに、この7回の攻撃で三重が記録した盗塁は3個。そして、私が俊足の基準にする打者走者の「一塁到達4.3秒未満、二塁到達8.3秒未満、三塁到達12秒未満」を計測したのは1番梶田蓮(3年)、2番浦口、3番曲の3人(4回)。走力と定本の高低を生かしたピッチングが日大三を圧倒したと言っていいだろう。
(文=小関 順二)