明徳義塾vs創成館
市川、被安打4完封!明徳義塾、守りで創成館の勢いを封じ36年ぶりの優勝
優勝した明徳義塾
明治神宮野球大会高校の部の決勝戦は、今年の高校野球、最後の公式戦でもある。夏の甲子園では68本の本塁打が量産され、高校野球もこれまで以上のパワー時代が到来したことを印象付けられたが、新チーム結成から間もない、秋の神宮球場では、守りの重要さを改めて認識させられる内容になった。
決勝戦は、ベテランの馬淵史郎監督率いる高知県の明徳義塾と、馬淵監督と同じく、社会人野球の監督経験者で、馬淵監督を「目標とする監督」と語る稙田龍生監督が率いる長崎県の創成館の対戦になった。
大阪桐蔭の失策を得点に結び付けるなどして、勢いに乗って勝ち上がってきた創成館であるが、決勝戦では、失策が失点につながり、不利な展開になった。
1回表明徳義塾は1番・真鍋 陸が遊ゴロ。遊撃手から一塁への送球を一塁手が落球した。2番・田中闘は三振に倒れたが、真鍋は二盗に成功。4番・谷合 悠斗、5番・安田 陸が続けて左前安打を放ち、明徳義塾が1点を先制する。「谷合と安田がチェンジアップをうまく打った」と馬淵監督は語る。「向こうに1、2点取られて、追いかける展開になると決勝戦は苦しい」と語る馬淵監督にとって、貴重な先取点となった。
それでも、創成館の先発、左腕の七俵 陸にすれば、失策でいきなり走者が出たものの、初回を1点だけで切り抜けたことは、そう悪くない立ち上がりであった。しかし、高知大会から四国大会、明治神宮野球大会と1人で投げ抜いている明徳義塾の先発・市川悠太がいいだけに、苦しい展開になった。
明徳義塾は3回表には3番・渡部 颯太の中前安打、準決勝で本塁打を放つなど、当たりが出始めた4番・谷合が左前安打、5番・安田が四球で一死満塁とし、打席には6番・中隈 廉王。中隈は初球にスクイズを決め、明徳義塾が1点を追加した。「1球目からウエストはできないと思って、1球目からスクイズをしました」と、馬淵監督は言う。勝負師・馬淵の采配がズバリ当たった追加点だった。
昨日に続き連投となる明徳義塾の市川について、馬淵監督が「スピードは落ちているけれども、丁寧に投げている」と語るように、140キロを超えるような球は投げないものの、創成館に付け入るスキを与えない。さらに試合後市川が、「苦しい時に打たせて取ることができるので、信頼して投げました」と言うように、野手の好守が連投の市川を救う。
4回裏には創成館の3番・峯 圭汰の低いライナーを明徳義塾の左翼手・谷合がダイブして好捕。5番・松波基の二遊間に当たりを、遊撃手の菰渕太陽がさばき、一塁に素早く送球して刺す。市川は野手の好捕もあって、この回を3球で終える。
見事な戦いぶりを見せた創成館
6回裏には一死後、1番・野口 恭佑が中前安打で出塁し、2番・藤 優璃の打席でエンドランを仕掛けるが、藤は三直に終わり、併殺。反撃の糸口が見いだせない。
7回表から創成館は、今大会好投を続けている変則投法の伊藤 大和を投入したが、「連投をしたことがないので、疲れが出ていた」と稙田監督が言うように、本来の出来でなく、4番・谷合と6番・中隈に安打を打たれ、背番号1の左腕・川原 陸に交代した。川原は7番・菰渕に四球を与え満塁となり、9番・藤森 涼一がうまく流して右前安打。2人が還り、4対0。勝負はほぼ決した。
市川は最後まで気を抜かず丁寧な投球。三塁手の田中が、フェンス際の難しいファールフライを2度捕るなど、野手の好守も続く。
9回裏、4番・杉原 健介が左飛に倒れ、明徳義塾が校名が明徳だった1981年以来、36年ぶりの優勝を決めた。
新チームを作った時、馬淵監督は四国大会を優勝し、明治神宮野球大会で優勝することを目標に掲げた。さらにこの大会の期間中、母親が亡くなったが、通夜にも告別式にも出ることができなかった。「勝負の世界にいたら仕方ない」と語る馬淵監督にとって、優勝は特別な意味があった。「ウィニングボールを墓前に供えたい」と語った。
それでも、勝負の世界では、次の勝負が始まっている。夏の甲子園大会、国民体育大会、そして今回明治神宮野球大会で優勝した馬淵監督にとって、残るはセンバツの優勝である。次の目標も当然そこになる。この秋は市川が1人で投げ切ったが、「2番手、3番手の投手の養成は急務と思っています」と馬淵監督は、課題を語った。
一方創成館は、敗れたものの「思った以上にやれました」と稙田監督は語り、手応えを感じる戦いになった。投手陣は全体的に底上げされ、大阪桐蔭のようなビッグネームにも名前負けしない戦いができた。ただここから全国レベルの真の強豪になるには、「全てにおいてレベルアップしなければなりません」と稙田監督は語る。とはいえ、目指すべきところが、より高くなったことは間違いない、この大会の戦いぶりであった。
来年は、春は第90回、夏はついに第100回となる。シーズンオフとなるこれからの時期をいかに過ごすかで、記念の年の結果は変わってくる。
(文=大島 裕史)
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