神戸国際大附vs北海
甲子園が阪口(北海)の潜在能力を呼び覚ます
阪口 皓亮(北海)※写真=共同通信社
両校先発投手の能力の高さに驚かされた。神戸国際大附の岡野 佑大(3年)は兵庫大会でチーム最多の37イニングを投げていて、スライダーのキレのよさでも知られた存在だが、北海の先発、阪口 皓亮(3年、背番号10)はまったくの無名と言ってもいい。この阪口がとんでもないくらい凄かった。
降板したあとスカウトに印象を聞くと、今成 泰章・日本ハムスカウトは「(存在は)聞いているけどスピードは141、2キロという話だった。(印象は)投げるだけじゃないところがいいね。まだ伸びそうだよ」と絶賛すれば、苑田 聡彦・広島スカウト統括部長は「(高校球界の)トップランク。何で打たれるんだろうね」と首をひねった。
南北海道大会の成績を背番号1の多間 隼介(3年)とともに紹介しよう。
◇阪口 皓亮 7試合、27回、34被安打、24奪三振、9与四死球、16失点
◇多間 隼介 7試合、22.2回、12被安打、19奪三振、4与四死球、2失点
成績だけ見れば全然大したことがない。しかし、実際に神戸国際大附戦を見た人間にはとてもこの成績が理解できない。苑田スカウトの「何で打たれるんだろうね」は、甲子園球場にいた人間すべての思いでもある。
投球フォームは真上から投げ下ろすオーバースロー。テークバックのときの胸の張りが印象的でストレートの最速は148キロを計測。上背があってストレートが速くて……でもそれだけ、という投手は多い。しかし阪口は縦に鋭く落ち込んでくるカットボールのキレが素晴らしく、コントロールも安定している。どうして南北海道大会であれほど打たれたのかいまだに信じられない。
しかし、この神戸国際大附戦でも降板する4回途中(3回3分の2)まで8安打、1失点と打ち込まれている。ベンチの指揮官には想定内の打たれようだったのだろう。4回裏、一死満塁の場面で1番打者を目の覚めるような146キロのストレートで三振に仕留めると、躊躇なくマウンドに背番号1の多間を送り、多間は2番打者をショートゴロに打ち取った。
対する神戸国際大附の岡野はストレートが最速145キロを計測し、さらによかったのが126、7キロで鋭く横に変化するスライダーと115、6キロのカーブ。この好投手を攻略しようと北海打線は積極的に若いカウントから打っていき、打者走者としては足を緩めず全力疾走を貫いた。私が全力疾走の目安にしている「一塁到達4.3秒未満、二塁到達8.3秒未満、三塁到達12秒未満」をクリアしたのは4人7回。今大会では松商学園に次ぐ多さで、意識の高さがうかがえる。
2回表には4番佐藤 大雅(3年)が1対1からライト前い運んで出塁し、これをバントで送り一死二塁の局面。6番井上 雄喜(3年)が初球の145キロを鋭くセンター前に弾き返して先制点を挙げる。3回には一死から1番鈴木 大和(3年)がセーフティバントを決めるのだが、このときの一塁到達が3.72秒というとんでもないタイムだった。2番打者の三塁ゴロを一塁手が捕球エラーして一、三塁とし、それ以降三振、死球で二死満塁になり、ここで5番渡辺 佑汰(3年)が初球をセンター前に運んで2点目が入る。
神戸国際大附は3回に3番森田 貴(3年)がタイムリー、6回には6番谷口 嘉紀(2年)が左中間にソロホームランを放って同点にして終盤になだれ込む。
7回には北海が送球エラーと併殺崩れで2点奪い引き離しにかかるが、その裏神戸国際大附は前の回にホームランを打っている谷口が一死一、三塁の場面で今度はライトスタンドに放り込んで劇的な逆転ドラマを演じるのである。
無名の本格派右腕が快投で幕を開け、2年生の6番打者が2打席連続ホームランで幕を閉じる――こんな劇的な試合展開はまったく予想していなかった。これがあるから甲子園は病みつきになるのである。
(文=小関 順二)
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