盛岡大附vs作新学院
緊迫したスピードゲームを制したのは盛岡大附
好投を見せた平松竜也(盛岡大附) ※写真=共同通信社
両校合わせた長打が比嘉賢伸(盛岡大附・3年)の放った二塁打1本だけ。これを見ても緊迫したゲームだったことがわかる。
見どころは早くも1回表に訪れる。夏連覇を狙う作新学院は1番相原光星(3年)が死球で出塁すると大きいリードを取って盛岡大附バッテリーを執拗に揺さぶる。打者に集中できない盛岡大附の先発・平松竜也(3年)に対して作新学院各打者は積極的なバッティングを仕掛け、2番添田真聖(3年)が初球打ちで強い打球のレフトフライ、3番鈴木萌斗(3年)が1ストライクからの2球目ストレートをレフト前ヒットで畳みかけると、平松は4番中島淳(3年)にストライクを投げられない精神状態に追い詰められてしまったようにストレートの四球を与え1死満塁。5番七井祐吏(3年)を三振に取るのだが、この球が暴投になって三塁走者が生還、先制点は作新学院のほうに飛び込んだ。
この初回の攻防を見て、作新学院の強さを再認識した。各打者の振りの強さやファーストストライクを積極的に狙い打つ攻撃的精神は今大会の優勝候補の一番手、大阪桐蔭でも及ばない。2回には先頭打者が四球、3回には先頭打者が死球で出塁し、平松の動揺は依然として収まっていないように見えたが、16球中見逃しのストライクが1球しかなかったのが1回にくらべ、2回は14球中3球、3回は15球中3球あり(2~3回にかけて、相原以外の各打者が1球ずつ見のがしている)、ここに油断があったと私には思えた。
2回以降は盛岡大附各打者の強い振りのほうが目立った。余談だが、「強くバットを振る」という行為が今の球界ではトレンドになっているように感じられる。この日の盛岡大附打線では3番植田拓(3年)、4番比嘉賢伸(3年)がそのタイプの双璧なのだが、2人が登場していない2回裏に5~1番打者が出塁してヒットエンドランや盗塁を仕掛け、堅守の作新学院から1点を奪ってしまった。
盛岡大附の先発、平松はストレートの最速が143キロと一定の速さがあり、さらに縦・横2種類のスライダーにチェンジアップを交えた多彩なピッチングを展開、作新学院の強力打線を2回以降、封じ込めた。とくに目立ったのはスターティングメンバーに5人並ぶ左打者の内角に投じるスライダーのキレで、9奪三振のうち6個がこのスライダーによるもの。1回の相原への死球がスライダーなら、唯一の失点の原因になった暴投もスライダーを投げたときのもの。まさに毒にも薬にもなるスライダーがこの日の勝因になったのかもしれない。
5回に盛岡大附が3点を奪ったシーンも再現しよう。一死後、9~3番が3連打する間に今度は作新学院のほうにバッテリーエラーがあり盛岡大附が1点勝ち越し、二死一、二塁の場面では4番比嘉が初球の高めストレートを捉えてフェンス直撃の二塁打を放ち4対1とし、ここで勝負は決まった。
これほどの接戦にも関わらずバントが盛岡大附の1つだけというのは、時代の変化というしかない。今大会初の無失策ゲームで、試合時間は1時間52分。高校野球の手本となるような試合だった。
(文=小関 順二)
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