天理vs明豊
安原、山口の連続ホームラン!天理が明豊との打撃戦を制す
明豊(大分)vs天理(奈良)
強打対強打の前評判にたがわぬ打撃戦になった。先制したのは天理。1回表に1、2番がヒットで出塁し、4番神野 太樹(3年)の四球などで二死満塁にすると6番森本 翔大(3年)がレフト前に運んで2人を迎え入れ、さらに7番安原 健人(3年)、8番山口 乃義(3年)の連続ホームランで大量6点を入れている(安原は3ラン)。
3回戦の神戸国際大付戦では安原が2打席敬遠で歩かされ、後続の山口が一度は三振に倒れ屈辱を味わったが、二度目はライト前に運んで三塁走者を迎え入れている。その2人がこの準々決勝では1回に連続ホームランを放ち、さらに山口は6回にもソロホームランを放っている。
思い返せば神戸国際大付戦では3、4番が10打数1安打(0打点)に対して7、8番が6打数2安打(1打点)と下位打線の好調が目についた。この明豊戦でも3、4番が7打数2安打(3打点)、7、8番が9打数4安打(7打点)と逆転現象が起こり、さらに6番森本の好調も見逃せない。天理の躍進を語るとき、この下位打線の頑張りをまず評価しないといけないと思う。
天理の先発、碓井 涼太(3年)も勝因の1つだ。サイドハンドから最速130キロ台中盤のストレートを投げ込むが、これを速く感じさせるための伏線づくりのほうに惹かれた。逆方向に変化するスライダーとシンカーで打者を揺さぶり、勝負どころで投げる内角へのストレートは135キロというスピードガン表示を上回る力強さで、向かってこようとする打者の踏み込みを封じた。13対3の大差がついた8回限りで降板したのは今後のことを考えれば当然だろう。しかし、9回裏に明豊打線が爆発する。
5番佐藤 祐貴(3年)が初球をレフト前に運び反撃の狼煙を上げると、6番本多 真也(3年)が二塁打で続いて二、三塁。7番が四球で歩いて満塁となり、8番の代打で登場したのが大分大会でヒットを1本も打っていない三好 泰成(3年)。ヒットが打っていないだけでなく打席にも2回しか立っていない。その三好のスイングが力強かった。初球のファール、2球目の空振りとも空気の裂く音が聞こえてくるような激しいフルスイングだったのだ。
今夏、甲子園では06年大会の60本塁打を上回る本数が飛び出し、「飛ぶボールを使っているのではないか」とか、ひどいのは「金属バットを使っているから」という意見まである。確か金属バットの使用は原辰徳さんが東海大相模に在籍していた1974年夏から採用されているはずである。甲子園大会で投手の球が速くなりホームランがたくさん出始めると、世間やマスコミはまずネガティブな理由を探し始める。そういう人にはこのときの三好のバッティングを見せたい。
話が横に逸れたが、この地方大会の打率.000の三好が4球目をフルスイングすると、打球はレフトスタンドに飛び込み、試合の行方は見えなくなった。9番管大和(2年)が左中間を破り、俊足を飛ばしてランニングホームラン狙いの本塁で憤死、と書けば落胆する空気を想像するが、1番三村鷹人(3年)が死球で歩いて攻撃はまだ続く。
二死後、3番濱田太貴(2年)がカーブをライト前に運んで塁上は再び賑やかさを取り戻す。4番杉園大樹(3年)が四球で歩いて満塁。ここで打席が一巡して5番佐藤がこのイニング2本目のヒットを打って2人を迎え入れ、得点は9対13に迫る。塁上には依然として一、三塁に走者がいる。もしホームランが出れば1点差に迫り、三好まで打順が回って満塁ホームランが飛び出せば1イニングに同一選手による連続満塁ホームランという空前絶後の記録まで誕生する。しかし、6番打者が一塁フライに倒れ熱戦は幕を閉じた。
この激しい戦いの所要時間がわずか2時間14分だったことに再度驚かされた。プロ野球は少し高校野球を見習ったほうがいい。
(文=小関 順二)
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