近江vs松山聖陵

　第90回選抜高等学校野球大会の6日目。第3試合はセンバツ初出場の松山聖陵（愛媛）と、3年ぶり5度目の出場となる近江（滋賀）が対戦した。

　2年前の夏に甲子園を沸かせたアドゥワ誠（現：広島）を思い起こさせる191cmの長身から最速144km/hのストレートを投げ下ろす土居 豪人（3年）を擁し、接戦に強さを見せる松山聖陵と、金城 登耶（3年）、林 優樹（2年）の両左腕と1年時から4番を打つ北村 恵吾（3年）を中心に攻守にまとまりがある近江の一戦。

　2回表、松山聖陵は近江の先発・林から6番の今村 広志郎（3年）が一二塁間を破るヒット。7番・松尾 理夢（3年）もレフトへヒットを放ち、二死一三塁のチャンスを作ると9番・土居が低めのボールに対して長い腕を伸ばし、セカンド後方へポトリと落とすタイムリーヒット。幸先よく先制に成功する。

　しかし、2回裏に近江が猛反撃。4番・北村がインローのストレートを振り抜いてレフト前ヒットを放つと、一死後、山田 竜明（3年）が変化球を三遊間へ。続く有馬 諒（2年）も内角寄りのストレートを引っ張り、三遊間を破って同点。さらに二死から木村 龍之介（3年）が低めのボール球の真っ直ぐをレフトへ弾き返して逆転。なおも住谷 湧也（2年）、中尾 雄斗（3年）にも低めのボール球を捉えた連続タイムリーが出て、5対1とした。

　中盤は点の取り合い。近江は3回裏に一死一二塁から有馬がライト線へ適時打。4回裏には二死一二塁から5番・瀬川 将季（3年）が真っ直ぐをライトへ引っ張ってタイムリー。6回裏にはまたも瀬川が二死一三塁から今度は変化球をレフトへ流し、小刻みに1点ずつを加えていった。松山聖陵の土居は自己最速の147km/hを記録するなど球速は十分で、4回からはカーブを交えて緩急も使おうとしたが、コンパクトなスイングで対応する近江打線に攻略され6回途中でマウンドを降りた。

　一方、松山聖陵打線は4回表に大城 優太（3年）、今村、松尾の3連打で1点。7回には二番手の金城を攻め、二死から富里 尚史（3年）、平良 倭麻（3年）の連打と四球で満塁とし、今村の押し出しデッドボールと松尾の内野安打で2点。9回表も一死二塁から平良が変化球に泳がされながらも執念で三遊間を破るヒットを放ち、追いすがったが近江投手陣による林－金城のリレーにかわされた。

　試合を振り返ると、近江が2回に挙げた5得点により、試合を有利に進めることができたわけだが、通常、ビッグイニングといえば長打に四死球やエラーが絡むもの。しかし、近江が5点を挙げた攻撃は長打も四死球もエラーもなし。シングルヒット6本を愚直に連ねて大量得点につなげた。

　近江の各打者を見てみると、長身の相手投手に対しアゴが上がってしまうような高めのボールには一切、手を出さず、低めのボールだけを狙い打ち。ワンバウンドになりそうなほどの低いボールにも手を出していたが、それだけチームとして策が徹底されていた。また、近江は2ケタの13安打を放ったが、そのなかで長打は1本のみ。140km/h超のボールを投げる大型投手からそれだけヒットを打てたのは、大振りするのではなく低いライナーを打っていくように心掛けた結果だろう。

　一時、6点差を付けられた松山聖陵は終盤まで諦めることなく、持ち前の粘りを見せて3点差まで詰め寄った。昨秋は打線が弱いと言われていたがこの試合では近江と同じ13安打。ピッチャーの土居も制球力に不安があったなかで5回までは2四球と堪え、敗れてしまったとはいえ、ひと冬を越えてチーム全体が成長した姿を甲子園という大舞台で見せることができたと言えよう。

（文＝大平 明）