津田学園vs藤枝明誠
二枚腰、三枚腰の粘り強さを見せた津田学園
藤枝明誠(静岡)vs津田学園(三重)
両校の思い切りのいいバッティングが強く印象に残った。先行したのは藤枝明誠。1回表、2死走者なしから3番がエラーで出塁したあと4番中田悠斗(3年)がレフト前ヒットで一、三塁にし、5番服部恵汰(3年)の3球目に中田がディレードスチールを敢行すると、捕手が二塁に送球するタイミングで三塁走者がスタートを切って生還。ちなみに、このときディレードスチールした中田は二塁ベース手前で静止している。一、二塁間の挟殺プレーに誘い込んででも三塁走者を生還させようという狙いがあったのだろう。
3回終了時点での得点はこのときの1点だけ。本格派の津田学園・水谷翼に対して、藤枝明誠の先発、久保田蒼布(3年)はサイドスローの技巧派。津田学園は散発的にヒットが出るが、スターティングメンバーに6人並んだ1、2年の下級生が打ち切れない。この日津田学園が放った13安打中、下級生が記録したのは5本で、このうちの1本は相手内野手のエラーと言ってもいい打球なので実質的には4本と言っていい。緩急、内外を多彩に使い分ける久保田を攻略するには津田学園の1、2年生には荷が重いのかなと思った。
藤枝明誠攻略の中心になったのは3年生だ。4回に1年生の藤井久大がヒットで出ると、6番久保田拓真、7番水谷がレフト前に弾き返し、併殺崩れで同点に。さらに2死満塁から1番菊地翔矢(3年)が左中間を大きく破る三塁打を放ち4対1と逆転。藤井以外は皆3年生である。ちなみに、このときの菊地の打者走者としての三塁到達タイムは11.66秒という速さだった。
5、6回に藤枝明誠が集中打をつらねて3、2点を挙げると、津田学園は5回裏に水谷が2点二塁打を放ち、6回が終わってスコアは6対6のまま膠着状態に入る。見事だったのは藤枝明誠のピッチャー、久保田だ。6~10回まで四球の走者を1人出すだけの完璧なピッチングを展開。テークバック時に、上げた足がわずかに静止し、これ以降の動きが早くなったり遅くなったりして、津田学園の各打者はタイミングがいかにも合わせづらそうだった。
勝負が決まったのは延長11回裏だ。第3打席で2点二塁打を放った津田学園の7番水谷が先頭打者で出塁し、バントで二進すると1番の菊地が歩かされて一、二塁に。ここで打席に立ったのは。2~4打席で3連続三振を喫している2年生の2番宮木滉生。まったくタイミングが合っていないこの宮木が2-2からの5球目を振り抜くと打球はセンターの頭を越え、二塁走者が還って2時間15分の激闘に終止符が打たれるのである。
私は7月の三重大会2回戦、桑名西戦の11対0(5回コールド勝ち)というゲームを見ているが、このときはこの日のような二枚腰、三枚腰の粘り強さは感じなかった。高校生はわずか3週間でも大きく変わるといういい見本である。
ドラフト候補という視点で見ると、津田学園のキャッチャー、久保田拓真に魅力があった。打撃面では3安打を放って、4、5回のヒットはいずれも得点に絡み、キャッチャーとしては二塁送球の際に見せる強肩が注目の的で、イニング間の最速は1.89秒という速さだった。
(文=小関順二)
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