花巻東vs東邦
花巻東サウスポー田中大樹の奇妙な「軌道」
好投を見せた田中大樹(花巻東)※写真提供 共同通信社
花巻東の先発、左腕・田中大樹(3年)の独り舞台と言ってもいい試合だった。
1回表のピッチングを見た限りではストレートは速くても120キロ台だし、変化球も目をみはるようなキレがあるようには見えず、どこで継投するかがポイントだと思った。しかし、2回に5、6番打者が空振りの三振に倒れ、「あれ?」と首をひねった。108キロ、112キロの変化球が何やら奇妙な落ち方をしているのだ。あえて表現すれば「揺れて→止まって→落ちる」という軌道を描いていた。
それでもストレートは速くなく、昨年秋の公式戦の防御率は2.41と普通だ。ついでに言えば、奪三振率5.49、与四死球率3.51も普通だ。それを本人もわかっているのだろう。4回まで15人の打者のうち9人に対してボール球から入っている。「まともに行けば打たれるのでとりあえず様子を見て」という一歩引いた気持ちがあったのだろう。それが5回以降は一変した。21人の打者のうちボール球から入ったのはわずか5人。自信がついた様子がこのボール球の変遷だけでわかる。
持ち球はスライダーとチェンジアップ。スライダーはカウント球として使い、勝負球は徹底してチェンジアップにこだわった。90キロ台から100キロ台のスピードで、前述したように揺れて、止まって、落ちる。東邦の昨年秋の打撃成績は、打率.398が智弁学園の.423に次ぐ今大会出場校中第2位、本塁打23は東海大相模の13本を圧倒的に引き離すナンバーワンである。
その強力打線が執拗に繰り出されるチェンジアップに翻弄され、なす術がない。花巻東ベンチは試合途中、ブルペンに背番号11の伊藤 翼、背番号17の西舘 勇陽を送り、継投の準備に入ったが、これほど完璧に相手打線を抑えれば代えられない。
対する東邦の先発、扇谷 莉(3年)は「最速146キロ」の速球投手として昨年秋から話題になっていた。この日は最速141キロを計測し、数字だけ見れば「片鱗をうかがわせた」が、私は物足りなかった。最も不満だったのはステップの狭さ。ステップで踏み込めないので上半身と下半身で作る「割れ」が不十分で、ストレートが高めに抜けることが多かった。
1回裏、花巻東打線は四死球と相手エラーで先制の1点を奪い、4回は四球と相手エラーで一死二、三塁のチャンスを作り、8番田中(投手)が初球を打って、前進守備の一、二塁間を抜く2点タイムリーを放った。5回を終わった時点で花巻東が東邦を3対0でリードするという展開。ここまでに放ったヒットはわずかに田中の1本だけである。東邦の打撃成績を頭に入れて試合を見た者にはこの試合展開はまったく予想できなかった。
花巻東は6、7、8回に各2安打して2点加え、東邦は6回に1点、9回に単打、死球、二塁打を絡めて2点を奪い、試合はようやく活気を取り戻すが、東邦打線が最後まで田中のチェンジアップを打ちあぐね、花巻東の3回戦進出が決まった。
(文=小関順二)