広陵vs天理
甲子園のファンを夢中にさせる中村奨成の走攻守
大会新記録となる通算6号本塁打を放った中村奨成(広陵) ※写真=共同通信社
甲子園球場が中村奨成(広陵)一色に染まった感がある。打っても、守っても、さらに走っても、目立つのは中村ばかり。実はこの2試合、イニング間のスローイング(投球練習の最後の球を受けてから行う二塁送球)に大会序盤のような迫力がなくなっていた。さすがに疲れたのかなと思ったが、実戦になると強い。
まず1回表、1死二塁の場面で打順が回ってきた。一塁が空いていることを考えれば四球で歩かせてもいい場面だが、中村良二・天理監督は元プロ野球選手である。勝敗も重視するが選手の育成にはもっと力を入れるという傾向がある。たとえば、バントはするが過剰にしない。そういう〝元プロ″の特性を考えれば「松井の5敬遠」のようなことはしないと思っていた。そして天理の先発、碓井涼太は初球の134キロストレートをど真ん中に投げて、中村はこれをバックスクリーンに放り込んだ。
第3打席は先頭打者として打席に立ち、2ボールからの3球目、今度は外角寄りの134キロストレートを捉えてセンター左のスタンド中段に放り込んだ。体を開いたり、バットを上下動したりせず、外角球を捉えるときはやや体を傾けてボールを捉えにいく。こういうバッティングスタイルはプロ野球の坂本勇人(巨人)に酷似している。
打つだけではないのが中村のすごいところだ。4対4の5回裏、天理は無死一、三塁で5番城下力也(3年)がスクイズバントを敢行。打球はホームベース前の小さな飛球になり、これを中村は猛然と頭から飛び込んでダイレクトキャッチしてしまった。「小さな飛球」と書いたが、飛球と言えるような軌道ではない。これをダイレクトでキャッチした中村のほうが異常なのだ。
6対4と2点リードした7回表には2死満塁の場面で打順が回り、高めの132キロストレートをしっかり上から叩いてレフト線を破る二塁打で走者を一掃。このときの二塁到達タイムは私が俊足の目安にしている8.3秒未満の8.26秒。文句なしである。
この日の4安打を振り返ってみよう。第1打席のホームランは真ん中ストレート(134キロ)、第3打席のホームランは外寄りストレート(134キロ)、第5打席の二塁打は高めのストレート(132キロ)、第6打席のセンター前ヒットは外角ストレート。変化球は過去の試合で秀岳館戦の第2打席で川端健斗のベストボール、縦スライダーをレフト前ヒットにしているように強い。そもそも、緊張感の漂う中村のストライクゾーンに変化球を投げ込むのは勇気のいることだ。こんなに3拍子が高レベルで揃っている選手に出会えるとは大会前にはまさか思わなかった。
天理は打線の分厚さがひときわ目立った。準々決勝で8番を打っていた山口乃義(3年)を2番、7番を打っていた安原健人(3年)を6番に上げ、安原はホームラン1本を含む3安打を放ち、期待に応えている。6番以下の放ったヒット数は9本。これほど上位、下位が安定してヒットを量産するチームは他には広島広陵くらいだろう。古豪の復活に拍手を送りたい。
(文=小関 順二)
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